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安藤ナツ、ラーメンを食べに行く。

 手を洗い、報告書を提出し、客先の嫌味に耐えたナツは、先輩が待つ駐車場へと向かう。


「お待たせしました」


 返事はない。車内は禁煙のはずであったが、窓を全開にした先輩社員は煙草を咥えながら苛々としていた。この一週間、いつもこうだ。ナツは初めから返事など期待していなかった。車にキーを差し、エンジンをかける。


 予定より少し早く作業が終わったので、今週は本社に帰ることができる。ホテル暮らしも悪くはないのだが、日曜日一日だけとは言え、実家で休めるのはやはり気が休まる。


 さっさと高速を使って家に帰ろう。ナツには帰る場所があるのだから。


「安藤。飯、食いに行くぞ」


 ナツは本社に帰った後、ファミレスでも行こうと考えていたのだが、その一言が素晴らしい予定をぶち壊した。


 この先輩社員は、出張先からホテルに帰る際も、何故か一緒に晩御飯を食べようとするのだ。仲が良いわけでもないのに、どうして飯を一緒に食う必要があるのだろうか?


「何処ですか?」

「インター前のラーメン屋」


 逆らうのも面倒くさいと、ナツは大人しくラーメン屋へと車を走らせる。


 それなりにラーメン屋は賑わっていた。店員に進められるがままに向かい合ってテーブル席に座ると、ナツは餃子とチャーハンの並を頼む。先輩社員はチャーシューメンセットと生ビールを頼んでいた。


「なんでラーメン食べんのや?」


 お冷を飲み乾した先輩社員が訊ねた。


「チャーハンが好きなんで」


 これは事実だった。ラーメンよりもチャーハンが好きなのだ、どうしてラーメンを頼む必要があるだろうか?


「ラーメン屋来たら、ラーメンだろ。常識的に考えて」

「チャーハン屋があったら、ラーメンを頼みますよ」


 何故、そんなくだらないことを、勝ち誇ったように言うのだろうか? ナツは面倒臭くなって適当に相槌を打った。


「チャーハン屋なんてないぞ? 見たことあるんか?」

「だから、ラーメン屋でチャーハンを食べるんですよ」


 ナツはお冷を取ると、意味もなくグラスを回して水面を眺めた。脂ぎった先輩社員の顔よりも、氷水は涼しげで、心が安らいだ。


「お前さ、今、仕事中やぞ? その態度はどうなんや?」

「勤務中に生ビールを飲むのは良いんですか?」

「だから、先輩にそういう態度は良くないぞ」


 まさしくその通りだ。正論だ。


 が、ナツは反論する。


「先輩、言いましたよね? 『俺とお前は同期だから、俺が知っていることは、お前も知ってなければおかしい』って。俺と先輩は、先輩後輩じゃあないんじゃあないですか? 先輩の中では」


 水曜日のことだった。いい加減技術部としての仕事を教わろうとした時に言われた台詞である。どうやら先輩社員は中途採用で二年前に入社したらしく、同期と言えば確かに同期であった。無論、ナツの二年間は製造部での経験であり、技術部の仕事については何も知らないに等しい。


 教えるのが面倒だったのか、それとも困るナツの顔が見たかったのかは知らないが、厭味ったらしいその台詞を、ナツはしっかりと覚えていた。


 ナツは執念深い性格をしていた。そして、負けず嫌いでもあった。屁理屈を捏ねるのが大好きで、どんな小さな矛盾も許さず、自らの心が赴くままに素直に意見を述べる正直者でもある。


 要するに、自己中心的な人間だった。


 先輩社員は明らかに怒りを顔に表したが、空気を読んだように店員が生ビールをテーブルに運んで来た為に、それが声や身振り手振りで吐き出されることはなかった。


 会話はそこで途切れた。


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