表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ボクの生き方、壊れ方

作者: 赤依 苺

とてつもなくお久しぶりです、赤依です。


公式企画への二度目の参加となります。短編を書くことで、忘れていた文章を書く感覚を取り戻したいと思い、参加させていただきました。とは言っても、大層なモノは書いていませんが。


童話にしては、中核がかなり重いです。その点は注意です。

では、後書きにて。

 いつだって黒い煙を見てきた。


 いつだって悲しみと怒りを聞いてきた。


 いつだってボクは、ヒトに、最期(さいご)を告げてきた。


 そんなボクを、止めるヒトはいなかった。

 ヒトはボクを使うことを怖がらない。いや、少しは怖がるヒトもいる。でも、それは使われる方だ。ボクの終着点にいるヒトは、みんなが悲しみを感じているのだろう。

 そんなのはダメだ。ヒトを悲しませてはダメだ。

 ボクが壊れれば、ヒトは悲しまないのだろう。そう考えて、本当に壊れたことがあった。不思議と、ボクが壊れると悲しむヒトが急に近くにいるような気がした。そして、喜ぶヒトは遠くになった気がした。

 ボクが壊れても悲しむヒトがいる。ボクはどうしたらいいんだろう。


 「これが、セカイの平和のためにこれから飛びます」


 ボクは、生きるべきか壊れるべきか、そんな疑問を忘れるほど忙しくなっていた。

 昨日はどこかの海へ落ち、今日はどこかの小さな村で活躍し、明日は新しい場所が待っている。

 ボクは色々な形になって、セカイという場所を駆け巡っている。景色は違っても、ヒトの表情は変わらない。喜ぶか、悲しむか。そのヒトたちが近いか、遠いか。


 ある日、ボクは(かたまり)になって小さなコドモと向き合っていた。ボクを支えるのは、コドモよりもとても大きいヒトだった。


 「…………すまんな」

 「……ひっ! …………え?」


 ちょっとした気まぐれで、今日のボクは壊れた。支えてくれるヒトはボクのことを振り回す。でも、今日のボクは壊れている。何をしても動かない。


 「行け。泣きながら走るなよ、男だろ?」

 「…………!」


 コドモの背中は一生懸命だった。



 またある日、ボクはコドモに抱えられていた。ボクが重いのか、何度も何度も担ぎなおしている。


 「胸に刻まれた神のために、引き金を引く勇気があるかっ!」


 周りには、ボクと同じ形をしたモノがコドモに担がれている。そして、コドモたちの視線の先には、みんなよりも高い場所で声を張り上げているヒトがいる。いったい、これから何が起きるのだろう。これまで、コドモとは向き合ったことしかない。コドモはボクを何に向き合わせるんだろう。


 「進むのだっ! 神に我が名を示すためにっ!!」


 驚いた。

 ボクは、少し前にボクを支えていたヒトたちと向き合っている。そのヒトたちも、ボクに似た何かを支えている。

 ボクは初めて、ボクに似たモノと向き合った。


 「怖くない。神のために捧げる命が、気高くないわけがない!」

 「そうだとも! 神の安住の地を守るため、ここで引く選択はない!」


 ボクには分かる。

 ボクを向き合わせるということは、向き合ったヒトを悲しませるということ。

 ボクに似たモノが向き合うということは、このコドモたちもきっと悲しむということ。

 だけど、ボクは伝えられない。


 コドモが、ボクを持ち上げた。


 「神のために……! お前たちはここで倒れ…………」


 ボクが出せる唯一の声が、向き合った方から聞こえてきた。そうしたら、ボクは急に地面に落とされた。誰も拾ってくれない。だから、何が起きたかわからない。唯一見えているのは、たった今までボクを重そうに担いでいたコドモの顔だけだった。



