L'ogre qui prend une âme~魂を奪う鬼~
ファンタジアとは別の視点です。
赤い月が輝く夜の町
冬の夜の寒空
男は、その中で走っていた
男の年齢は、30代後半から40代後半くらい
ひょろりと胴の長いサラリーマンだった
男は追われている
誰におわれているのかはわからない
しかし 男は追われている理由なら知っていた
男は、人を殺した
妻であるその女をこの手で殺した
まだその女を殺したときの感覚が手のひらに残っている
最後に女の上げた悲鳴も耳にこびりついてはなれようとしない
男の妻であるその女に、心を読む力があったことに気がついた
女は、男の浮気や浮気相手のためにみつぎ借金までしていることをその能力で偶然知ったのだ
女は、その人の持ち物から残留思念を読みとる能力があの日から数ヶ月後突然開花したのだ
そう 夫である男のYシャツをアイロンしていた時だった
はじめ女は自分が見聞きしている物が何であるか理解できなかった
しかし、見聞きしていくごとの意味を理解し、心当たりがある事に愕然とした
女は、男を心の底から深く愛していた
しかし二人の間にはなかなか子供を授かれずにいた
親戚にはいろいろといわれた
子供がほしかったけど結婚してはや十数年
もうあきらめていた
そんなときにこのおなかの子を授かったのだ
女は、男の間に子供をようやく授かれたことに感謝して日々をすごしていた
女は幸せだった
男も同じように思ってくれていると想っていた
読みとった残留思念の中に残された思い
そこで見聞きした物が信じられずにいた
帰ってきた夫に詰め寄った
男は言った
なんだ今頃気がついたのか
つまらなそうに言う男の言葉
そのほかにも何か言った気がした
女はそのほかにもいくつか読んだことを聞いた
女の話を聞くごとに どうしてそんなことを知ってるのか問いつめ
た
あなたのワイシャツをアイロンしたときにあなたの思念を読んだのよ
男は目の前にいる舌の長い女が急に得体の知れぬ化け物に見えた
男はそして女を殺した
のどをつかみ絞め殺した
人はこうもたやすくねじ曲がり死ぬ
女の目は濁っていた
見開かれた瞳は恐怖に彩られたまま 永遠に変わることはない
だらりと伸ばされた四肢
そのまま 飛び出すように家を出た
死体の始末やアリバイづくり
やらなければならないことはいくつもあった
だが 女の屍を視たときどうしようもなく恐ろしくなり家を飛び出した
男は、走っていた
どこへいくわけでもない
ただ必死に走っていた
走る男を周りの人間は奇妙なのみるかのように
あるいは視て見ぬ振りをするかのようにあわてて目をそらす
周りの人間が、走る男を視て口々にささやく
あぜ笑うかのように聞こえる
そしてある女子高生グループが、男を指さしわらう
彼女らは男の後ろで、ティシュ配りをする着ぐるみのパンダを指してわらったのだが男は気がつかない
男は苛立った
なぜだか知らないけど神経に障るのだ
男は人を殺し、気がたかぶっていた
男は気を休めるために人気のないところへ歩く
大勢の人間がいる場所は男を落ち着かなくさせるのだ
周りの人間がみた彼を笑っているかのような妄想にとりつかれる
ようやく人気のない公園にたどり着く
だがその公園にすでに先客がいた
若いカップルだった
カップルの女は、派手な化粧をして甘ったるくこびるような声を出している
片割れの男はそれをいやがる素振りを見せずこれまた気持ちの悪い声を出す
カップルをにらむ
公共の場所でなにしているんだよ
男に気がついたカップル
「きゃあこわっ」
「おっさんこっちくんなよな アッチイケ しっし」
追い払うようなその仕草にむかつく
ムカついた
そのとき男の中で悪魔がささやく
―――やっちまえ
