2.ステータス
それは、蒼麟であって、蒼麟で無かった――――。
「ん…………。アカハ、ありがとう。君のおかげで強くなった。あ、これからもよろしくねっ!」
「……ええと、よろしく?」
「うんっ!!」
もの凄く嬉しそうな顔をして蒼麟が頷く。対するボクは首を傾げた。
蒼麟の姿が変わっている。
モコモコしてるのは変わらない、だけど……。
ピンとたった蒼い猫耳、背中から生える一対の黒くかがやく翼、黒いしなやかな細く長い尻尾――。
「……ねえ蒼麟、聞きたいことがあるんだけど」
「ん?何ー?」
何ー?じゃないよ、不思議すぎるよ。
「えっと、なんで姿が変わったの?」
「ああ、それはねぇ、進化したからだよ」
「進化……?どういうこと?」
進化ってあれかな?ポ○モンとかでよくある進化?
「アカハが名付けてくれたじゃん」
「え?あ、そうだ。ボクが蒼麟って言った瞬間さ、ボクの中から“何か”が出てったんだけど……?」
「それは魔力だよ。……あ、アカハさ、僕に名前つけたのに全然疲れて無いね。流石だよ」
「魔力、か……」
やっぱりそういうものもあるんだね。
ファンタジー世界、か……。
「そうだよ。そっか、移ろい人だもんね、知らないよね。名付けをすると、魔力が消費されるんだ。まあ原理はよくわかってないけど、多分進化させるために使われるんだろうね。でなんだけど、アカハ。僕Lv1だったけど、一気に10まで上がったんだ。魔力だって、こんなに増えてるし……」
「レベル?何それ。あがったって?」
「……そうだった。アカハ、『ステータス』って念じてみて」
「う、うん……」
半信半疑でやってみる。
(『ステータス』!)
――――頭の中に電光が走ったような気がした。閉じていた目をあけると、目の前に赤い板のようなものがあった。
「え、えと、これは?」
「あ、できた?僕には見えないから分からないんけど、それはアカハのステータス画面だよ、たぶん」
「ふーん……」
言いつつ、目を戻す。そこにはこんなことが書かれていた。
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アカハ・コウヅキ 人族 女 Lv1
年齢:14 髪色:赤 瞳:赤
獲得能力:なし
特殊能力:第三の目[鑑定][索敵]
魔眼[腐敗][麻痺][吸収]
--王--因--
加護:覇王の護り
守護精霊:なし
体力 50/50
魔力 83926/100000
駿足 80
器用 172
筋力 10
跳躍力 8
視力 5.0(上限10)
聴力 38(上限100)
回復力 20
称号・生まれたばかりの勇者
--王の--マ--
残りポイント・15 =移ろい人のみ表示=
–––––––––––––––––––––––––––
……これは。
朱葉は驚く。だってこれ、
「チートじゃない……?」
「え、なんて?」
呟くと、蒼麟が聞き返してきた。が、茫然自失状態の朱葉には届かない。
魔力10万って、それは……。しかもこのスキルはすごすぎないかな。例えば第三の目。
鑑定は、目視できるものを選択すると、その情報が表示される。
索敵は、自分を中心としてある程度の範囲内のものを目視できずとも把握することができる。
Lvがあがったら、スキルの能力も高くなるらしい。
「……ねえ蒼麟、ちょっと聞きたいんだけど?」
「なに、アカハ?」
「Lv1の人の平均値ってどれくらいなの?」
「んー、個人差はあるだろうけど大体10〜20くらいが普通なんじゃない?」
「じゃあ、これ……。ボクのは筋力10に瞬発力8に体力50とそれから回復力20、あと聴力38以外全部50以上なんだけど……。魔力は10万だし――」
目の前の赤い板から目を上げると、蒼麟が固まっていた。
「蒼麟、どーしたの?そーりーん?」
声をかけてみると、ビクッとして、我に返ったように朱葉をみた。
