魔王としてまずすべきコト
※主人公には力がありますが、意味も無く奮う事を嫌っています。
故に無双展開はほぼありません。戦力を背景にした交渉等で征服を進めたいと考えています。
扉の前には男が立っていた。
厚く、大きな扉の前だ。
背丈はおよそで百八十程。髪の色は青色である。
見た目は殆ど人間だったが、彼の額には二本の角があり、例えるならそれは雄牛のように、若干曲がって突き出していた。
衣服は雪のように真っ白な物で、背中の短いマントは黒色。頭にはそれと同色の小さな大学帽子を乗せている。
これは彼のセンスでは無く、言わば学校の制服である。
彼はそう、人間では無く、魔王と呼ばれる特殊な存在で、邪神が作った魔王養成学校を首席で卒業したばかりの男であった。
その年齢は二百二十才。名をヒュガル・テツナと言う。
彼、ヒュガルは扉の向こうに居る彼らの主に呼ばれており、彼――もしくは彼女に呼ばれたが為に扉の前に立ち尽くしていたのだ。
「(さて……まずは何と言ったものかな……)」
首元を緩めて心で呟く。
聞いた話では「失礼します」と言って「失礼と分かってて入って来るんじゃねー!」と、消された者が居るとも言われる。
流石にそれは噂であろうが、警戒するに越した事は無く、それ故にヒュガルは第一声を何に定めるかで思案していた。
「そこに居るんでしょー。さっさと入ったら?」
だが、思案は無駄だったようで、あちらの方から声が聞こえる。
直後には扉が軋みを立てて開き、内部の様子を明らかにした。
すぐにも見えるのは紺の絨毯で、それは一直線に玉座に伸びている。
距離にするなら十m程か、その先には五段程の段差があって、その上には玉座が置かれてあった。
「(どうやら噂は本当だったらしいな……)」
これは扉の両脇に付く、肉塊やら血やらを見たヒュガルの感想で、それらを一瞥した後に中へと入って、正面に見える玉座に向かった。
やがて見えるのは一人の女性で、見た目の年齢は二十五~六。白く、艶めかしい脚を組み直して、紫の髪を右手で掻き上げる。
彼女の名前は邪神エローペ。
名前の通りに若干エロい、ヒュガル達魔王の主である。
本来の姿は巨大な蜂で、手足が八本もあるバケモノなのだが、補給と燃費を考えて普段は人間の形態を取っている。
今日の姿は黒のドレスで、胸元からヘソまでがY時に開けられており、下半身もそれと同様、股関節だけが隠されたようなものだった。
髪の長さは腰に届く程。触れば絹よりも柔らかそうな、煌めきを含めた美しい髪である。
体としてはグラマラスの一言で、「ボンキュッボン」を地で行く存在。
性格は凶暴で、かつ我儘。美がつく少年と青年には甘いが、中年と老人には容赦はしない。
例え、頭に美がついたとしても、中年と老人では即ミンチである。
「ヒュガル・テツナです。お呼びと聞きましたが……」
そんな噂を知っている為に、恐る恐るに膝を付き、顔を僅かに上へと向けて、呼ばれた理由をヒュガルが聞いた。
自分は一応若い方だが、美青年かと聞かれると少々疑問で、それ故にヒュガルは「このブサ男がーーー!」と、キレられる事を恐れたのである。
「そろそろさ」
「は……?」
直後の声にはヒュガルは疑問。
脚の上で両手を組んで、顎を付けてエローペが続ける。
「そろそろ天界とヤり合おうかなと思って。
あいつら最近チョーシコイててサ? ま、どうせ引き分けだろうけど、数百年から千年は遊べるし? 暇潰しには丁度良いかなって」
それにはヒュガルは反応できず、無言で瞬きを若干早めた。
「でさ、その間はアイツらも地上には手出しが出来ないのー。
だからアンタにはその隙に地上を征服して欲しいワケ。
言わば先読み? 出来るオンナ? 的な?」
「あ、はぁ……」
ヒュガルとしてはそうとしか言えない。
「その口調は何なんだ! 年齢相応の言葉を使え!」と、叱りつけたい気持ちはあるが、叱れば百パーキレられてミンチになる事が確定だからだ。
「て事で早速よろしくぅ~。時々あたしも顔出しに行くカラ」
「えっ、ちょっ、今日いきなりィィィィィ!?」
言われた直後にヒュガルの体は頭の先から細長くなり、一体どこへ行くと言うのか天井に向けて吸われ始めた。
例えるのなら砂時計の中の砂。それが逆さまに落ちるかのように頭の先から天井に吸われる。
「秘書のサッキュンと仲良くね~」
「いや、その! 親とか友人とかに連絡が! 寮の後片付けもまだなんですが!?」
エローペが手を振り、意識が途切れる。
ヒュガルがそれを取り戻した時には、一人の少女の顔が見えていた。
「魔王サマ! 出番です!」
第一話「魔王としてまずすべきコト」
「だ、大丈夫ですか魔王サマ……? 名前分かります? ご自分の名前」
「あ、ああ……ヒュガル……ヒュガル・テツナだ……お前は誰だ?
