6.師匠……
バルトのところで過ごすこと、半月。僕の護りもだんだんと通用するようになった。今では、バルトの力の七割方を引き出すことに成功している。ただ、負けるけどね。でも最初の方は五割の力であっけなく負けていたから、大きな進歩だと思う。
アカハの方も順調だ。僕と一緒の頃はまだ魔術を扱うレベルに至ってはいなかったけど、もう全属性の魔術を初等級まで使えるようになっているらしい。アカハの言ってたチートが何なのかはよくわからないけど、やっぱり彼女は規格外だった。
何はともあれ、バルトのところに来てよかったな。
***
「んぁ……」
あー、体のあちこちが痛い。てか、いつの間にか自分の部屋にいた。なにが起きたんだ?
いや、考えるまでもない。
今日はテストの日。で、ボクはバルトに負けた。ただそれだけだ。
「あーあ。ボク、魔術もいいんだけど、弓や剣を習いたいなぁ。でもそれには筋力が必要だし……」
「おうアカハ、起きたのか。にしても、弓と剣か。何故習いたいのだ?」
誰もいないと思っていた部屋に、ボクとは違う声が響く。
え、誰?ってか、
「バルト!?」
いたんだ。
「ああ。しかしさっきのあれは良かったぞ。どうやったんだ?」
さっきの……?何だろ。
あっ、あれかー。
「もしかして、混合魔術のこと?あれはねぇ、先ず…水をだして、それから、そこに風をだすじゃん。そしたら火で温めて竜巻をイメージすればいいんだよ」
「……すごいな。あと、あの火の鳥」
「え?誰でもできるでしょあれくらい」
「いや無理だ」
「そうなの?火の鳥はあれだよ、火系魔術の火弾を大きくして鳥の形にすればいいの。ね、簡単でしょ?」
まぁ、さっき言った混合魔術も、初等級魔術を大きくするのも、魔力量食う割には攻撃力はたぶん上位魔法の方が上なんだよね。
「……はぁ。何事も、イメージが大切、ということか」
「バルト、見て見てー」
「ん?なんだ?」
バルトの目がこちらに向いたことを確認し、ボクは右手の上に火の鳥を、左手の上に水の龍をそれぞれ形作る。
そしたらバルトが目を丸くしていた。
「アカハ、お前すごいな……。両手で違う魔術を操るとは……。よし、明日から中等魔術を教えるぞ。それから……剣士は此処にはいないのだが、弓士ならユーカがいる。習いたいなら奴に聞いてみるが、どうだ?」
「え!教えてもらえるの⁉︎お願い、バルト!」
「ああ、分かった。ユーカに伝えておく」
やったね、弓だ。明日から中等魔術が習えるし、なんか嬉しいな。
あ、そうそう、この世界の魔術についてなんだけど、
初等魔術が火弾、水弾、風弾、土弾、空弾、光弾、そして、闇弾で、大体弾系なんだ。
中等、高等になるごとにだんだん威力や形が変化していき、一番上だと天候を操作できるらしい。
因みにバルトが使えるのは聖級魔術までらしい。一番上は帝王級なんだって。
で、回復系。
これは中等魔術師以上じゃないと使えないらしい。なぜなら、回復魔術は中等魔術からしか階級がないからだそうだ。
自動回復とかやりたいなー。
まあ、ボクはまだ初等魔術までしか使えないけどね。
魔術師は階級に合わせて初等魔術師、中等魔術師、高等魔術師などと呼ばれている。バルトは風聖級魔術師なんだって。
聖級は一番上の一つ下で難しいから、普通は得意系統の魔術しか使えないそうで、バルトは大波乱と大嵐の風聖級魔術を使えるからそう呼ばれているんだ。
聖級はまだまだ先だな。
「ねぇバルト、いつか聖級魔術、教えてね」
「ああ、もちろんだ。約束する。……アカハ、お前の成長速度はおかしいのだ。初等魔術を半月で使いこなすなどほとんどの人はできないのだが、なにが方法でもあるのか?」
「え、そうなの?ボクはただ魔力量が多いだけだよ」
「ああ。俺だって一月はかかった。で、魔力量はどのくらいなのだ?」
あれ、行ってなかったっけかな?
