今度こそ、
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黒い服が前を横切ってゆく。
(ねぇ、若いのに…)(お気の毒だわ)
どこを見ても黒い服の群れ。皆表情は暗く、空気までどこか薄暗く感じる。
(新婚さんだったんでしょう?子供だって、まだ小さいのにねぇ…)
棺桶に入ったあいつの顔は見れなかった。遺体の損傷が激しいからと、蓋は閉じられていた。
―――――――――このままあいつのあとを追おうか…。
何もかもが急にどうでもよくなって、座布団から腰を浮かしかけた時、
(―――――うちはもう無理よ!3人も居るのよ?! 施設に入れましょう)
なぜだか、ぼんやりとする脳の中にするりとその言葉が入ってきた。警告音のように、頭の中でしつこいくらいリピートするその言葉。
ようやく回りだした頭で、その意味を認識した瞬間
あいつの息子を俺は探していた。
屋敷中、駆けずり回って見つけたあいつの息子は、冷えた廊下の端っこで俺が贈ったぬいぐるみを抱いていた。ぬいぐるみの腹に付けられた写真はみんな笑っているのに、こどもの涙で泣いているように見えた。
状況は分からなくても、周りの雰囲気は分かる。
異様な雰囲気に怯えて泣いてるあいつの子供。
(大丈夫だ。怖いことは何もない。今度こそ、…あいつのかわりに俺が守るよ)
ゆっくりと、怖がらせないように子供の前にひざまずく。不安に揺れる瞳。
(あぁ、あいつと同じ目をしないでくれ。幸せな目で、どうか笑って)
気がついたら、言っていた。
――――――――俺と、家族になるか。
涙で濡れた顔が、ぎこちなく笑った。
戻った会場では、参列者の冷ややかな目線にも気づかずに残った子供をどうするかでまだ言い争っていた。俺の腕の中で、子供はさらに身を小さくした。
俺が、引き取ります。
そう、大きな声で言ったわけではない。けれどぴたりと止んだ話し声に、ちゃんと届いたことを知る。
急に現れた男に、唖然とした空気の中俺と子供は会場を後にした。
去り際にちらりと見えた、あいつの親戚だろうおばさんの、ほっとした顔がやけに苦く胸に残った。