安藤ナツ、ホテル暮らしを語る。
あれから二週間が経過した。
信じられないことに、ナツと先輩社員は未だに一緒に仕事をしていた。
人員不足は本当のことだし、納期を過ぎているのも事実。個人の人間関係よりも、仕事が優先されるのは当然のことだっただろう。
忙しさもあり、二人の間にこれと言った問題が起きることもそうはなかったことだけが救いだ。
そんなわけで、誰もが興味ないナツのホテル暮らしをレポート紹介しよう。
ナツが既に一カ月以上生活の拠点にしているビジネスホテルは、まあ、普通のビジネスホテルである。シングル一泊5千円程度。駐車場は無料で、朝食ヴァイキング(ビュッフェと最近は呼ぶようだ)付き。一階にはパン屋とコインランドリーのテナントが入っている。
朝食は六時半スタートで、ナツはサービスが開始すると同時に食堂に入る。八時までに出張先の職場に行く為には七時一五分にホテルを出る必要があるからだ。
ビジネスホテルのヴァイキングなんてたかが知れている。ライスかパン、偶に焼きそばが主食として置かれていて、あとは肉団子、ウインナー、卵焼き、千切りキャベツやレタス、あとは各種ドレッシングやスープ。選択肢は極めて少ない。
千切りキャベツの山を皿の上に作ると、肉団子とウインナーを二つ。コーンポタージュをコップに注ぐ。それがナツのいつもの朝食だった。
「…………」
「…………」
その朝食を、何故か先輩社員と同じテーブルで取る。工業地帯と言うこともあって、ビジネスホテルを利用する作業者の数は多く、同じ会社の人間同士が同じテーブルに座るのが普通だった。
キャベツにドレッシングをかけないナツに対して、先輩社員は「普通じゃない」だの、「味覚がおかしい」だの言われたのも懐かしい思い出だ。別にグルメを気取っているわけでもないし、食事は栄養補給でしかないと割り切っているので、別に腹も立たない。
ただ、鬱陶しい顔を見ながら喰う飯は不味い。
七時一五分に遅れること三分。先輩社員が社用車に乗ると、ナツはキーを回す。挨拶はするが、無視される。無視されるとわかって、ナツは挨拶をしているので、やはり怒りはない。
こうやってこっちが歩み寄りを見せることで、先輩社員よりも先に大人の行動を示し、精神的に上に立とうと言うアプローチである。効果があるかは不明だ。
途中、コンビニによって昼食を購入。基本的にナツはここでは何も購入しない。先輩社員は菓子パンを三つとコーヒーを買うと、煙草を一本楽しんだ後に車に戻って来る。
ヤニ臭いんだよ。
《紅の墓碑銘》!
《時間を吹っ飛ばした。その時間内のこの世のものは全て消し飛び、残るのは『結果』だけだ! 安藤ナツが地獄のような人間関係で一日の仕事を終えた! 『結果』だけが残る。途中は全て消し飛んだのだ》
仕事が終わると、二人は車に乗り込み、讃岐うどんを食ってホテルへと帰る。ちなみに、この間にかわされた会話は、
「うどん」
「はい」
のみである。
ホテルから少し離れた駐車場に車を停め、ナツはセインパイと別れると近くのスーパーへと歩いて向かった。ナツは基本的に節約の為にコンビニで物を買わないようにしていた。スーパーで次の日の昼食を購入した方が、遥かに安上がりだからだ。朝のコンビニで食事を買わないのはそう言うことだ。
明日の昼食をマイバッグに入れて、ホテルへと戻る。
余談だが、先輩社員からは「貧乏くさい」と言う有り難い評価を頂いた。
ホテルに戻れば、まずはシャワーを浴びる。そしてコインランドリーへと直行する。ホテルの大きさに対して、圧倒的に洗濯機の数は足りず、前の人が終わるタイミングを待つ必要があるからだ。
信じられないことに、作業者と言うのは毎日洗濯をしないようで、三日なり四日なりの洗濯物をまとめて洗うことが多い。先輩社員に言わせれば、それが『常識』であり、無駄がないそうだ。
個人的なことを言わせてもらえば、穿いて洗っていないパンツと同居するなんて信じられなかった。また『貧乏くさい』行動にも思える。
洗濯が終わる間は、持って来た文庫本を読んで過ごしたり、当時は珍しかったIPhoneでネット巡回をしたりして過ごす。
そして洗濯が終われば、部屋に戻って作業報告書や収集したデータの入力を会社支給のパソコンで行う。
全てが終了する頃には日付が変わり、他にやることも、元気もないので、寝る。
場所によっては夜の町へ繰り出し【自主規制委】に行ったりするが、この頃はそんなテンションではなかった。
兎に角、それがナツの一日だ。
感想と評価、お待ちしています。




