Brunt de la colère~怒りの矛先~
じじいは言った。
「わしの財産の全てを、大門寺勇輝へ譲渡する」
と。
「いったいそのお方とおじいさまはどういう関係なのですか?」
この僕が、遺産を相続するはずだった。
それが剥奪されたという事実を飲み込めずにいた。
そう一部ではなくすべてをこの僕以外の誰かに譲渡するなど信じられなかった。
「ふむ。道を示すものと道を歩むものかのぉ」
「はっ?」
僕の質問にじじいは、答えにならない答えを返した。
いったい何を言っているんだじじいは……変な宗教にでもはまったか?
そんな最悪なことあるか!
どうして俺のものを他人に奪われなければならない
ふざけんな!
湧き上がる怒気を必死に抑える。
激情のままに動くのは、いくら身内のみの場とはいえ八条院の名に恥じる行為だ。
「おじい様は、宗旨替えでも致しましたかな?」
なれだろう。毎日、厄介なお偉い方と会合しているおかげで感情を表に出さないようにするのはたやすかった。
内側で、どんなに怒り狂っていても、表面上は今まで通りに繕う。
しかし、彼の心の内は、彼がじじいといった男の前では、丸裸も同然だった。
彼があわててかぶった仮面は、意味をなさない。
八上院 源十郎
立った人世代で、八上院グループを立ち上げ世界に翻意や世界有数の企業としたその人のまえでは、彼はひょっこに過ぎなかった。
「いいや。違うぞ。智よ。わしがカルト宗教にでもだまされているとでも本気で思ったのかな?わしはこう見えてもこの家を繁栄したものだぞ。そう馬鹿にするものではないぞ。」
ほぉほぉと、笑いながらお茶をすする姿には、貫禄があった。
「ですが」
智は、思わず正座を崩し立ち上がる。
「お前に何を言っても無駄だということはわかっている。お前は今目当てにしていた遺産が手にはいらずに頭に血が上っておる。そうなる気持ちもわからなくはないがのぉ」
「たしかに、頭に血が上っているかもしれません。ですが、納得いきません。納得いく説明を下さい。」
仮面を脱ぎ捨て全身から、拒絶のオーラを出していた。
血走った目。
欲にくらんだその姿は人間でなく、まるでどうもな獣のそれだ。
金は使うものであってつかわれてはならない。
そう、源十郎は彼に言い続けて育てたはずだが、どうやら自分の忠告は役立っていないようだ。
目の前の姿を見て、大仰な溜息をつく。
「別に、わしの所有物をどうしたって問題はないだろう。納得がいかないだとな。ふむ、納得しなさい。それが無理なようならば、そうだな彼に会って勝負でもしてみるがいい。お前は彼に敗北するぞ」
カコン
襖の向こうで、獅子脅しが鳴った。
やはり、アイツは納得しないようじゃな。まぁ、納得しないとは、思っていたがな。
カコン
予言じゃ
わしがこの年になって手にしたのは、未来を見るという力じゃ
どうせ手に入れるのなら、わしがもう少し若く会社を興すときとかにほしかったのぉ
こんなおいぼれには過ぎた力じゃ
わしは、ここ数か月とある3人の若人のことを夢に見る
だが、素奴らがいったい誰なのかはわからぬ
いや、つい最近までわからなかっという方が正しいかもしれぬのぉ
一人は、緑色の長い髪のおなごじゃ
予知する未来ではいつも戦っておる
自分自身や、これから味方になるものたちとなぁ
大切な人の気持ちすら利用して、仮面をかぶって本心を隠し孤立奮闘しておる
もう一人は、銀髪の男の夢じゃ
こやつは、あの緑色の髪の少女と出会い運命を変えたようだのぉ
派手な装いをして、同じような力のもちぬしを束ねておる
そして、こやつはいつも誰かから何かを奪っておる
ふむ、破壊活動の日々じゃ
破壊は何かを生み出すのかのぉ?
まぁ、ほかの企業をつぶしまくったわしが言うとあれじゃがな。
最後の一人は、金色の髪に青い瞳を持つこれまた少年だ。
みどりの髪の少女のことを強く思っているのじゃな
どうやら、彼はみどりの少女が自分の前から去ったことを強く後悔して、少女の残した夢物語を現実に起こそうとしているようじゃ。
それが、少女の策略だとも知らずになぁ。
だれもかれも、まだ年端もいかぬのにようやる。
革命ともいえることに平気で手を出す。
畏れる気持ちを無理やり封じ込めて、ただ何かの目的のために仮面をかぶり続けるのじゃ。
若い者に、負けているようじゃダメじゃと思ったんじゃ。
だから、かれらの行く末の道の手助けをしたくなったのじゃ。
わしは、老い先短い身じゃ。
死後の世界には財産など持ち込めん。
わしの家族はわしの財産がなくとも十分に暮らせるはずじゃ。
だからのぉ、わしは決めたのじゃ。
先を見ているときにたまにじゃが未来とは関係のないものと出会うことがあるのじゃ。
そう、長い黒髪の幼女じゃ
こやつは、ほかの二人とは何かが違う
わしもたまに見る程度じゃが、それははっきりと認識させられたのじゃ
正直、死神かと思ったのじゃ。
遂にばあさんの迎えが来たのかと思ったのじゃ。
「あなたは道を描くもの。道を見て、導くもの。彼らを導いてあげて」
一体何度目の邂逅じゃろうか。ある日、その幼女は一言だけわしに頼んだ。
それ以来、わしはその幼女の姿を見ておらん。
わしの財産を銀髪の青年に譲渡することにな。
カコン
静寂の中、定期的になる獅子脅しの音が支配する。
智は、苛立ちが増すばかりだった。
あの部屋から退出した後自室に戻り手当たり次第にものにあたったが、身の内にくすぶる不満の炎は、収まることを知らなかった。
勝負でもしてみるがいい
爺のその言葉は、まるで俺が負けるのが確定のようではないか。
なぜ、見も知らぬ他人にこんなに俺が苛立たなければならない。
許さない。俺は、その男を許さないぞ。
俺の人生を無茶苦茶にするんだ。俺が今まで書いていた人生設計を、白紙にする奴だ。絶対に、まかしてやる。そして、絶望の淵に叩き落としてやる。
俺は俺のうけとるはずのものを奪う人間について調べさせた。
調べてみれば調べてみるほどどうしてこの男に奪われることになるのかわからなかった。
どこにでもいるような普通の学生。成績も飛びぬけていいわけでもないし、友人関係で何かあるわけでも特別な才能を持っているわけでもなかった。
どうしようもない苛立ちに侵され続けたある日、オレハ力を手に入れた。
その力の理由など知らなかった。
ただこの力さえあればあの男に、負けることはない。
殺してやるよ。大門寺 勇輝ぃ!!
アイツだ!!
あの男が俺から金を奪う男だ。
絶対にやらない!アレは俺のものだ!
写真ではなく実物を目にした途端、智の体から紫電がほとばしった。
道行く人の悲鳴は気にもせずただ、あの男のもとへとオレハ進んだ。
俺がこんなにも、ション弁臭いだけのガキであるお前を気にかけてヤッタるというのにアイツは、女をはべらせて、デートしていたのだ。
そして俺は、面白いことを思いついたのさ。
アイツが大事にしていそうなアイツの女を痛めつければ、アイツを効果的に傷つけられるというアイディアにな!
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