ここは何だ? と言うかなぜここに居る?」
聞かれた為にそう答え、ヒュガルがその場に立ち上がる。
天井まではおよそで三m。横幅はおそらく八m程か。
坪やら広さは不明であるが、どうやらそこはどこかの地下らしく、非常に薄暗い場所であった。
「あ、自分はルキスって言います! よろしくお願いします魔王サマ!」
「あ、ああ、よろしく……じゃなくてだな!!」
直後のそれにはそう返し、改めてヒュガルが少女を眺める。
見た目の年齢は十二~三才で、髪は金でツインテール。
胸元と脚とヘソを露出する、年齢に相応しくない衣服を着ており、まな板のような胸を誇示して、ヒュガルの前でポーズを取っていた。
顔の造りは可愛いと言って良い。幼顔なので何とも言えないが、将来、もっと成長すれば美しくなるだろうとヒュガルは思う。
服装の色は大体が黒。しかし、一体どういう意味か、ホットパンツの股間部分には雷のマークが描かれている。
露出された両脚と、胸元とヘソは健康的だが、ヒュガルは幼児趣味では無いので、それ以上の感想は抱かなかった。
「どうですか? ヨクジョーしちゃいました?」
「生憎そういう趣味は無くてな……ささっと説明をしてもらおうか」
少女――ルキスにヒュガルが言って、聞いたルキスが「がーん!」と言う。
それにも構わず待って居ると、ルキスはようやく説明を始めた。
「えーと……まずは自分ですが、魔王サマの秘書になります。
種族はサキュバスで百二十才。
あんな事やこんな事は興味はありますが未体験デス……
で、ここは人間界で、どこかの空き家の地下だったりしますが、他にアジトらしきアジトも無いので、当面はここが本拠地になります」
その言葉には今度はヒュガルが「がーん」とは言わないが衝撃を受け、それを見たルキスが「にひひ」と笑って、近くにあった箱を開けた。
それから出したのは古びたマントで、叩いた後にヒュガルに見せる。
色は黒で、相当に古く、割と高身長のヒュガルが着ても、十センチは丈が余ると思われた。
「そ、それは……?」
「先代の魔王サマの遺品ですね。やっぱり魔王サマはコレが無いとー」
聞くと、ルキスがそう言ったので、ヒュガルが「不吉な……」と小さく返す。
それでもルキスが押して来るので、帽子とマントを脱いで受け取り、着用した上で背中に回すと、先代らしき魔王の残留思念が見えた。
首が飛び、体が燃える。そしてどんどん溶けて行く。
「ぎゃあああ!?」
突如のグロさに耐えきれず、マントを脱ぎ捨てる事でそれを消した。
「あれあれ? 何かお気に召さない?」
「全てだ全て! こんなものはもう捨てろ!」
出だしとしては最早最悪。未来の自分を見ているようで、ヒュガルの呼吸が大いに乱れる。
それを聞いたルキスが歩き、落としたマントを両手で拾った。
「何だか良く分かりませんけど、そういう事なら捨てて置きますね。
炎に水に雷に、土魔法耐性百%のチョー凄いマントなんですけど……」
「そっ! そういう事は先に言え!」
その後に分かった効果に驚き、ヒュガルが慌ててマントを奪う。
奪われたルキスは瞬きを早めて、「何なんですかね」とまずは言った。
「なんか、優秀なお方って聞いてたんですが、もしかして手違いがあったんですかね?」
「どういう意味だ……どういう」
続いた言葉にはそう答え、ヒュガルはとりあえずマントを羽織る。
残留思念は消えたのだろうか、グロテスクな映像は蘇っては来ず、ようやくの思いで息を吐いて、「それで、状況は?」と、ルキスに聞くのだ。
「割とサイアクな感じですかねー。
大陸の殆どは人間に支配され、かつての魔王軍は散り散りの状態。
魔王サマの城も今は無く、代わりに勇者記念館が建ちました。
そのせいで本拠地は空き家の地下ですし、殆ど唯一の希望と言えば、今は勇者が居ないって事だけですか」
