鍛えよ肉体、指導せよ乙女
目次のページの下ーーーーの方に「作者からの~」と言うアンケートがあるので、良かったらご協力をお願いします。
エルラの村を支配下に置いた事は、魔王軍にとっては大きな事だった。
第一に収入が発生するし、その事による魔王軍の存在を世間に知らしめる事が出来たからだ。
その結果――と言って良いのか、面接希望者が一人現れ、ヒュガルとルキスとシリカの三人は、それを迎えて審査する為に本拠地の一階で待機していた。
おそらく本来は居間であった場所は、宛ら面接会場のように変えられ、そこに置かれた長椅子に三人は並んで腰かけている。
席順としてはヒュガルが中心で、それを正面に右手がルキス。左手にはメイド服のシリカが座り、羞恥に耐えるような顔を見せていた。
「あれあれっ、雌豚さんどうしたんですかぁ?
お手伝いさんなんだから仕方が無いよねぇ?
言わばそれ、制服だしぃ? もしかして嫌なの? 辞めちゃいたいのぉ?」
「う、うるさいっ! 辞めたいだなんて言っていないだろう!
まだ少し慣れないだけだッ……!」
それを目にしたルキスが言って、顔を赤くしてシリカが喚く。
二人に挟まれたヒュガルは目を瞑り、眉根を顰めてやりとりに耐えている。
シリカがメイド服を着ている理由。それは面接直後に遡る。
彼女の希望は衛士であったが、その必要があまり無く、現状で最大に必要としていた、雑用――つまり、お手伝いにされた為に、嫌がらせの意味でそれを買ってきたルキスに着せられた結果であったのだ。
赤がメインのその服は、スカート丈が異様に短く、胸が上半分は出てしまう為にシリカは最初は相当嫌がった。
だが、ルキスが「堪え性のねー雌豚だな」と、邪悪な表情で見下して言った事により、反抗の意味でそれを着用して今日に至って居る訳なのである。
それでも慣れ切れず照れてはいるが、腰にはしっかりと剣を下げており、その点に関してはヒュガルとルキスは大したものだと感心をしている。
「あ、は、初めまして……」
そんな中で、玄関へと続いている部屋の出口に男が現れた。
遠慮がちに頭を下げて、その後の行動を伺っている。
ドアが無く、ノックする場所が無いので、仕方が無しに取った行動だと思われ、それが分かったヒュガルは一言「中へ」と答えて男を招いた。
見た目の年齢は二十前後で、髪は白で瞳は緑色。
身長は百七十五㎝程度か、かなりの痩せ型と言って良い。
顔の造りは良いと言えるが、病的なまでに色が白く、また、頬がこけている為に、本物の病人のようにも見る事が出来る。
「し、失礼します……」
男が言って中へと入り、「座ってくれ」と言われてから椅子へと座る。
「凶器とかは捨てて下さい。暴れられても困るんで」
と言う、見た目で誤解したルキスの言葉には、「も、持ってません……」と正直に答えた。
「それでは名前と年齢を」
「あ、はい。名前はカイル・ジーレクトルです。歳は今は十八ですが、あと一週間程で十九になります」
ヒュガルに聞かれた男――カイルが言い、聞いた情報をルキスが書いて行く。
それを見たシリカは少々焦り、自分も何かをしようとしたが、結局何も見つけられず、剣を右手に天井を睨んだ。
これはつまり「何かが居た気がする!?」と言う、嘘っぱちの主張であったが、ヒュガルもルキスもカイルにも気付かれず、シリカは静かに顔を押さえた。
「種族は何かな? 見た限りでは、どうやら人間のように見えるが?」
「はい……実はこれでも獣人なんですが、僕は生まれつき体が弱くて……変身する事は出来なくはないんですが、出来る限りはしないようにしろと十五才の時に医者に言われました」
その言葉には「ほう」と言い、ヒュガルが更に質問を続ける。
それはつまり、「なぜそんな体質で魔王軍に参加しようと?」と言う物で、これにはカイルは俯いた後に、訪ねて来た理由を話し出した。
「父が……最近亡くなりまして、妹や弟を僕一人で、養わなくてはならなくなってしまったんです。
父の生業は狩人でしたが、僕にはとても真似できませんでした。
そんな時にこの広告を見つけて、藁にも縋る思いで訪ねて来たんです」
「広告? ちょっと見せて貰えるか?」
そんな広告を知らないヒュガルが、不審な顔でカイルに頼む。
途端にルキスの動きが止まり、小さな声で「ヤベー……」と言ったが、ヒュガルにはそれは聞こえなかったらしい。
「あ、どうぞ」
カイルが両手で広告を渡し、渡されたヒュガルがそれに目を通す。
右隣のシリカも首を伸ばして覗き込み、二人が同時に顔を顰めた。
『新生魔王軍大募集!
