表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

独占欲を深めた子供とにぶい大人 上





僕は今日、中学1年生になる。

父さんは、入学式のために午後は会社を休んでくれると約束してくれた。

けれど…





(遅いな…)


何度も携帯に視線が向かう。

30分前に「少し遅れそうだが間に合うように行く」と受信した携帯はずっと沈黙していた。









子供が携帯を見てため息をついた頃、俺は家に向かい車を走らせていた。

午前中仕事を片付け担当フロアを出る瞬間、よろけた女子社員を受け止めたところ、運んでいたコーヒーがかかってしまった。


(ついてないな)





家の鍵を開け手早くシャワーを浴びて、慌ててクローゼットからスーツを取り出す。脱衣所でくしゃくしゃになったスーツはそのままだ。シミになるだろうが、悠長に水に浸してたんじゃ遅刻してしまう。


(まあ、かぶったのがぬるくてよかった)





しかし、濡れている為なかなか決まらない髪型にイラつく。舌打ちしながら鏡に視線を向ける。






(急ごしらえにしては、いけるか?)





決して容姿に不自由してるわけではないから、きちんとした格好をすればイケメンの部類に入る。

学生だった頃から幾度となく言われてきた言葉だ。





分かってはいてもあの日から、普段はラフな服装に加え髪型も気が向いたときにだけにしてるのでモテない。あいつの側にいても釣り合わないと言われたくなくて、さらにおしゃれに精をだしてた大学の頃は女性からの人気もあったけれど、あいつがいなくなってから急におしゃれをするのが馬鹿らしく思えた。



見せたいあいつもいないのに。








なんとかパリッとキめて、家を出る。ドアを勢いよく閉め、発進させて時計をチラリと見る。

すでに開始時刻に迫りつつあった。ギリギリ間に合うと思っていたのだが、予想以上に準備に手間取っていたようだ。



(絶対、間に合わせる)


右足で勢いよくアクセルを踏んだ。







規定速度を少し超えた車が勢いよく学校の敷地内に定められた駐車場に到着した。タイヤの摩擦で白い煙がたっていて、ざわめきとともに保護者も生徒も一斉にその車に注目した。






(――なんだ?)


車を降りてからふと視線を感じ、周囲を見渡すと数人の女生徒が慌てて俺から目を逸らした。ショックを受けつつ、少し考えて納得する。



(そりゃ、暴走車みたいなのがいきなり来たら怖いよなぁ……悪いことをした)




大事な式に遅れそうだったとしても、俺が悪い。反省して再度こちらを見てきた女生徒に誤魔化すように笑った瞬間


「どうかしたの」




回りに気を配っていた俺に、なんだかやけに冷ややかな声であいつの子供が呼びかけた。



「いや、なんでもない。それより間に合いそうか」



心臓に悪いタイミングに、バクバクしだした鼓動を無理やり抑え込む。

もしや遅刻したか…。一筋の冷や汗が背筋を流れる。




子供は無表情でこちらを見ている。正直怒ったときのあいつそっくりでかなり怖い。





穴が開きそうなほど俺を見ていた子供はため息を吐いて、俺を体育館へ案内しだした。

















父さんはカッコイイ。いい男は?って言われて、即座に顔が浮かぶくらいには。



父さんと生活して成長するうち、父さんが「イケメン」で「優良物件」であることはわかっていた。えっと…上場企業?ってやつに勤めてるからお前一人くらいどうってことないって笑って頭撫でられたし(なんでか胸がキュンとした)、コブ付きでもいいから付き合ってって言っていた女性(この人は子供の前で何言ってるんだって父さんにその場で断られてたけど)も居たし、…でも、これはズルイと思うんだ。






(あと15分か…。間に合うかなぁ)



真新しい制服も、父さんが居なきゃなんだか味気なくてずるずる壁伝いにしゃがんだときだった。




今までアクション映画でしか聞いたことがない物凄い音とともにやってきた車は、スピンでもしそうな勢いで白線の内側に停まった。1拍の間を置いて出てきたのはまさかの父さんで、僕はびっくりして寄りかかっていた壁から一気に身を引きはがした。




ちゃんと来てくれたことが嬉しくて、父さんに駆け寄ろうとしたけど注目を集めているとうさんの側には行きづらい。ひとまず周りの様子を窺っていた僕は、気づいた。



(………父さんは僕のなんだけど)




明らかに父さんを見ているほとんどの人の目がハート型になっている。苛々して父さんに視線を向ければ、ほつれて前にきた前髪を後ろに撫で付けていた。なんでもない仕草にどきりと心臓が音をたてた。…父さんはやっぱりズルい。



ふと、見られていることに気付いて困ったように微笑んだ父さんを見た瞬間、ゆるんでいた頬が素早く引き締まったのを感じた。苛立ちのままに、僕はさっきまでの躊躇を投げ捨てて父さんへ一歩を踏み出した。







じっと父さんを観察する。僕をみた父さんはバツが悪い顔をしていて、まるで自分に向けられた好意の視線に気づいてなかった。



僕は安堵のため息をついて、父さんを体育館へと誘導した。






――――なぜ安心したのかも分からずに。

ただ、いつだって父さんはトクベツだった。










・モテている自覚のない天然タラシはタチが悪い。

・女子社員は運命(笑)の出会いのきっかけにしたくてわざとよろけた。

軽くよろけるつもりがガチでよろけてコーヒーぶっかけるしで顔面蒼白。

「俺」の好感度もダダ下がりになりました。

詳しく書いてたら小話になったのでボツ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