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ESTALUCIA  作者: 蜂矢澪音
1章 十七番目の番人
4/33

3.魔術師

この世界ーエスタルシアーに来て、そろそろ一月経つ。此処で過ごすうちにわかったことがある。

先ず月日について。

此の世界は一カ月約36日、12ヶ月で一年が432日、一日20時間だということ。

そして、いまの季節は日が長いこと。

これは、今が愛陽月(アーモ・ソリス)だかららしい。ちなみに愛陽月(アーモ・ソリス)は日本の8月にあたる。


で、最後はボクのこと。

ボクはやっぱり、幾多の移ろい人の中でも能力値が高いとのことだった。これは蒼麟が他の十五の番人にきいて判った事だ。

さしてやることはなかったから雑談していたら、飛ぶように一月が過ぎていった。

……もちろん蒼麟に言われて魔術の訓練もしたよ?まあ、操作のほうは簡単だったけどね。蒼麟に器用が172あるっていったら驚いたあとに呆れられたよ。ただ、まだ大きな魔法は操作しきれないらしい。それには器用が500以上必要なんだと。

器用500って。世の魔術師達の能力はどんななんだよ。


「蒼麟、索敵って、便利だねぇ。周りの状況が一瞬でわかるよ」

「そりゃそうでしょ。第三の目の派生だもん。僕がほしいくらいだよ」

「まあね、地上はもちろん、地下も、さらに上空だってお手の物、だもんね。使ってるほうも信じらんな――ん?」

「アカハ、どうしたの?」


何か、いる。今ボクの索敵の限界、此処から100m離れた地点、慣れ親しんだ曲がりくねっている渓谷の底に、大きな気配があった。


「なんだろう。感じた事のない大きな気配……」

「ん?何か引っかかったの?」

「うん。此処から約90mのところに気配があるんだ。移動速度は……分速60mくらいかな。随分ゆっくりだね」

「……あっ、見えた!アピリーバードかな?……アカハ、人が乗ってる」

「人!?本当?」

「うん。たぶん、アカハに向かって来てるよ。悪い人じゃなければいいけど」

「やったっ!!人に会えるんだね!?」


蒼麟がいるとはいえ大体40日間ボクは一人だったんだよ。ボクだって14歳なんだ、そんな環境では淋しかったんだと、今気が付いた。だからたぶん、ボクの顔は喜び一杯になっていると思う。


「あと20秒くらいかな?ねえ蒼麟、楽しみだね!」

「んー、どうかな……」

「あと15秒……10、9、8……」


わくわくしながらボクは待つ。

しかし、気が高ぶっていた朱葉(ボク)は、故に気づかなかった、蒼麟の憂い、つまり、近づく気配が一つだ、ということに。


「汝の太陽が永遠(とわ)に光り輝かんことを。こんにちは、貴女が勇者様ですか?」

「……ここここんにちはっ!紅月朱葉、いや、アカハ・コウヅキ、です。あの、な、汝の……って、なんですか?」


あぁ、緊張する……!

久々の人間だよ!


「その名前……。やはり貴女は勇者様なのですね!あ、先程いいましたのは、ジェネード大陸の挨拶です。『汝の太陽が永遠(とわ)に光り輝かんことを』と言われたら『汝の歩む道が光と共にあらんことを』と返すのです」

「へえ、挨拶かぁ。あ、貴方の名を聞いても?」

「申し訳ございません、私に名前はないのです。手前は一介の分身体に過ぎませんから」

「ぶんしんたい……?」


え?


「はい、此処にいる私は幻にございます、勇者様」

「幻……?えっと、どういうこと?」


この人、人間じゃないの!?


「説明は長くなります。実際に見た方が早いでしょう。それでは行きますか」

「……ボクも?」

「はい。私の役目は貴女を私の本体へ送り届けることですので」

「ボクを?なんで?」


ボクが聞いたその時、蒼麟が口を挟む。


「ええと、ちょっといいかな?君の本体は何者なんだい?」

「失礼ですが、貴方は?」

「僕は蒼麟。アカハの従魔さ。そして、東方之番人(イースタン・ディフェンダー)だった」


そこで来訪者は、目を瞬いた。


「…これは、失礼いたしました。にしても、アカハ様は素晴らしいですね。その歳で番人に名付けをするとは」

「え?名付けって誰でもできるんじゃないの?」

「いえ、そんなことはないですよ?……話が逸れましたね。私の本体は、東の果ての魔術師(コウザリンク)、フーベルトゥス・アイブリンガーです」


それを聞いて蒼麟は少し驚いたようだった。


「ああ……話には聞いていた、あの人かぁ」

「え、蒼麟知ってるの?」

「うん。母さんは会ったことあるんだって。信用できるんだってよ」

「ふーん……」

「ついて行こう、アカハ?」

「んー……わかった。ボク、行くよ」

「話はついたようですね。それでは……」


そういって男は徐に人の頭程の大きさの紙を取り出し地面に置く。


「それは?」

「魔法陣です。転移の魔術ですから直ぐに着きますよ」

「……へぇ」


驚く朱葉。それをよそに男は着々と準備を進めていく。


「できました。勇者様、此処にお立ちください」

「……あの、蒼麟を連れて行けますか?」

「勇者様が抱きかかえているのならば可能です」

「ありがとうございますっ!蒼麟!」

「うんっ!」

「絶対に離さないでくださいね?それから、動かないように」

「はい」


男が何やら呪文を唱え始めた。ボクの周りに白い靄が立ち込める。

靄が晴れた。

見知らぬ風景が、辺りに広がっている。


「えっと……ここ、何処?」


薄桃色の屋根に白い壁。大きな館が聳えている。隣には黒い文様が刻まれた塔があった。


「アカハ、前」

「ん?」

「汝の太陽が永遠(とわ)に光り輝かんことを。勇者さん、俺の分身体から話は聞いただろ?俺はフーベルトゥス・アイブリンガーだ」


こ、今度はほんとの人間だぁ!

第一異世界人だよ!


「……ああああの!ええと、汝の歩む道が光と共にあらんことを、だったっけ!?ボクは紅月朱葉…アカハ・コウヅキです」


緊張しているボクの視線の先に彼は立っていた。


深い緑色の髪に黒い瞳、スラリと伸びた長い脚、優しく笑う口元……。およそ20を超えるか超えないかくらいの見た目のこの青年こそが、東の果ての魔術師(コウザリンク)、フーベルトゥス・アイブリンガーだった――。

2015/12/12 修正

月の長さと1年の日数を変えました。


2016/04/29 修正

修正点

一人称の統一

会話文の間に地の文を追加

…が奇数の箇所を偶数に

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