先代の魔王様がお亡くなりになって、百二十年程が過ぎました。
魔物の皆さん如何お過ごしですか?
略奪してる? 暴力奮ってる? でもソロプレイじゃ限界がありますよね?
そんな皆さんにビッグな朗報!
この度、ヒュガル・テツナと言う名のイケてる魔王サマが着任しました!
髪は青で瞳は黄色、低く透る声にドSな視線♡
若干ツンだけどその実は優しい、漢気に溢れた魔王サマだヨ!
現在、ヒュガル・テツナ様は、配下になる者を大募集チュウ!(キスマーク)
経験者優遇! 素人でもモチ歓迎! 給与と時給は応相談!
参考までに広告の裏に新人チャンの体験談も載せておくね!
このワンチャンを皆で掴もう! それじゃ本拠地で待ってるからねー!』
以下、新人Rチャンの体験談。
「自分はサキュバスの見習いなんですが、まな板、もしくは洗濯板と呼ばれる程に、ツルペッタンな女の子でした。
ですが、魔王サマに仕えた直後からどういう訳か胸が大成長!
まな板だった胸には今や、一m級のプリンが二つも!
ついでに身長も見る見る伸びて、今では魔王軍のS級デルモです!
漫画家としても大成功し、筋肉も最早バッキンバッキン。
ついには彼氏まで出来てしまって毎日が楽しくて仕方ありません!
魔王軍に入って本当に良かったです!
皆さんも今すぐ魔王軍に入って自分と幸せを共有しましょう!」
下の方には筋肉質な体の、目張りのされたルキスが描かれ、筋肉を誇示するポーズの下に「あくまで本人の感じたものであり、実際にあったかは定かではありません」と言う、一応の注釈が記されていた。
読み終えたヒュガルとシリカは無言。
呆れたような目でルキスを見たが、顔を逸らして咳込んでいたので、そこでの言及は止めておき、とりあえずは「あー……」と言った上で、カイルの方へと視線を戻す。
「まず言うと、こうなる可能性は低い。
と言うか、まず、無いと言って良い。
筋肉云々は何とかなるにしても、他の部分は保証できない。
それでも我が軍に入りたいと言うのなら、条件付きで考えもするが」
「あ、そ、そうなんですか……」
ヒュガルが言って、カイルが返す。
衝撃を受けたのか、それを言われたカイルは、若干凹んでいるように見える。
純粋な心の持ち主なのだろう、ある程度は体験談を信じていたのだ。
「で、でも、お願いします! もう殆ど蓄えが無いんです!
