シルエットと共に
ふ、と目の焦点が合ったような、急に周りが鮮明に、もやが晴れたような感覚だった。
どうやらぼんやりとしていたようだ。
なんだか頭もずきずき痛い。
思い出していた。彼とのことを。
高校の入学式。
彼は、私の隣だった。
緊張で体中に変な力が入った私は式辞の途中ずっと自分の膝を見ていた。
隣で少し落ち着かない様子の彼はしきりにこちらをちらちらと見ていた。
「おはよう、」
入学して1ヶ月が立った。
まだ少し気を遣い合う友人たちと食堂に向かっていた時のこと。
「あ、おはよう…?」
挨拶してきた彼は少し上ずった緊張をまとったような声なのに、その表情からは何も読み取れなくて、本当に私に言ったんだろうかとぼんやりと頭の奥で考えていた。
それから彼から声をかけてくることはなかった。
高校2年生になった。
クラスは替わってしまい、新しい空気になった。
私の斜め前の席には、彼がいた。
「どうしたの?」
「っ。みーちゃん、あ、…おはよう。」
いきなり顔を覗き込まれる、あまりの驚きに息をひゅっと飲み込んだ。
「なに、どうしたのそんなに驚いて。何か見てたの?」
にやにやとしたみーちゃんは私の視線をなぞって後ろを振り返った。
何も無い。
もちろん誰もいない。
「ちょっとぼうっとしてただけだよ。」
怪訝そうな彼女の視線から逃れようと目を逸らし、机の中から教科書を取り出した。
彼の机を見ていた。
それだけで、入学式で気まずそうに緊張気味にこちらを見ていた彼の横顔や、挨拶をしてきたあの表情が浮かんでは消えた。
「それにしても、毎朝こんなに早く来てるの?」
「今日はたまたま偶然。そういえば、みーちゃんってば昨日も私のLINE見てないでしょー。せっかくノートの写真送っといたのにー。」
「あらら、ごめんごめん。ありがとっ、助かる!」
「テスト頑張ろーねって約束したじゃん。追試になっても知らないからね!」
ごそごそと急いで鞄をあさって、携帯どこやったかな携帯携帯と呟いてるみーちゃんを横目に、彼女の興味が逸れたことに安堵の息をついた。