腕を広げてルキスが言って、それにはヒュガルが「ほう……」と返す。
「居ない、と言うのはつまり死んだと?」
「ですねー。享年八十三才で、隣の人妻が着替えをしている所を見て、心臓発作で死んだらしいです」
「そ、そうか……功績に見合わない気の毒な死に様だな……」
そこには一応の敬意を示し、動揺しながらもそう言って置く。
倒された魔王が死に様を聞いたら化けて出そうな最期と言える。
「勇者の勇者は最期まで勇者だった。
突き破らんばかりに膨張したそれは、天を突かんばかりになっていた。
と言うのが、最期を看取った僧侶の言葉だとか。
これってどういう意味なんですかね?」
「い、いや、分からんな……分からんで良い……」
大体は分かるが敢えて言って、ルキスの疑問をあやふやにする。
その後に「さて」と一言言って、地下室の出口を探し出した。
何はともあれ偵察に行こう。と、ヒュガルは考えた訳なのである。
「あ、トイレとかはまだ無いんですよー? その辺でするのがキツかったらこの箱にチャチャッとしちゃって下さい」
「するか! と言うか違うわ! 偵察に行きたいと言うだけだ!」
誤解を解くと、ルキスは苦笑いをして、箱を両手に一歩を下がった。
それから「あー、ソウデシタカ……」と言って、箱を置いてから移動をしたのだ。
向かう先はヒュガルの左。椅子やら、机やらが転がっている向こうの、布がかけられている一画である。
ルキスはそこに辿り着いた後に、カーテンを引くようにして布を動かし、それによって梯子を現して「ここデス、ここデス」と嬉しそうに言った。
ヒュガルが近付き、ルキスとすれ違う。
その際にルキスに「魔王サマぁ~ん♡」と抱き付かれたので、冷静な顔で「何だ……?」と聞いた。
「あ、いや……何かスミマセン。
自分、基本サキュバスなんで、いきなりハツジョーする事があるんです」
「そ、そうか……それは難儀な事だな」
大丈夫かこいつ……と、正直思うが、そこは現状唯一の部下。
見捨てるにしても見捨てられず、ヒュガルはそこではそれだけを口にした。
「でもでもぉー。誰でも良いって訳じゃなくて、好みの相手じゃないとならないんですよ? そこは誤解をしないで下さいね? つまり、自分は魔王サマがぁン……」
それには「ああ……」と言葉を返し、押し退けた上で梯子を上る。
告白を途中で止められたルキスは「がはぁ!」と若干ショックを受けていた。
秒数にして五秒程を上ったか、木の蓋を押し上げて屋内に現れる。
時刻はおそらく昼頃だろう。木枠の無い窓からは陽の光が差し込み、少し寒いと感じる風が同時にそこから入って来ている。
一言で言うなら屋内は乱雑。様々な物が転がっており、まさに廃墟と言う体だ。
家の周囲はどうやら森らしく、人の気配は感じられない。
「とりあえず人間の住んで居る所に行きたい。場所は分かるか?」
「あー、はい。わかりますわかります。村と街、どっちが良いですか?」
ヒュガルが聞くと、ルキスは言って、「よっこいしょ」と付け加えて地下から出て来た。
「うむ……まずは村から行こう。少しずつ情報を集めたいのでな」
「りょーかいでーっす!」
ルキスが答えて動き出し、玄関では無く窓へと向かう。
そして、そこを乗り越えて「魔王サマこっち!」と言って来るのだ。
「最優先事項に家の修復も加えよう……見るに堪えん、ああいうものは」
基本A型のヒュガルは思い、玄関を探してそこから外に出る。
その時には額の角を消して、人間と変わらない外見になっていた。
「オオゥ……魔王サマ超イケメンですぅ……抱き付いてスリスリしても良いですか……?」
それには「駄目だ」とヒュガルは即答。言われたルキスは「ぎぎぎ」と言って、仕方が無しにそれを諦めた。
「さ、それでは案内を頼もうか。人間の前では奇行はよせよ」
「す、すでにアホな子扱いになってるぅー!?」
その言葉には頭を抱え、ルキスが絶望して不規則に動く。