 気づけば数十年後。

 ボクは心待ちにされていた。


 「いつでも打てます。ご命令を」


 向き合うのがヒトから青空へと変わった。身体もかなり大きくなったかもしれない。これから澄み渡った空へと進めるなら、少しくらいの時間は我慢しよう。


 「それでは、発射いたします……」


 ようやく飛行だ。雲が少ない良い空だ。

 このまま空よりも高い場所まで行くのかと思ったら、途中でボクの体の向きは変わった。

 どうやら、どこかの場所へと落下するらしい。だんだんとボクの頭は下を向く。

 ヒトが見える。ボクには気づいていないのかな。それもそうか。ボクは今、かなりの速さで飛んでいるんだ、気づいたときには……。


 「……着弾しました」


 今回はヒトの悲しい顔を見なかった。いや、見えなかった。

 だからわからない。このボクならば、ヒトを悲しませないのか知りたい。


 「次は……いえ、あそこは飛距離が足りませんが……。は、承知しました!」


 ボクはまた、青空を見ている。身体の向きが変わったことも、さっきと同じだ。

 今度は海に向かっていく。近くのヒトは喜んでいた。

 あれ? ボクは海に向かえば喜ばれるのかな。次も海に落ちてみよう。


 「次は、あそこの国ですね」


 さて、慣れてきたぞ。このままだと陸に落ちるけど、こうやって体の向きを変えれば……。


 「大変です、迎撃が!」


 ボクは、このきれいな青空で粉々になっていた。粉々になる直前に、ボクと似たようなモノが当たったことは覚えている。もしもボクが打たれなければ、先に飛んできたのは向こうかもしれない。



 次はまた、陸にいた。

 どんな道でも楽々走っては、色々な場所へと黒い塊を打ち出していく。

 途中で止まると、コドモがボクに向かって何か投げてきた。


 「早くどこかに行ってくれ! みんなが何をしたって言うんだよ!」


 違う。ヒトの意志でボクは動く。ヒトが望めば、ボクはボクが出来うるどんなことでもやってしまう。

 ボクは常に生と死の両方を望まれている。それが嫌だった。


 「うるさい小僧だ。踏みつぶせ」


 最後に望まれたのが生だった今日は、また黒い塊を打ち出しながら、色々なモノを踏みつけていった。ボクに向かって石を投げるコドモたちは、みんな怖がって逃げだした。



 そんなコドモでも、逃げ出さないこともあった。

 今日は特に動きにくい。地中に埋められたみたいだ。

 そんな動けないボクに向かって、コドモはみんな駆け寄ってくる。こんなこと、久しぶりだ。

 ボクのまわりにはトゲトゲした線が張り巡らされてヒトに気づかれないと思ってたけど、やっとボクがここに埋まっている意味がわかった気がする。


 「これ、何だろう?」

 「触ってみる?」

 「アブナイんじゃない?」


 コドモが話し合って、ボクの存在を確かめている。その中でも一人だけ、ボクに手を伸ばしてくれたコドモがいた。

 悲鳴が聞こえる。ボクは何をしたのだろう。ボクに触れてくれたコドモが、いつかのコドモのように倒れている。遠くに叫び声をあげながら逃げていくコドモがいる。ボクの近くにいるヒトは、ボクに対して言いたい放題だった。


 「こんなモノが、まだ……」

 「ちゃんと取り除いたんじゃなかったのか!」

 「また小さい子が犠牲になって……」


 とても大きなキカイがボクの所にやって来た。慎重にボクへと触れて、地中から持ち上げられる。そして、ゆっくりと頑丈な場所へと入れられた。

 誰も、喜んでいない。いや、これまで必ず誰かの喜びは見てきた。きっとどこかで、ボクの働きを喜ぶヒトがいるはずだ。

 そう、思わせてほしい。

 


 結局、ボクは誰かを喜ばせたいから宿ったんだ。

 ボクが頑張るほど、近くのヒトは喜んでくれる。でも、ボクと向き合うヒトはそうじゃない。

 セカイという場所にいる全てのヒトを幸せにすることは、とても難しい。

 ボクが動けば、誰かが喜び、誰かが不幸になる。

 これが、ボクが長い時間をかけてたどりついた答えだ。

 でも、最初に抱いた疑問には、いつまでも答えが出せない。



 そして、今日。

 セカイが平和になるために、ボクの処分が決まったみたいだ。

 ボクが生きていると、悲しむヒトがいるからだって。ボクは昔から知っていたのに。

 え? 悲しくないのかって?

 大丈夫だよ。ヘイキ、ヘイキ。

 セカイが平和になることがみんなの笑顔の材料なら、ボクは喜んで壊れるね。


 ボクは、意味のある壊れ方を望むよ。

テーマ【戦争反対】


お読みいただきありがとうございます。冬の童話祭の告知が来てから浮かんでいたネタを書いてみました。

ここに書かれたことが、一日でも早く世界から無くなることを祈っております。


それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