「……アカハはおかしいよ。だってあれだよ?回復力ってね、何度も死に至るような傷を負ってやっと手に入るやつだよ?それがあれば病気に罹ってもすぐに治るし大きな怪我をしても1以下でもあったらその場で治し始める様な代物なんだよ?それに、魔力10万って……。Lv1でそれは聞いたこともないよ。移ろい人だとしても、おかしい。アカハのステータスで普通なのは、体力と筋力と瞬発力だけだ」
呆れた様に、蒼麟は言った。
「え、そうなの!?」
「うん。兎に角桁外れだ」
「へぇー。んー、じゃあこの特殊能力ってのは?」
「えっと……アカハ、それ冗談だよね?」
「いや?たぶん、3つある……1つ消えかかってて読めないけどね」
『第三の目』と『魔眼』と『--王--因--』。この3つだ。
「……アカハ、それ普通の人ががんばっても1つだけしかもてないんだよ。長寿の種だとしても2つがやっとだ。にしても、移ろい人ってのはこうも凄いものなんだね……」
何故かしみじみと言われた。そして真剣な表情で続ける。
「アカハ、その能力、隠しておいたほうがいいと思う」
「……うん。わかった、気をつけるよ」
……そういえば。
と、ステータス画面に目を戻す。
[鑑定]。
これ、使ってみようかな。
(蒼麟、[鑑定]!)
<個体名:蒼麟を鑑定しますか?YES-NO>
迷わずYESを選択。
<以後、鑑定の使用確認をOFFにしますか?YES-NO>
これも、YESにした。一々確認とかって面倒だもんね。
自分のステータス画面の近くに蒼麟のステータス画面が表示される。
蒼麟のステータス画面は、青かった。
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ソウリン Lv12 雄 魔獣:東方之番人
年齢:0 毛色:薄青 瞳:群青
固有能力:先見 思考 風切羽
特殊能力:守護者[上級守護魔法]
加護:なし
守護精霊:守りの王
体力:75/90
魔力:16300/20000
駿足:65
器用:72
筋力:83
跳躍力:49
視力:6.4(上限10)
聴力:70(上限100)
回復力:0.2
称号:孤高の氏族
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……蒼麟も大概すごかった。
とりあえず、聞きたいことを聞いてみる。
「蒼麟、固有能力ってなに?」
「魔物や魔獣にしかないやつだよ。種によってもつ能力は違うんだ。……だけどなんで知ってるの?」
不思議そうに言われて、
「蒼麟を鑑定した」
簡潔に答えると。
「えぇ!?……まさか、鑑定眼があるの?」
「いや、それはない。でも、第三の目はあるよ?」
「…………予想外。アカハそれ1000年に一度現れるかどうかって言うような伝説級能力だよ!?知識としてしか知られていないような!」
とっても驚かれた。
「え、そうなんだ。あ、あと、東方之番人って何?」
「……はぁ。……番人ってのは、僕らのことだよ。僕は東だけど、この大陸の中心とそこからみた十六方位にそれぞれいるんだ。番人はそれぞれの色を持っていて、中心の番人は眩い金の毛色なんだってさ」
それで、蒼麟は蒼いのか。……にしても。
「何の番人なの?」
「僕らは君たちのような移ろい人を保護する役目を担っているんだ。番人の名を冠する物は、魔物の中でも気高い魔獣と呼ばれている。僕らの能力や記憶は失われることはないんだ。それぞれの子孫へ受け継がれていくし、もし無くなっても世界が補うからね」
「へえ……。じゃあ、蒼麟は凄いんだね。世界、かあ……」
“世界”。地球と全く考え方が違う此のエスタルシアでは、世界はあたかも生きているものとして扱われているようだった。
「アカハ?もう、日が暮れるよ」
考えこんでいたボクの思考は、蒼麟によって呼び戻される。
「うん、おやすみ、蒼麟」
エスタルシアに来て、一日が経った。色々あったな、と今日を振り返る。
思考にもひと段落つき、朱葉の意識は優しく闇に誘われていった。
2016/04/29 修正
修正点
・会話文が続いている箇所に地の文を。
・…が奇数の箇所を偶数に。
・その他、諸々