しかし、ヒュガルに「おい」と言われて、気を取り直して案内を始めた。
人間達の村に着いたのはそれからおよそ一時間後の事で、情報を集める為に訪ねて回っている際に、二人はある事件に巻き込まれるのである。
「強制徴収だ! 食い物を出せ! 出せないのなら金目のモノを頂いて行くぞ!」
村の雑貨屋で話していた時、それは唐突に店内にやって来た。
人数は二人で、武装をしており、入って来るなり店主に要求。
言われた店主は返事をした後に、慄きながら奥へと消えた。
どうやら国の兵士のようで、殺気立った表情で辺りを見ている。
同様の騒ぎが外からも聞こえたので、他所でも行われている事をヒュガルは察した。
強制徴収と言う名の略奪。
近く、戦でも起こすのだろうか、何にしても良い事では無く、口出しこそしないがヒュガルの顔は、自然、険しい物へとなっていた。
「なんだぁその顔は? 文句でもあるのか? と言うか何だ? この村の住民か? だったら何かを収めて貰うが?」
「あーいやー、自分達は旅人デスよ。ほんと、全くカンケーありません」
兵士に聞かれ、ルキスが答える。その後には「イヒヒヒ」と卑屈に笑い、兵士の興味と視線を逸らした。
現状では何もわからないヒュガルも、ルキスを評価して兵士達に絡まず、成り行きを知る為に両目を瞑って店主が出てくるのを静かに待った。
「お、お待たせしました。今はもうこんなものしか……」
店主が戻り、芋を見せる。量としては掌一杯、およそで二百g程度の芋だ。
それで納得が行かなかったのか、目にした兵士の眉毛が動くが、店主が「本当なんです!」と言うと、舌打ちをしてからそれを受け取り、店内にある適当な物を奪った後に去って行った。
「こういう事は割とあるのか?」
直後の問いはヒュガルの物で、店主はそれに「はぁ」と答える。
「ひとつきに一度はやって来ますな……それに若者も徴兵された……この村はもうおしまいですじゃ」
その後に続けた店主の言葉には「ふむ」と返してヒュガルは外に出た。
どうやら徴収は終わったようで、荷物を載せた荷馬車が出て行く。
それらを横目で見送った後に、「これではいかんな」とヒュガルは言った。
ヒュガルは魔王だが、人間の敵では無く、彼らを虐げようとは思っていない。
出来る事なら共存に近い形で、上手に付き合って行きたいと考えている。
養成学校では異端であったが、それ故にヒュガルは独特の切り口で学校の首席に成り上がったのである。
強いて言うなら敵は勇者だけ。
これがヒュガルの掲げるモットーで、それ故に彼はこの現状には思う所が相当にあった。
「最初の目標はこの村にしよう。その為には多少なりとも戦力が要るな」
故に、この村を支配する事を決意。圧政からの解放を条件に定期的な収入を提案する事にした。
が、そうする為には戦力が足りない。自分がそれを引き受けても良いが、やるべき事は山積みである。
どうするべきかと考えていると、不思議に思ったルキスが聞いてきた。
「も、目標ってなんです? もしかして、この村を焼き払ったりしちゃうんですか? 自分良いですか? 最初に火を点けても?」
「何を馬鹿な……生産者無くして国の繁栄がある訳が無かろう。
今までの魔王がどうだかは知らんが、私は人間だからと言って、無闇矢鱈と殺す気は無い。お前も私の秘書をするなら、その事は良く覚えて置け」
ルキスに聞かれ、ヒュガルが答える。ルキスは若干嬉しそうだったが、その言葉を聞いて「マジですかー……」と一言。
直後には「ワカリマシタ……」と残念そうな顔になり、ヒュガルの意向に大人しく従った。
どちらかと言うと人間=敵、もしくは餌と見ていたのだろうが、主と認めたヒュガルの命令にはどうやら黙って従うらしい。
「まぁ、とにかく少し先の話だ。出来なくはないが、手が足りん。まずはそこから解決して……」