「ボクが此処についたときは10万だったよ」
「10万……。俺の3倍以上だ……」
「今は……どうだろ」
「増えるのか?」
え?
もしかして増えないの?
「アカハ、増えるのか?」
「ああ、うん、増えるよ?」
「…………」
「どうしたの?」
「普通は殆ど増えない」
「そうなの!?」
「もちろんだ」
びっくりだ、やっぱチートだね!
「俺は50年に100増えるくらいだ。これでも羨ましがられる」
「そ、そうなんだ……。ボクこの一月で少なくとも10は増えたと思うよ?」
「…………」
なんかすごい目で見られた。そんなにすごいものなのかなぁ?ボクには聖級魔術の方がすごいと思うんだけどな。
そうだ、久しぶりにステータス見て見よっかな。
(ステータス!)
――――――――――――――――――
アカハ・コウヅキ 人族 女 Lv1
年齢:14 髪色:赤 瞳:赤
獲得能力:なし
特殊能力:第三の目[鑑定][索敵]
魔眼[腐敗][麻痺][吸収]
--王--因--
加護:覇王の護り
守護精霊:なし
体力 49/52
魔力 51112/100086
駿足 80
器用 175
筋力 20
跳躍力 8
視力 5.0(上限10)
聴力 38(上限100)
回復力 20
称号・生まれたばかりの勇者
--王----マ--
残りポイント・20 =移ろい人のみ表示=
――――――――――――――――――
……ウン、10どころじゃなかった。80も増えてた。しかもなんか体力も上がってないかな……?。
「その……バルト、驚かないでよ?」
「ああ」
「只今確認したところ、魔力量が86増えてましたっ!」
「…………」
コピペじゃないです。
バルトが目を見開いて固まってるよ。
……声かけてみよっかぁ。
「えと、バルト……さん?」
「っ!はあ⁉︎86⁉︎」
「う、うん、86」
「……いやぁ、こんなに驚いたのいつぶりだろうか。130年ぶりくらい?ユーカが100歳超えてたって知ったときかな……」
「そのぅ、バルトって何年生きてるの?」
「……忘れた。だがもうすぐ1000年くらいになるなんじゃないか?」
「…………」
ほんとにコピペじゃないよ?
1000年って!姿は青年なのに1000年って!
びっくりだよ。
「……バルトは20代にしか見えないけど」
「俺は長命なんだ。種族はよく知らんがな」
「そ、そう……」
1000年……。1000年かあ、って1000年!?どれくらい長いのか想像つかない!
「ああ、そうだ。アカハ、少し待ってろ」
「ん?何?」
「いいから待ってろ」
「うん……」
なんだろ。何かあるのかなー……なんて思ってたらバルトが戻ってきた。
「ええと、誰?」
「ユーカだ」
ブロンドの髪に碧い切れ長の瞳の少女を連れて。
「汝の太陽が永遠に光り輝かんことを。よろしくお願いします、ユーカさん」
「汝の歩む道が光と共にあらんことを。よろしく。ユーカ・アイデンメーヴュよ。こう見えて200歳は超えているわ」
「…………」
コピペじゃない!
これはほんとにコピペじゃない!
200歳とかいきなり言わなくても!
びっくりだよ!
こんな少女の姿で200歳とか!
「……え、ええと、アカハ・コウヅキです」
「バルトから聞いてるわ。アカハは弓を引きたいの?」
「はい。弓に憧れていたんです、ボクは。剣と弓に憧れて、習いたかったんです」
「へえ、剣と弓。両立は難しいわ。……生憎私は弓しか使えないから剣は無理だけれど、将来にできるの?」
「やって見せます」
ぎゅっと拳を握りしめ、鋭く見つめてくる碧い瞳をきっと見返す。
すると、ユーカはふっと笑って言った。
「いいじゃない、その心意気よ。明日から私の弟子よ。ついて来なさい。分かった?」
「はいっ!何卒よろしくお願いします!師匠!」
「……師匠と呼ばれるのはいい気分ね。じゃあ明日」
「はい!」
その日ーー海王暦928年、騷嵐月・15日ーーボクに二人目の師匠ができた。
2015/11/29 修正
ユーカの姓を変えました。
2015/12/12 修正
2016/04/29 修正
修正点
読みにくい部分を修正
回復魔術を高等から中等魔術に
その他、諸々