Voyage de la nuit夜行 -2-
ズダーン
静かな夜に破壊音が響き渡る
器物破損という罪を犯しているだろうが、百鬼夜行は気にしない
これくらいの法律無視は、いつものことだ。
白い建物の入り口は、死神が銃弾を発射すると軽く吹っ飛んだ。
扉は、跡形もないくらいに粉々に砕け散っている
じゃりっ
粉じんが舞う中
破片を踏みつけ、歩く
青白い光がともる
狐火だ。
玉藻の能力の一端
顔を覆う仮面
異形な力を持つ者たちは、ただ死神の後に続く
建物内に警報音が鳴り響く
アナウンスが流れる
侵入者あり、直ちに避難せよ。
研究は破棄しろ
ここの職員や研究員の悲鳴や、怒号が聞こえる
上から、壁が落ちてくる
侵入者をこれ以上先に侵入させないためだろう
うるさくなっていた、警報とアナウンス
そして落ちていく壁が、突如泊まる
亀姫によるハッキング
この建物内の電子機器は亀姫の手中におさめられた
その証拠とでもいうように、能天気な声が流れる
「死神さま~。やっほ~ん。いま、魔の前をふさいでいる壁開ける~待ってて」
その宣言道理に壁が上へと持ち上がっていく
動揺する職員を無視して、先を急ぐ
目指すは、少年のいる場所
詳しい案内は、千里眼がやってくれる
通信機から流れる、幼い少女の声。
―――――そこの角を右に曲がって
鬼たちの歩みは止まらない
途中出てきた、警備員は後ろに任せる
「警備員さんは、自分の職務に忠実なだけだ。
ここの上層部が本当は何をしているか知らない」
天邪鬼と呼ばれる少年の言葉
人の心を読み取って反対に悪戯をしかける小鬼だ
つまり、心を読む能力者
玉藻は、にっこりと笑う
警備員の脳に直接働きかけそして、幻影を見せる
「それでは、警備員さんには美しい幻想の世界へ案内いたしましょう」
「悪人じゃなくて、よかったね。もしそうだったら、玉藻に地獄絵図を見せられているところだったよおっさん」
もうこちらの声は聞こえていないだろうけど、天狗が言う
死神の後を鬼たちは追う
鬼たちは皆死神に命も心もすべてを捧げていた
もう終わりだ
そう思った時にすくわれたのだ。
エレベータに途中乗り込む
目指すは最下層
そこに、千里眼が見た少年がいる
―――――他にもいる。わたしと同じくらいの子供がいるよ。あうっ、だめ、やめて。
苦しそうな千里眼の声
何を見たのか。
みたくないものを見てしまったという声
――――――はやく はやく 死んじゃう。 殺されちゃう。いま見えた未来はいや。お願いっ、っみんな
通信機から流れる、千里眼の言葉
エレベーターが開く
それとともに疾走する
目的の部屋へ
死神が、一番目の前の部屋
そしてそれぞれが目で合図して、ほかの部屋に突入する
千里眼や亀姫の話によるとこの地価全体が実験場
戦闘能力がない者はいない
だが、二人一組で行動する
右に進んだ天邪鬼と玉藻
その部屋には、白衣を着た老若男女がいる
白衣を着ていない、軍服に似たデザインの衣服をまとった少年が一人いる
透明なガラス越しに見える、隣接する部屋にはあたまに変な機械を取り付けられ手足を拘束されている少女
少年は、強力な暗示をかけられているようだ
そして少女は、強力な暗示をかけられている最中
能力者を自分たちの都合の良い人形にして戦争で人間兵器として活用しようとしているようだ
それにしては、セキュリティーが甘かった気もする
もし軍事目的なら、もう少し厳重なセキュリティがあるはず
つまり、これは独自にやっていること?