人一人殺したんだ
今頃その人数が増えたって関係ない
どうせ捕まれば一生刑務所暮らしさ
弱い男だった
男は、手のひらをそのカップルに突き出す
カップルのおんなのほうの首を絞める
するとその女の首も不自然なませにたやすくねじ曲がる
自分の女が殺されるところを見せられた男は呆然として一歩も動かない
次に男の首も同じようにねじ曲げた
これもまた奇妙なまでにねじ曲がる
はははっ
男の笑い声が誰もいなくなった公園に響いた
「三人殺したというのに罪悪感のかけらも感じてないのかよ
最悪だな。あんた 自分のやったこと理解してねぇだろう?」
声がした
男のいる地点よりも高い場所からその声は聞こえた
声は低くもなく高くもない
その声の主は吐き捨てるようにいう
男は恐る恐る声の聞こえた方に向く
赤い月に照らされるソイツ
真っ黒な長いコートを羽織っていた
公園の蛍光灯がちかりっと瞬いてつく
消えていた蛍光灯がついたのだ
蛍光灯の光がそいつの全貌を照らし出す
ソイツは、仮面をしていた
顔の半分を仮面で隠したソイツ
シャリッ ジャリッ
公園の土を踏む音が静かな公園ではよく響く
ガチャッ
何の音であるか男には理解できなかった
真っ赤な髪をしたソイツは、コートと同じ色の真っ黒な銃身を男に向けていた
「おまえ、自分の意志で警察に登校するつもりあるか」
赤い髪の仮面のソイツは、めんどくさそうにいいはなつ
まるで、そう尋ねることを誰かに命令されて仕方がなくという感じ
「選ばせてやる。だから選べ」
本当は選ばせたくもない
そうそいつは表情言っていた
「と 」
男は迷っていた
投降すればいい
それが当たり前でしなくてはならないことだ
しかし 目の前の仮面を殺せば男はまた
愚かだよ おまえ・・・
「選べ」
背後から青年ともし少年ともとれるの声が夜の静かな町に生じる
「このまま、俺に奪われるか。償うか。」
静かで淡々とした声
どこか相手を見下した声音にもきこえる
「心を殺され、生きたまま死人のようにそこにただ存在する、生きるゾンビになるか。罪を心の底から認め償い己のまま生きるか。おまえは、堕ちた。だから、おまえにやる選択肢はこの2つだけだ。」
淡々と感情を挟まずいうこの声が・・・
男の背中に冷や汗が垂れる
目の前で中を突きつける赤毛の男よりも、後ろでただたつこいつの方が恐ろしいのはなぜだ
「選べよ。」
赤毛の男がもう待ってられないとでも言うかのようにトリガーに指をかける
こいつラは何だ?
仮面を付け 重を持つこいつラはただ者ではない
「おまえたちはいったい」
「選んだらこたえてやってもいいぜ」
えらぶだと
どっちをとったところで 男には不幸しか待っていない出はないか
男は警察に捕まり刑務所で生涯を終えるのはいやだった
男の脳裏にテレビドラマやワイドショーでうつる囚人の処遇が脳裏をよぎる
惨めすぎる
男は、外に女をつくり貢いだ
その女は、男を天にまで昇る気分を味あわせるそれはもうイイオンナなだった
貢ぎ物を知るのは頼まれたわけではない
自主的に貢いだ
女の興味がほかに移らない位置に貢ぐ
男の妻である女がこのことに気がつき男を糾弾さえしなかったら男は殺人など起こすことはなかった
男は、女を呪う
「くそっ あいつさえきがつかなかったら。」
そう言えばあの女
――――残留思念を読んだのよ
とかいっていたな
気持ち悪い上この上ない
あれがおこってから、女に興味がなくなった
舌が長くなったその女は視ていて、気持ちが悪かったのだ
そして、はたとおもいいたる
こいつラはあの女と同じ化け物の力をもっているのか?
「さぁえらびな。《人殺し》のおっさん」
男は選択した
そして赤き月夜の夜に銃声が鳴り響く
―――――――ズバン




