大学入学の日。俺はあいつのストーカーに一生を捧げることになるなんて思ってなかった
・不器用な男が、あいつを幸せにしたい話
・男はあいつにべた惚れ
・無償の愛。アガペー。
・最終的に年下×おっさん予定
・短編のつもり。支離滅裂だけど「俺」のあいつへの思いだけはたっぷり込めた
・
悪夢を見て、声にならない悲鳴をあげて布団をはねのけて飛び起きた。時刻は5時を少し回ったところで、俺は、まだばくばくと忙しない心臓に手をやる。
―――――――もう何年も経つのに、いまだに俺はあいつを忘れられないでいる。
あいつは大学の同級生で。
いつも人の輪の中心にいるようなやつだった。
ノリが良くてコミュ力高くて格好良くて、なんでもソツなくこなす。
リア充でイマドキの若者の見本みたいな奴で、暗いとこなんか一個もないように見えた。
その恐るべきコミュ力でたちまち入学式の日に隣の席に座った無口無愛想な俺とも会話を成立し、友達から親友といえる仲にもなった。あいつとの会話は気楽で面白い反面、内心そりゃあ嫉妬した。
欠けてるもんねぇのコイツ。ハイスペックか。ズルいなー、羨ましいって。
でも、親しくなるにつれてわかってくる。
蓋を開けてみれば奴は苦学生で、バイトだって俺より掛け持ちしてることとか。
親は中3で死別して下に弟1人いて家事が大変だとか。
実は親の借金を毎月返済してるとか。
幼いころは虐待されてて、その痕が体に残ってるから絶対服を脱がない、とか。
(むしろ相当苦労してんじゃねぇか)
でも、あいつは愚痴ひとつこぼさずいつも笑顔で働いて、寝る間も惜しんで勉強して。俺より全力で、生きていた。
俺にはそれがまぶしくて、羨ましくて仕方なかった。
あいつは、俺の親友は見た目だけじゃなく、中身だって、すごい格好いい奴だった。
3か月もすれば、そばに居るだけで居心地が良いあいつの隣は俺の特等席になって、くだらない嫉妬心はゆっくりと恋心に変化した。でも、あいつに思いを伝えることは一生ないことも自覚した時から決めていた。
自分の家族が欲しいとこぼしたあいつの夢を叶えてやりたい思いもあったし、あいつが男に、しかも親友の俺に告白されて苦悩するさまがすぐに浮かんだから。
だから、俺はこいつにとってずっといい友人で、いい親友でいようって決めた。
なにもこいつに求めない。
ただあいつが、俺より1秒も長く笑って生きていたら、幸せだ。
かみさまがこの先の俺の幸運全部あいつにあげてくれたらいい。
ほんとは、俺と家族になって幸せにしたいけど。
講義の内容そっちのけで俺はそんなことばかり考えてる。
なのに、最上の幸せを願ったあいつが今俺の胸の中で泣いている。
どうした。
なにがあった。
勢いのままに、肩をつかんで色々問い詰めたかった。
でもたまに漏れ聞こえる嗚咽の中で、とても悲しくて悔しい思いをしたことは分かった。
慰めの言葉なんか言えなかった。きっとこいつは薄っぺらい言葉なんて聞き飽きてる。いつだって頑張ってるコイツに、更に頑張れなんて言えない。
だからどんどん湿ってゆくTシャツに苦笑して、やがて泣き疲れて眠った奴の目に濡れタオルを置いてやる。
こいつの弟に一言電話した後は、ただ黙って1晩中抱きしめて夜を過ごした。
朝、起きてきた奴のぐちゃぐちゃになった顔を見て男前が台無しだなと笑った。
俺の、あいつとの大事な思い出