何でもします! よろしくお願いします!」
だが、すぐにも考えを改めて、その場に立ち上がって深々とお辞儀し、何も返さないヒュガルの前で、そのままの姿勢を維持し続けた。
「条件だが、今から三十日間、君には訓練を積んでもらう。
そして、最終的には門番のオーガ――この家の近くに居たと思うが、奴と一対一で戦って貰う。
そこで良い結果が残せるようならば、正式に君を雇用しよう。
だが、結果が残せない場合には申し訳ないが去って貰う。
この条件が飲めるかな?」
ヒュガルとしては戦力が欲しい訳で、虚弱体質の獣人等は不要。
だが、折角の応募者である為に、即座に切るのも後ろ髪が引かれた。
そこで悩んだ結果としての提案で、それを理解したカイルはヒュガルに「分かりました……」と頷いて見せるのだ。
「うむ。頑張ってくれ。期待はしている。
……教官はルキス、お前に任せる」
「え、ええー!? 何で自分なんですか!?」
「誤解を生みだした責任があるだろう?」
直後の抗議には道理を語ると、ルキスは「ハイ……」と諦めて項垂れた。
が、シリカが「わたしがやる」と、ヒュガルの後ろで言った為に、ヒュガルとカイルと揃うようにしてシリカの顔を見るのである。
「タダ飯喰らいになるのは嫌だからな……
わたしにも何か仕事をさせろ。幸い、わたしには剣術がある。
三十日もあればそれなりの者に仕上げて見せる自信はあるさ」
或いはそれは対抗心であったのか、顔を逸らしてシリカは言った。
「大丈夫ですか? こいつに任せたら、一日中股間をいじってそうな危ない男が出来るだけな気がしますけど」
「何を教えたらそんな事になるッ!?」
ルキスの言葉にシリカが叫ぶ。
ヒュガルはそれに目を瞑ったが(文字通り)、事情の分からないカイルは二人を困惑した顔で交互に見ていた。
「ともかくやる。わたしがやる。構わんな魔王?」
「うむ……まぁ、そこまで言うのなら任せよう」
結果としてはそこに落ち着き、様子見という形で採用されたカイルは、シリカに教育される事になったのである。
翌日から始まったシリカの訓練は、熱血を地で行く古典的なものだった。
朝食終了後に始まる走り込みに、腕立て、腹筋、スクワットと続き、昼食を摂ってまた走り込み、その後にようやく稽古に入る。
稽古と言えども基本が無いので、初日の目標は素振り千五百回で、カイルは何とか二百回までこなせたが、腕を引きつらせてそこでダウンした。
「意外に鬼だな……」
とは、それを見たルキスで、
「立てぇ! 立つんだァ!」
と、捲し立てるのがシリカ。
カイルは何とか立ちあがったが、最早木刀を握れない状態で、流石のルキスも「そこまでにしとけよ……」と、窓からスパルタを止めるのである。
「うるさい! わたしのやり方に口を出すな!
出来なくても良い! やろうとする根性なんだ!
わたしは根性を鍛えているんだ!」
「うぉぉ……完璧脳筋だわぁ……カイルさんお気の毒。
教官が悪かったな」
しかし、シリカは制止を聞かず、自身の教育理念を語り、聞いたルキスはそこまでと諦めてカイルに両手を合わせて去った。
「妹はどうする! 弟の事はどうする! 彼らを養えるのはお前だけなんだぞ! 気合を見せろ! 男だろうが!」
「はいいいいいい!!」
直後の叱咤でカイルは持ち直し、苦痛の顔で木刀を握る。
そして、遅いながらもそれを振り、「よぉし! よおおおし!」と言うシリカの声が、振る度に庭から発せられたのである。
結果としては四百七回で、カイルは動く事も出来なくなったが、教官のシリカは「良くやった」と言って、満足気な笑顔でそれを褒めた。
が、翌日は筋肉痛によって、カイルは微動だに出来ない状態になり、ルキスの「それ見た事か」と言う嘲りに対してシリカは何も返せなくなるのだ。
「きょ、今日はアレだ。動けないのなら、わたしの剣舞から何かを学べ!
防御をイメージするも良し、隙を見つけて攻撃をイメージしても良い!
見る事もまた勉強だからな!」
兎に角何かをしたかったシリカは、カイルを寝かせて庭へと出て行き、剣を片手に舞うような動きで、立ち位置や、足取りや、間合い等を見せつけた。
「……」
カイルはそれを真面目に見ていたが、やがてはシリカの服装に目が行き、揺れる胸やはためくスカート、そこから垣間見える三角地帯等、いつの間にやらそればかりを見ており、動けない身体で諸々を募らせた。
「なんすかあれ? 発情ダンスですか?」
「いや……本人としては真面目なようだが」
ルキスとヒュガルが話しつつ、玄関から出てどこかに飛んで行く。
それに気付いたシリカは止まり、ヒュガルの背中を名残惜しそうに見送った。
「いてっ! いててて!」
直後のそれはカイルの呻きで、すわ何事かと窓際に駆け寄る。
見ると、右腕が少々動き、股間の上あたりまで来ていたが、そこからはどうにも動かせないのか、片目を瞑ってカイルは耐えていた。
「どうした? どこか痛いのか?」
「い、いえ、大丈夫、大丈夫ですから……!」
シリカが聞くが、紅潮したカイルは、焦った様子でそれだけを答え、シリカが疑問して首を傾げた後にも、何かを隠そうとして右手を動かしていた。
結局の所、その日のカイルはいけないイメージを膨らませただけで、幸いにもシリカにはバレなかったが、股間を隠そうと努力しただけだった。
そんな事が数日続き、色々な意味でカイルはダウンし、それを見たヒュガルは今後の方針を変えるかどうかで悩むのである。
「ええー!? 自分と雌豚二人でですかー!?