「あっちの人たちは知っているみたい。うっ、この人たちの能力者に無理な実験やらせて殺しちゃっているよ」
天邪鬼の言葉を聞いた玉藻が、妖艶な笑みとともに地獄へ招待する
一番本人が見たくないものを、本人が一番恐怖するものを見てもらう
そのせいで心が死んでしまってもくるってしまってもどうでもよかった
人間は嫌い
でも自分たちもまた嫌いな人間
容赦はしない鬼の集団
玉藻の能力で見たくないものを見せられた人でなしの研究者が、悲鳴を上げた
天狗と雪女
「あのさ、雪女。これって、現行犯ってやつ?」
扉を開けた先にいるのは、研究や実験を行っている人間と喘ぎ苦しむ能力者の姿
「殺すっ。」
「だめだって。一応聞かないといけないでしょ。人質とられてやってるのかもしれないしさぁ」
真っ白い髪に真っ白い目
白い着物に身を包む仮面の女
オレンジ色の髪の毛をした仮面をつけた少年
ふたりの侵入者
「ここは関係者以外立ち入り禁止だっ。立ち去れ」
「一応聞いてやるから答えなさい。あなたたちはこんな非人道的なことをおのれの意志でやっているとみて間違いないかしら?人質を取られて仕方なく見たいな人はいる?」
「非人道的だぁ?何を言っている、あれは人じゃない。化け物だっ。あれを人間だと、人類の冒涜以外の何物でもない」
「そうか、おっさんは自分の意志でやっているんだね。いいよ。雪女」
天狗の言葉が言い終わらないうちに雪女は右手を虚空に振るう
その動作とともに初老の男は凍りつく
「ほかのやつはどうかなぁ。答えによってはこのおっさんみたいになるよ。ちなみに嘘をついても無駄だよ。それに、君たちは、うそをつけない」
天狗は蓋の空いた小瓶を見せつける
「亀姫の調合した自白剤ね。なるほど、これでだれを凍らせていいのかはっきりするわね」
天狗は、研究者たちにだけ匂いが届くように風の流れを制御する
研究者たちは、雪女が多分凍らせてしまうだろう
あるいは、手や足を面らで貫かれているかもしれない
天狗は、ベットに縛り付けられている少年を発見した
桃色の髪に、赤い目をした少年
この用紙の特徴は千里眼の行っていた少年で間違いないだろう
「だぁれ。」
「君を助けに来たよ。ここから逃げよう。」
「にげられないよ…にげても、ぼくはもうお家に戻れない。すてられちゃった」
少年の瞳から暖かな涙が伝う
天狗にも似たような思いを抱いたことがあった
「じゃあ、僕らが家族になってあげる。僕も君と同じ能力者だよ。あそこにいるお姉さんもね。大丈夫だよ、あの方は君を受け入れてくれる。どうしたい」
「ぼくを、拒絶しないの。きらわないの。」
「する理由がないから。」
「いく。いくから。ここからつれだしてっ」
「いいよ。」
バッ、拘束具が一瞬にして解かれる
ゆっくりと少年はおきあがる
「ぼくは、たくま。お兄さんは?」
「天狗。」
「天狗さんなの?」
「うん、今は任務中だから本名はダメなんだよ。あとで教えてあげる」
他の部屋は、あいつらに任せておけば問題ない
一番この部屋がやばい気がする
直観だ
扉を開けると同時にひやりとした風が肌を撫でる
奈落は部屋の中にあるものを見て目を向いた
室内を見渡す
薄明かりが、ぼんやりと室内の様子を照らす
そこにあるのは、大量の機械類と人の…
「はぁ」
ため息が出る
まったく、この数カ月でここまでのことをここの連中はしていたとは…
これを、ほかの連中には見せられない
わざわざ見せる必要もない
――――――――奈落。お願い。
通信機から聞こえる、千里眼の声
悔しさににじんでいる
未知のものを研究したい気持ちもわかる
知りたいという気持ちもわからなくはない
だが、やりすぎだ。
「わかった。千里眼、お前のせいではない、気に病むな。悪いのは、お前ではないのだから。助けられなかったのも阻止できなかったのもお前だけのせいではない。お前がこれを自身「の罪とするならば、俺も同罪だ。」
左にある銃を抜き取る
俺のコードネームが死神だというのならばこの銃はでl死神の鎌というわけか。
能力を発動させる
多重能力者だ。
右の銃で能力を奪う。そして、左の銃でその能力を使う。
この能力も、もとは別の能力者のもの。
ズバーン
銃声がなる
ただの銃弾じゃない
俺の能力を付与した弾丸
カラン
薬きょうが床に落ち、そして霧散する
室内に存在しているものは消滅する
散り一つ残らなかった
―――――少年救出完了
天狗の声が通信機越しに聞こえる
―――首謀者、黒幕の存在わかった。
―――強力な暗示がかけられている少年少女2名を保護しましたわ。
玉藻の報告を聞き思案する
――――そいつらは、俺が何とかしよう。ちょうどこの間の能力がある。暗示なのだろう?なら、それより強力な暗示で、相殺しよう。天邪鬼には手伝ってもらう必要がある。
――――わかりました。
「帰るぞ」
百鬼夜行の姿は、突風とともに姿を消した