行こう、と、最後まで言えずにヒュガルが気付く。
見ている先は村の外だ。
現時点では何も見えないが、その先に居て、迫って来る者をヒュガルは気配で察したのである。
人間では無くそれは魔物で、数はおそらく二十から、二十五くらいだと推測される。
「あっ! ちょっ! 魔王サマ―!?」
ヒュガルが飛んでルキスが続く。
飛び乗った先は家の屋根で、魔物達が来た理由を知る為に観察しようとして移動をしたのだ。
数分が経ち、魔物達が現れる。数はヒュガルの予想の範疇で、それに気付いた住民達が慌てふためいて自宅に逃げた。
魔物達はその後に村へと侵入し、ドアをこじ開けて屋内へと踏み入る。
そして食糧、女、子供等を奪って、やって来た方向へと姿を消した。
生き残った者はただただ涙し、自身の無力さに打ち震えるだけ。
雑貨屋の店主も家から出て来て、膝をついて絶望していた。
「いやー、間近で見るとハクリョクがありますねー……魔物怖いワー。そりゃ負けるワー。みたいな?」
ルキスの言葉を軽く無視し、ヒュガルは家の屋根から飛んだ。
着地した先は林の木の上で、ルキスが慌ててヒュガルに続く。
「ちょっ! どこ行くんですか魔王サマ―!
もしかしてアレですか? 俺様は魔王だぞ! だから分け前寄越せ的な?
ヒュゥー♡ その極悪さにシビレますぅぅ!」
首を振り振りルキスが続くが、ヒュガルはそれには「あのなぁ……」と返答。
ルキスが「ん?」と目を点にした事を見て、ため息を吐いて言葉を飲み込んだ。
「端的に言えば配下にする。お前の力も見せてもらうぞ」
「えひッ!?」
何とか言って木の枝を飛び、ルキスと共に魔物達の背を追った。
魔物達のアジトは森の中の木材置き場に作られていた。
今はそこに腰を落ち着け、奪ってきた戦利品を見せ合っている。
その中には女や子供も見られ、自分達のその後の運命を察して、青ざめた表情で口を閉ざしていた。
「奴がボスか。オーガのようだな」
そこまでの距離は十m程か。木の枝の上からヒュガルが伺う。
視線の先には四m程の灰色の巨人が座っており、奪ってきた豚に頭からかぶりついて、骨ごと砕いて飲み込んでいた。
「あ、あんなのが配下になりますかねぇ?
オレサマオマエマルカジリ! アーッホ!?
で、終了になっちゃいそうですけど……」
「それをするのが魔王の技量だ。ああいう輩には頭で分からせるより、体で分からせる方が話が早い」
ルキスに答えてヒュガルが飛んだ。
着地した先は魔物達の目前で、少し遅れてルキスも着地して、ざわめきの声に迎えられた。
「この度、この世界での魔王となったヒュガル・テツナと言う者だ。
お前達の力を必要としている。これからは私に従って欲しい」
ヒュガルが言うと、皆は沈黙し、食事の手を止めてヒュガルを眺める。
魔王サマキタァ! と言う驚きでは無く、何だこいつ……? と言う呆れた顔で、その後の反応が分かり切っていたので、ヒュガルは小さく息を吐いた。
「ヒャーッホッホッホッホッ!!」
予想通りに彼らは爆笑。すぐにも武器を片手に立ち上がり、ヒュガルに一斉に切りかかって来た。
「やはりこうなるか……任せたぞルキス」
そうなる事は分かっていたので、ルキスに言って一歩を下がる。
言われたルキスは「えっ!?」と慌てて、とりあえずの形で四つん這いになった。
「う、うっふぅ~ん……♡」
直後のそれは精一杯の悩殺で、ぎこちないながらも片目を瞑る。
「死ねやダボがぁぁぁ!」
「キャアアー!?」
が、それは全く通じず、跳ね上がる様にしてルキスは逃げた。
「何をやっとるんだ……何を……」
額を押さえて一言を言い、マントを払って一歩を踏み出す。
それから漆黒のオーラで受け止めて、十数匹を一気に飛ばした。
飛ばされた敵は木や木材等、様々なものに体をぶつけ、あまりのダメージに身動きが出来ずに武器を落として気を失った。