だって、自分からやるって言ったんですよこいつ!?」
「そうだ! わたしのやり方に何か不満か!?
不満があるならハッキリ言ってくれ!」
本拠地の地下。玉座の間に於いて、ルキスとシリカがヒュガルに迫る。
迫られたヒュガルは玉座の上で、まずは小さく息を吐く。
「ううむ……説明がちと難しいのだがな。
物事には静と動がある。シリカの教え方も間違いでは無いのだろうが、私から見ると動に偏っている。
これではカイルの体がもたん。体がもたねば元も子もない。
故に私は静を求める為に、ルキスにも教官になって貰う事にした。
或いは向き不向きも分かり、隠された実力が引き出せるかもしれん。
残りは半月だが、一日交代でカイルを鍛えてやってくれ」
その後に言って、「話は以上だ」と、強制的に話を絞め括り、納得の行っていない二人を置いて、玉座から立ち上がって梯子に向かった。
「まぁ、半月を奪われたのはちょっと痛いけどぉ?
自分の教え方ならまぁ大丈夫かなぁ?」
「な、何を!? もう下地は出来上がっていたのだ!
ここから巻き返しを図る所だったのに……!」
「巻き返してるのはスカートだけでしょ?
ここからはリロンテキに行きますんで、脳筋は発情ダンスだけ踊っててくださーい」
「お前が理論的!? 笑わせてくれる! というか発情!?
発情とはどういう事だ!?」
それらを見てから首を振り、梯子を上ってヒュガルは外に出た。
そこではカイルが言いつけ通りに、一人で真面目に素振りをしており、流れる汗とその努力を見たヒュガルが背後で足を止めた。
「ここ以外には考えなかったのか?
そこまでの努力が出来るのならば、他に働き口を見つけられたと思うが」
そう言うと、カイルが動きを止めた。すぐにも振り返ってヒュガルに気付く。
そして、「あ、魔王様」と言ってから、ヒュガルの疑問の答えを返した。
「前にも言いましたが僕は獣人で、妹も、弟達も当然そうです。
僕の見た目は人間ですが、弟なんかはもっと獣っぽくて、山奥か、それこそ魔物達の中じゃないと安心して外に出られない位なんです。
だから、僕がここで頑張れば、近くに家が建てられるかもしれない。
そうしたら妹や弟達も、何の不安も無く外に出られますよね?
……だから強いて言うんだったら、夢の為の選択ですかね。
全員が笑って暮らして行く為の」
「なるほど」
だからこそ、この青年は頑張れる訳か。
心の中で納得し、カイルの前で両目を瞑る。
大きく、そして素晴らしい夢だな。と、思っている事が原因で、おそらくそれを最初に聞いて居れば、ヒュガルはカイルを採用しただろう。
家族を大切にしようとする者に、努力を惜しまない者は居ないと思うからだ。
だが、約束は約束で、約束とは果たされるべきものである。
故に、ヒュガルは目を開けた後には「頑張れよ」と言ってその場から去るのだ。
ヒュガルの本心からのその言葉には、カイルは「はい!」と力強く答えた。
そして、その翌日から二人の乙女指導による、カイルの猛特訓が始まるのであった。
シリカは体力、ルキスは知力、と、二人は役割をきっちりと分けて、カイルの訓練を進めて行った。
それは二人で相談した結果でも、相手のやり方を考えた結果でも無く、単純に二人の性格が正反対に近かった事が原因である。
一日毎に変わる訓練にカイルは当初は困惑していたが、二人のやり方に徐々に慣れて、少しずつ、確実に成長して行った。
そして、それから半月が過ぎ、試練の時がついにやってくる。
ヒュガルはルキスとシリカと共に、本拠地の庭で腕を組んで待っており、門番に立たせたオーガを移動させ、それを背後に道を見ていた。
いつもであればもうそろそろ経てば、カイルが現れる時間であったのだ。
五分が過ぎ、六分が過ぎた頃、その道に一人の男が現れる。
