Lettred'unepersonne morte ~死者からの手紙~
「-------黒崎 久遠」
えっ
息が止まるのではないかというほど驚いた
聞き間違いのはず
だって久遠はもういない
もう久遠は・・・・いないのだから
「久遠がね、飛び降りる前日に書いて郵便屋さんに渡した手紙よ」
あの日の前日に書かれた手紙
つまり、突発性にのものではなく計画的なもの
「手紙、そっちに渡すね。」
ドアの隙間に、零無さんは手紙を差し込む
ゆっくりと顔を出す久遠からの手紙
それが完全に羽矢の部屋に入った時
羽矢は恐る恐るその手紙に手を伸ばす
手紙には確かに書かれていた
如月 羽矢 様へ
黒崎 久遠 より
これは紛れもなく久遠の書いた文字
定規を当てて文字を書く癖がある久遠
だから必ずと言っていいほど久遠の書いた文字は、、下の方がつぶれているというかまっすぐというか…
独特な字になるのだ
ゆっくりとシールをはがし、封筒を開ける
手が震えてうまく開けられない
ようやく取り出した手紙を開く
その手紙にはこう書かれていた
「羽矢へ
私がいないくてへこんでいるでしょ。
ダメだよ チャンとおいしくご飯を食べて健康的な生活しなさいよね
どうせ、矢的にいに無理やりご飯食べさせられているんでしょ
それで、学校も無断欠席中
あたり?」
悔しいけど見事に当たっている
まるで今の羽矢を見ていて書いてるみたいに恐ろしいほど当たっている
「ところで羽矢、私が最後に頼んだこと忘れてないでしょうね。」
最後に久遠がたのんだこと?
羽矢は、久遠が落ちる瞬間ばかりリフレインしていた
久遠が最後に言い残した言葉を記憶の中から探り、引きずり出す
・・・私のお願い聞いて・・・の次の次に重いものを私はあなたに背負わそうとして・・・
違うもっとこの先
思い出せ
何か大事なことを久遠から託されているはずなんだ
・・・羽矢、このバスケットの中あなたに託す・・・信じているわ。羽矢ならつくれるって…人と能力者の理想郷。みんな同じ人間なの。・・・
「あのバスケット・・・」
どこに今ある?
すっかり忘れていた
久遠が飛び降りたしょつくのほうが強すぎて・・・
正直あの後どうなったかあんまり覚えていない
・・・作ろう。この新世界にふさわしい組織を…助け合える優しい組織。いいえ、家族を。同じ地球という家に住む人間ですもの・・・
夢物語だと笑われることを知っていてそれでも真剣に語っていた。
かなえたい願い
でも久遠は今はもう…かなえられない
久遠が託した願い
羽矢に託した夢
「あのバスケットね。今ここにあるの。警察の人がね、届けてくれたのよ」
一瞬心の中を読まれたのかと思って驚いた
だが、さっき羽矢が声に出してしまったのだ
もう完全に居留守だということが
この部屋にいることがばれている
「でもね、あかないの。ロックがかかってるのよね。」
ロック?
でも羽矢は解除するためのパスワードを知らない
久遠は羽矢名明けてほしいと思ったわけではないのか
それとも、羽矢が知っている番号?
「もういかないと。病院抜け出してきたから、怒られちゃう」
それからまっすぐと覚悟を決めた声で羽矢に語る
「私ね、あの子が死んだとは思えない。自殺するように育てた覚えはないわ。」
零無さんも、久遠が死んだとは思えないという
「確固たる証拠。死体が出てこない限り信じようと思って…あの子が生きているって。だから、私は早く退院できるようにしてあの家であの子の帰りを待つことに決めたの。」
あぁ・・・
「ぼ・・・僕もそうすることにします。だから、久遠のお願いをかなえようと思います。帰ってきて久遠が、がっかりしないようにね。」
のどがカラカラでかすれた声
でもその言葉にウソ偽りもない
そうしよう
バスケットを床におろす音
レイムさんが扉の前から立ち去る気配がした
しばらくすると、玄関の鍵を閉める音
手紙に目を落とす
「バスケットはね、ロックがかかってるの。ヒントは、羽矢と私の日よ」
羽矢と私の日
思い至るものがあった
久遠が帰ってきて二人が付き合いだした日
部屋の扉を開ける
扉の向こうに、あの日あの時久遠が持っていたバスケットがただ一つポツンとあった
手に取ってみる
リボンに隠れて4つの番号を合わせる形のロックがあった
100円ショップで売ってるような安物のロック
キット師匠に頼めば零無さんは簡単に開けられたはず
それでもしなかった
****
ダイヤルをゆっくりと回す
ガチャっ
ロックが開いた
ゆっくりとあけてみる
中身を見て乾いた笑い声を出す
なるほど、だから今日に手紙が間に合うようにしたのか
中に入っていたのは手作りのバウンドケーキ
「ははは」
ほかには、分厚いノートと端末機械。
賞味期限が切れる前に明けてほしかったというわけかっ
久遠のつくったお菓子
口に運ぶ
柑橘系の甘酸っぱくさわやかな味
味がした
久遠が消えてから初めて味を認識したものが久遠の料理とは…
「は~ちゃん。愛してる。」
手紙の最後はそうくくられていた
むちゅうでほおばったバウンドケーキは少し涙の味がした
――――――僕は、久遠が飛び降りてから数日後 ようやく涙を流せた




