8.屋敷の外へ
「アカハ、もうそろそろ行った方が良いのではないか?」
朝食の席での会話中、バルトに声をかけられる。庭の日時計は8時を指していた。
「あ……っ。やばい……!」
気付けばもう一時間半程も雑談していた。ユーカさんは時間指定はしてないけど、流石にこの時間で行かないなんてことは出来ない、と思う。
「アカハ、初訓練がんばれよ」
「いってらっしゃーい」
「ご健闘を祈ります」
「うん!じゃあね!」
3人に別れを告げ、全力疾走で中庭を目指す。そこには、いろいろな弓を持つユーカの姿があった。
「っ!ユーカさん……!ハァハァ、遅れて………すいませんっ!」
「大丈夫よ。ただ明日は半刻程早く来てくれると嬉しいわ」
「ぅ……っはぃ……」
申し訳なくて項垂れてしまう。
「いいのよ。早速始めましょう。先ずこれ、引いてみて」
コクン、と頷き、弓を持つ。思っていたよりも重量感を伝えてくるそれは、綺麗な木でできた弓だった。
「んっ……!?かたいっ!」
「あら。それは一番簡素なものなんだけど。アカハ、Lvと筋力を教えてくれない?」
「ぅう……。Lvは1で、筋力は10です……」
「れ、Lv1!?それなら引けない事も納得できるわ」
何か呟き、外の方を見るユーカさん。
「えっと……?」
「アカハ、着いて来なさい」
声を掛けると、ユーカさんから指示された。
「何処に行くんですか?」
「森よ。することは簡単。襲ってくる魔物を倒すだけ」
「倒す……殺す?」
「当たり前よ。あっちは殺そうとしてくるんだから」
「そう……ですか」
実を言うと、ボクはあの赤い血が嫌いだ。でも、この世界にきて勇者をするのなら、血を見ることもあるだろうと思っていたし覚悟もできてた、筈だった。
「やっぱ無理なのかな……」
「どうしたの?」
「な、なんでもない、です」
「無理はしないでね?」
「はい」
言われなくてもわかってる。
でも……。
「ゆ、ユーカさん……。その、ボク、頑張りますっ」
「そうね。じゃあ行きましょ。こっちよ、アカハ」
ユーカさんについて門の外へ出て行く。するとそこには、広い広い広大な森が広がっていた。
「えっと、その……」
ーーここって、森の中だったのーっ!?
森の中に絶叫が響き渡る。
でも、ほんとに知らなかった。館の周りが全部森だったなんて、ね。だってさぁ、館から見えるのが広大な庭すぎて森要素なんて一つも見当たらなかったんだから!
「どうしたの、そんなに叫んで」
「ぅ……あの、なんとなくですよなんとなくぅ……!すいませんっ!」
「いえ、別にいいのよ。あ、もしかしてさ、館の中から森が見えないからここが草原かと思い込んでた?」
優しい表情でざくっとぶった切るユーカさん。てかよくみたらニヤニヤ笑いだった。この人、案外とSっ気があるんじゃないだろうか。
「うぅ、もう、からかわないでくださいよ」
「いいじゃない。さ、行くわよアカハ」
「はいっ」
促されて一歩足を踏み出す。森の中に入るとそこは、木漏れ日が下草に当たって緑の輝きに溢れていた。
「ん……?ユーカさん、あれは、ゴブリン……?」
「ええ。よく分かったわね」
「襲ってくるの……?」
「いいえ?なんで?ゴブリンは亜人よ、襲ってこないわ」
ん?亜人?……それって、魔物じゃないの?
「亜人?ゴブリンやオーガは魔物だと思ってました。ゴブリンって、増えすぎることはないんですか?」
「オーガは魔物よ。彼らは人を襲うもの。ゴブリンは里を作っているわね。まあ弱いから繁殖力はそれなりに強いわ。でも増えすぎることはないわ。但し、ゴブリンは亜人でも言葉が通じないのよ」
「へぇ……」
そうなんだ……。ゴブリンは敵じゃないってことか……。
ユーカによると、オーガは頭に一本の角が生えており凶暴な性格をしているとのことだった。
「っ!これは……!?」
「どうしたんですか……?」
「危険だわ。よりによって彼奴等がいるなんて……。アカハ、絶対に死なないように!」
「っはい!」
ボクは返事をする。
刹那。
ギィヤアァァァァァァァアァアァアァ!
森の奥から叫び声が響いた。
シャアアァァ!
それに応えるように鳴き声が聞こえる。
「ゆ、ユーカさんっ!この声なんですか!?」
ボクは聞いた……のだが、ユーカは答えない。それどころか、顔には緊張の色が貼りついていた。
「死虫……」
その唇から、苦々しそうな音が漏れた。
次回は戦闘…かもしれません
2016/04/30 修正
修正点
・…を修正
・その他諸々