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安藤ナツ、出張先で働く。

 作業工程は確かに遅れていた。


 まったく同じ工場設備を三つ納入したのだが、二ヶ月に運び入れた最初の一台目を試運転してみると、思ったような動きをしてくれなかったのだ。それは設計の甘さから生じる問題であり、工具の整っていない現地で手直しをすることが難しいものだった。


 当然、同じ設備であるのだから、二台目、三台目もまったく同じ図面で作成されており、一台目と同一の欠陥を抱えてしまっている。


 直径十メートル、優に五メートルを超える高さを持つ設備の一部を解体し、改造する作業は危険を伴う。当初予定していた製造部の引き渡し時期はとっくの昔に過ぎていた。


 が、それらは製造部の人間が起こしたミスと言うわけではない。責めるべきは図面に許可を出した会社の上層部だろう。毎日作業限界時間の二十時まで作業をしている製造部の人間に落ち度があるとは思えなかった。


 酸素溶断機やアーク溶接機を使い、ナツは製造部の指示に従って作業を行った。朝礼や休憩時間の度に先輩社員に作業がないか訊ねるのだが、彼がナツに技術部としての指示を出すことはなかった。不機嫌そうにしているだけで、これと言った交流は何も取れていない。


 その先輩社員はと言うと、顧客との打ち合わせや、提出資料を作成しているらしく、あまり作業現場にやって来ることはなかった。偶に来ては、動かしても問題のない場所を構うのだが、それだけだった。


 当然ながら、そんな先輩社員の評価は悪かった。初日の休憩所で口にしたような、嫌味と言うのも稚拙な製造部叩きを当然のように口にして、自分自身はプレハブ小屋で煙草を呑んでパソコンを叩いているのだから、身体を動かして汗水を垂らしている製造部の人間から見れば遊んでいるにも等しいのだろう。


 ナツもそう思った。


 どうして自分が呼ばれたのだろうか? 本当に人手が必要だったのだろうか? 


 そんな疑問を抱えながら、作業は進んでいく。


 土曜日もいつも通りに二十時に作業が終わった。何とか一台目の改造工事は形になり、月曜日からは再び試運転が可能となった。


 製造部の人間が誰もそのことを先輩社員に報告したがらなかったので、ナツが報告をする。


「先輩。月曜日から試運転ができるようです」

「そうか。じゃあ、帰るぞ」

「わかりました、手を洗って来ますね」

「ついでに、客にも帰るって言って来い、来週の作業報告書も出して来いよ」


 ナツの汚れた手に報告書を押し付け、先輩社員は社用車の助手席に座った。


 ナツが乗って来た車は、製造部の人間が乗って帰ることになった。

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