表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/81

プレリュード 世界の関節を外そうと思うまで -7-

―――っ

注射針が体の中に入ってくるこの感覚は昔から嫌いだった


特に今回はよくわからない死に至る毒を体内に入れられているようなものだ

たまらなく嫌だった

でも、自由の利かないこの体では針から逃げることはできない

だから、一秒でも早くその針を抜いてほしかった


注射器の中に入れられていた薄められた魔獣の血液

ゆっくりと久遠の体内に入れられていく

体の中に、異物が入っていく不快感


ドクリドクリ


規則正しく脈打つ音


ゆっくりと抜かれる注射針


あぁ、遺言。

いっておいて正解だなぁ

こんな状況じゃきっと言えない


苦痛は突然訪れる


ドグン


…と動悸が跳ねる。

心臓にその血液がもう回ったのだ



うぐっ


見えない手が久遠の心の臓をわしづかみにするような圧迫感

とたん呼吸困難となり頭が真っ白になる

息が苦しい

死神がこちら側に来いと手招きするのが見える



っああ



何とか息を吸い込む

新しい空気だが、ひやりとして心地いい


だが、魔獣の血液が引き起こす死への苦痛は、まだ始まったばかり

そう、ほんの前座にすぎなかった


ビッグン


体内の血液が沸騰しているというか、内側から外へ血管を、肉を、皮膚を食い破ろうと暴れる

クオンの体は、手足の動きを封じるそれを、外そうともがく

クオンの傷一つないすべすべしていた肌

今は、かせの跡がくっきりと赤い線を引いている


あぁううう


あまりの痛みに身をよじる

両の手のひらは、爪が肉に食い込んみ赤い血が流れ出るほど、きつく握りしめられている

自分で傷つけた傷の痛みで内側の暴風の王な痛みが相殺できるはずもなく


血液は、徐々にクオンに与える苦痛の強さを増す

激痛が久遠を貫く

ついに、血液が久遠の肉や皮膚を破ったのだ

視界の隅に、赤色を見た


体中から体液と血と涙を吹き出し、体中の骨が粉砕していくような痛みに久遠は、目を見開きついに絶叫した




―――――――――――あぁああああああああああああああああああああああ


暗転しそうな意識をつなぎとめたのは、自分に入れられた魔獣の血液を薄めたものへの罪の意識だろう


私は、罪を償わずに死ねない

私はまだ謝っていない

簡単に死んではダメ

私の前の人はもっとつらかったんだ

もっと痛かったんだ

耐えろ 耐えなくてはならない


それに、私はまだ、この胸に宿る暖かな気持ちを伝えていない

ママに、ひどいことを言ったことを自分の口で面と向かって謝っていない


だから、 死ねない

黒崎久遠は、まだ死ねない




体が熱い

見えないけれど、さらに、身体のいくつかの場所は内側からの傷が開いたのだろう

傷口が、空気に触れて痛みと熱を発する


ヒリヒリと痛む

視界がにじむ

ダメ

泣き顔で、死にたくない



薄めてあってこれほどの苦痛を与える、魔獣の血のその忌まわしさにゾッとする


イタァッッ



さらに強く手を握った

自分でつけた傷には耐えられる

どうしてその痛みが発生するかわかっているから安心する


でも、今久遠を襲っている苦痛のフルコーラスは、原因は魔獣の血だとわかっていても、理解ができないから怖い


うっ


頭が痛んだ


ズキズキズキ


まるで、頭の中に悪い悪魔が入り込んで、ひたすらそのとがった獲物で脳みそをつっいているかのような痛みや、バットをフルスイングして殴られたかのような衝撃


頭の中が真っ白になって、それから何かに引っ張られるようにして急速に意識が闇に沈んだ




――――――イキテイルカ。   イキテロ


誰かの思念が、闇に沈んだ久遠に語りかけていた



―――――シヌナ アガケ





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