男は「ざぁっす!」と一言言って、玄関では無く庭へとやって来た。
「なっ!?」
それを目にしたヒュガルが目を剥く。
驚く理由は男の格好だ。
上から言うならまずはモヒカン。
これは赤で、鶏冠の如しで、そこから下に移動すると「くちゃくちゃ」と噛んでいるガムが見えた。
上半身には筋肉質な体と、黒いレザージャケットが見え、下半身のズボンはどういう訳か、右側だけが破かれている。
右手には謎のチェーンを握り、しきりにそれを回転させており、ヒュガル達の前にようやくやって来て、男は「遅れてサーセン!」と、不敵に笑うのだ。
「か、カイル……なのか?」
聞くと、男が「そーっすね」と言い、言われたヒュガルが「なんと……!」と呟く。
教官のはずのシリカとルキスは、顔を逸らして地面を見ており、それに気付いたヒュガルに聞かれて、そうなった理由を話し出した。
「ま、まずはそのぉ……見た目から入ろうと思いまして、結果としてああいう世紀末風のファッションに……」
これはルキスの言い分で、
「彼自身、あれでやる気になってな……
それを削ぐのも何だと思い、ついつい見逃してしまった訳だ……
だがな、体力はしっかりとついた! 見ろ、あの筋肉を!
以前の彼とは見違えるようだろう!」
「それはまぁな……」
こちらはシリカが発した言い分。確かに彼女の言ったように、カイルの体には筋肉がついていたが、それ以上に何か大切な物を失った気がするヒュガルである。
「ま、まぁ、本人が良いなら良いとしか言えんな……
では、早速だが勝負をして貰おう」
ヒュガルとしてはそうとしか言えず、言葉の後にはオーガを動かす。
言われたカイルは「ウィーっす」と言う軽いノリで、前に出て来たオーガと対峙した。
「魔法の仕込みはバッチリですんで!
自分への評価をお願いしますね!?」
「何を言う! 彼の肉体を鍛えたのはわたしだ!
評価と言うならわたしの方にこそだろう!」
ルキスとシリカがそれぞれ喚き、ヒュガルが「あー……」と小さく呻く。
「それは、勝負の結果次第だ」
と、一先ず言うと二人は黙り、拳を作ってカイルに向かって勝負の開始を静かに待った。
「勝負開始!」
「キタコレ!」
右手を上げてヒュガルが叫び、直後にカイルの体が浮かぶ。
どうやらルキスの教えた魔法で体を若干浮かせたらしく、教官たるルキスはそれに喜び、ドヤ顔を作ってシリカを見つめた。
「馬鹿者! 肉体だ! 肉体を使わんかー!!」
「うぃーっす!!」
状況を不利と見て取ったのだろう、拳を突き上げてシリカが叫ぶ。
それにはカイルはすぐに答え、浮いたままで腰を下げた。
「行くぞぉ! モヒカンアターック!!」
「ウボアアア!?」
そして、頭を正面に一気に飛びかかり、オーガを後方に吹き飛ばしたのである。
モヒカンの硬さはダイアモンドの如し。髪の毛は一本も乱れて居ない。
「筋肉関係無くねッ!?」
とは、直後のヒュガルとシリカの言葉で、勝ち誇って良いのか分からないルキスも、それには口を開けて呆然としていた。
「勝った! 勝ちましたよ先生に師匠!
お二人のお蔭です! マジ感謝っす!」
勝利を掴んだカイルは喜び、チェーンを引っ張って喜んでいたが、先生と師匠の二人はそれに「あ、はぁ……」と返す事しか出来なかったと言う。
結果としては勝利をしたので、カイルは正式に雇用された。
だが、口調と格好には問題があったので、雇主の強みで矯正はさせられた。
カイルは初めての給料を貰って、本拠地の近くに家を作った。
そして、そこに家族を呼び寄せて、一緒に暮らす事にしたのである。
それは、カイルの夢がほんの少しだけ実現に向かった瞬間であり、ヒュガルにとっては志が高い腹心を迎え入れられた瞬間でもあったのだろう。
この高い志は次回ではもう失くしています……