「なっ、意外にやるじゃねぇか……せ、先生お願いします!!」
それを目にしたオーク(豚顔の魔物)が言って、言われたオーガが立ち上がる。
武器はどうやら丸太そのもので、それを右手に一歩を進んだ。
地響きがして地面が揺れる。子供と女がそれに恐怖して、動けないながらにも体を動かす。
オーガはそんな中でヒュガルの前に立ち、「ま、魔王サマなのか……?」と、苦しそうに聞いて来た。
「あ、ああ……一応そうなっているが……何だ? 戦うつもりは無いのか?」
もしかして会話で解決出来るのか。そう思ったヒュガルが警戒を緩める。
「そうだよ! この人は魔王サマだよ! 分かったらさっさとドゲザするんだよおおう!?」
とは、いつの間にか舞い戻ったルキスの言葉で、自分以外の者に対しての、ルキスの言葉遣いにヒュガルが驚く。
「なら、お前を倒せば俺が魔王!」
「なぁっ?!」
「キャー!?」
そして、それが命取りになり、オーガの動きへの反応が遅れ、挙句にルキスを庇った為に、ヒュガルは丸太に直撃するのだ。
ヒュガルはその後に森へと吹き飛び、木を薙ぎ倒して何とか停止。更にその上に木が倒れ込み、トドメとばかりに丸太が投げられた。
「あああああ……ま、魔王サマが……魔王サマが自分のせいで……しかもオーガなんかにやられちゃってまぁ……」
口を開け、右手を咥え、小刻みに震えてルキスが戸惑う。
一方のオーガ達は大いに勝ち誇り、新魔王の誕生に盛り上がっていた。
……が、丸太と木が吹き飛んで、ヒュガルが現れると一気に鎮まり、オーク達は後ずさりして、オーガはパニックで素手のまま突っ込んだ。
「グオオォ!?」
オーガの体が球に包まれる。黒い大きな球である。
直後にオーガはそこで停止して、巨体を地面にめり込ませ始めた。
そうしたのは勿論、魔王であるヒュガルで、重力波による魔法攻撃でオーガの動きを封じたのである。
「どうだ? まだ納得が行かないか……?」
そして、オーガ達に向かって言って、数十秒後に彼らの降伏を受諾。
これからは自分の指示に従って生きて行くと言う事を約束させた。
女と子供もここで解放し、ヒュガルとルキスはアジトに戻る。
その際にオーガがついて来たので、彼には門番の任務を与えた(中にはそもそも入れないので)。
アジトの地下室。
要らない物を動かしつつ、ヒュガルとルキスが会話を続ける。
「いやー、ホント、ビックリしました。
てっきり手違いかと思ってましたけど、魔王サマ本当に強いんだもの~」
「逆にお前には失望したがな……
あの場で「うっふぅ~ん」は流石に無いだろう……」
「あ、いや……あれはいきなりだったんで、今度はちゃんと「カモォ~ンベイビィ♡」って言いますよ」
それには何も返せなかったヒュガルは、とりあえずの形で息を吐く。
「そうだ。人材を募集しよう」
「あ! すみません! クビだけはやめて! 何でもします! 何でもしますから!」
何気なく言うと、ルキスが慌てるので、「じゃあこれを」と一言言って、ヒュガルは箒をルキスに渡した。
「えっ……ケツを打て的な? いやぁ、自分どっちかっていうと打たれる方が好きなんですが、まぁ、それが命令でしたら……」
「ちがーう! 掃除だ! 掃き掃除だァーっ!」
舌なめずりをしてルキスが言って、ヒュガルが拳を突き上げる。
それを聞いたルキスは渋々と地下室の掃除を始めるのである。
初めましての方は初めまして!
お付き合いのある方はまたまたどうも……
魔医者、が代表の薔薇ハウスです。
新作の合間に創った物ですが、コメディは創って居て楽しいですね…
相変わらずの声イメージなんかは、活報の方に上げておきます。
一応十話まで完成しているので、更新は二日に一度位で。
続きはまぁ、ご要望があれば、新作の完成後に創ろうかなと思ってます。
それでは古参様もご新規様もよろしくお願いいたしますです!