★Variations brillantes★~華麗なる変奏曲~ -1-
痛みが嘘のように引いていく
広がった傷がふさがっていく
折れた骨がもどる
体の痛みが消える
ドクン
――――イカナクテハナラナイ
私は生きる
死んでやるものか
手加減するつもりはない
死にたくないから、生きていたいから戦う
身をよじって、ポケットに手を伸ばす
この中には、秘密道具其の1其の2が入っている。
カッン
爪が、秘密道具其の1にあたった
ポケットに入っていたのは小型のナイフ
ナイフを握り、腕に無理を言わせながら手を縛るものを切る
これは、金属ではない
だけど、どんなに伸ばそうとしても伸びない物体
伸ばそうとするほど締め付ける
刃物に対しては?
案の定効果があった。
反対側のも切ろうとして、鬼に気が付かれた
「何をしている。ん、傷が治っている」
鬼は、モニターからこっちに視線をかえたのだ。
変えなくてもいいのに
余計なことしないでよね まったくもう
そこで秘密道具其の2を引っ張って、投げる
――――――ビビビビビビビビイビビビビイビビイビイビイイイ
防犯ブザー
学校に変質者が侵入するって話をしたら大音量の防犯ブザーを悠さんがくれたのだ
鬼の注意が言っている間に拘束を解く
手足を縛った後も徐々に消えていく
これは治癒しているということかしら
助けてもらったんだ
私は、あいつに・・・
大きな、借りをつくった
借りっぱなしは気持ち悪いから早く返さなくては・・・
私がやること
それは、あの魔獣を開放すること
それがいけないことというのもわかっている
危険なものだ問うこともわかっている
でも、私は自分の命大事に鬼をそそのかすようないけない子
いけない子はいけない子らしく悪事に手を染めることにするわ。
きっとこの鬼たちはあの魔獣に殺されるだろう
わたしもこいつらを殺してしまいたい
こいつらにも家族がいてこいつらを愛する者が存在する
それを頭で理解していても許すわけにはいかない
こいつらは私たち人間を実験し殺した
許せるはずがない。
鬼が、拘束を解いた私に気が付く
近くにあった棒状の物――――医療器具の一つだとは思うけど・・・を、鬼に力いっぱいぶつける
ぐわあっ
苦痛の声が聞こえたけど、気にしてられない
魔獣がいる場所はわかる
契約者ということが影響しているのだろう
わたしは、走る
体の痛みはもう嘘のように消えている
「まてっ。”わが呪いより、汝 足を止めよ ”」
追跡者が、何か唱えた
あっ
目の前の景色が傾く
転倒したのだ
急に足がもっれた
何かに絡み取られるように。
もがけばもがくほど、身動きが取れなくなる
「何よ、これ!」
まるで、蜘蛛の糸のよう
追跡者が蜘蛛で私は罠にかかった虫けら
「くっ」
どうにかしないと殺されるかもしれない
あるいは成功例として研究のため血液は抜き取られ、内臓は抜き取られ…最終的にはホルマリン漬けにされるかもしれない
そんなのごめんだ
生きた屍のように、モルモットにされるのも自分の死後、体を弄り回されるのも全部私にとって屈辱以外の何物でもない
――死ぬわけにはいかない
「逃げられん。おとなしくしろ」
くぐもった声
吐き気がするようなにおいを体から発したソレ
鋭くとがった歯
でこぼこした いぼ のようなものがあるからだは、丸く
手足は短い
身体の大部分は口
口裂け女みたいな口といえば伝わるだろうか
そこから漏れ出る紫色の煙
赤い舌
「どうなるかわかっているだろうな。」
いやだ
近寄るな
来るな来るな。
いやいやするように首を振る
来ないで、触れないで・・・
そんなおもいを無視し、非常にもおぞましき姿をしたものは近づく
「我、呪いにより汝を・・・」
ソレが、呪文を唱えるよりも早く
早口で私は唱える
「我 呪いにより、汝の口を永遠に封じる!!」
できるかどうかわからなかった。
一か八かで放った呪いの言葉
見よう見まねでしかない
さっき、私を止めたのもその前にドアを開けたのも確かこんなものだったと思う
適当でしかなかったけどそれは効果抜群だった
ピタッ
口とふさぎ言葉を発しようともがいている
「我 呪いにより 汝の呪縛から解かれる」
たぶんこれも解けるはず
案の定 解くことができた
廊下の後ろ側から、喧騒が聞こえる
「我呪いにより 汝らを 拘束する」
ズテン
ドッ
何かがぶつかるような音と悲鳴も聞こえるが走る
もう少し
同じような景色が続く
走る 走る
もうずいぶんの間全力で走っているが息が乱れない
不思議に思う暇は、しかしなかった
突如壁がうねる
これより先に行かせはしないというように。
これが、ここの警備システムみたいなものなの?
まるで、この建物が生きているみたいだ
何かの生き物の腹の中にいるという想像をして少し気持ち悪くなった
壁がうなり声を上げる
雷のようなびりびりとしたものが天井から降ってくる
あれに当たったら感電死する
でも死ぬわけにはいかない
呪文があっているのかわからない
これがシステムだとしたら、停止でいいんだよね?
声を張り上げ唱えた
「―――――――――――我呪いにより、汝を停止させる」




