安藤ナツ、異動する。
「安藤。技術部六課に行ってみないか?」
課長にそんな風に訊ねられたのは二年目も終わる三月のことだった。
技術部六課と言うのは、設備出荷工程の最終段階を任される部署である。再びクーラーで例えるなら、設置したクーラーの試運転を行い、設備の使用方法を説明し、説明書を作成し、お客様に引き渡す部署である。また、試運転の際に出た不適合やトラブルにも対応する必要がある。
明らかに責任が重すぎる部署である。
今も疑問に思うのだが、どう考えても説明書を作るのは技術部六課の仕事ではない。また、設計をした人間でもなければ、作成した人間でもなく、設置した人間でもないのだから、不適合やトラブルが出たとしても、何の責任もない気がしないでもない。
そんな部署に異動なんてしたいわけがないのだが、ナツは所詮サラリーマンである。課長に言われて断れるわけもない。
どうでもいいが、ナツはこの二年間、すべての飲み会を『未成年だから』と言う理由だけですべて断っている。
特に深い理由もなかったが、ナツは酒が嫌いだった。
判断力が低下し、思考能力が落ち、平衡感覚を失うと知りながら、酒を飲む理由がそもそもナツには理解ができなかった。また小さな頃から、赤ら顔で酔っぱらう親戚の大人達を見る度に、人間と言う生き物が矮小な物に思えるのも嫌だった。
やや話が逸れたが、一カ月後の年度明けには、安藤ナツは無事に技術武六課の所属となっていた。
十人程度の部署であると事前に聞いていたが、最初の一週間で挨拶ができたのは課長だけだった。他のメンバーは出張に行っているらしい。
その課長もすぐに出張に行ってしまい、まだ作業内容がわからないナツは一人デスクで資料を読み、頼まれたデータの入力等を行って暇な時間を過ごした。
わかる人にはわかると思うが、職場で仕事がないと言うのは精神的に辛いものがある。誰が責めるわけでもないが、凄まじい針筵感がナツの小さな良心を責めるのだ。
ああ。自分はとんでもない部署に来てしまったらしい。
ナツは初めて働くことに不安を覚えた。
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