La fille qui est tombée dans l'obscurité~闇に堕ちた少女~
―――――――――あの時の僕は、この日が、運命の日となるとも知らずにいた。
羽矢は、久遠に呼び出されていた
久遠は、町の端にある岬で待っているとメールをいきなり送りつけてきた
メールには、お弁当持っていくからね
そう書いてあったから、デートのお誘いだととらえていいのだろう
久遠は、零無さんが入院してからというものの少し元気がなかった
学校が始まってクラスが違う羽矢は、久遠となかなかゆっくりと話せずにいた
久遠は、零無さんに似て料理が上手だ
何回か手料理をごちそうしてもらったけどすごくおいしかった
まぁ、甘党の久遠がつくるとなぜかどれも零無さんの料理よりも甘くなるのが…玉にきずだけど
洋服を着替え身だしなみを整える
兄さんに一応岬のほうへ行っていることを伝えた
「気をつけろよな」
「わかってるって」
自転車を急いで走らせる
待ち合わせの時間まで、そんなに余裕はないのだ
「久遠 もっと早く教えてくれよな」
口では文句を言いながら内心嬉しくて仕方がなかった
久遠とは、僕の能力が開花して以来
よくあって二人でその能力の特訓をしていた
僕は初め恐ろしいと思っていたけど久遠が、素敵な力だね
そう笑って言ってくれたから多分受け入れられたのだと思う
僕に開花した力はきっとアレ
人類が住む地球を含む太陽系の物理的中心であり、太陽系の全質量の99.86%を占め、太陽系の全天体に重力の影響を与えていた ――――太陽
しかしその太陽の役割をまとめてのっとり、太陽系を完全に支配してしまったアレ
太陽は、アレにのまれてしまった。
そういう噂が出回っている
近いうちに、太陽探査機をつかい、詳しいことをお偉いさんが調べるらしい
アレのなまえは正式に決まっていない
社会的逸脱者、意味不明な行動を取る道化者、残酷であり、偉大でもある不可思議な存在に似ていることから、ネット上や羽矢の周りの人はあれをこう呼ぶ
――――――――トリックスター だと
久遠はこの名前を聞いた時吹き出すようにして笑い転げた
ひとしきり笑い転げた後久遠は、こういった
「トリックスター。ぴったしじゃない。ギリシア神話のオデュッセウスや北欧神話のロキがこの性格をもっているよね。」
そのあと、ギリシア神話と北欧神話をパラパラと読んでみたのは記憶に新しい
僕の能力
外からの攻撃を防ぎ中を守る性質 防御の性質を持っている
また、この能力の形は ハコ
立方体や長方形のハコだ。
普通にしている分には気が付かないけどよく見てみるとそのハコは、薄い藤色に色づいていた
久遠は、その力を自分の内側
精神にも張れるのかどうか
発生条件を調べたり
どのくらいの大きさの箱まで出現できるのか
どのくらいの時間箱が持つかどうか
自分と離したところで維持できるか
どこまでの耐久性を持っているか
ハコは移動可能かどうか
いくつまで出せるか
などの事項をいろいろ試すてみようといった
そして僕らは、二人で試してみることにした
学校から帰宅後 久遠の家に集合でいろいろ試した
週末は外で、デートを口実に二人で様々な実験をした
実験をして自分の能力を知ることでその能力を制御することができているのだと思う
しることでその能力と共生できる気がしたのだ
久遠は自分のことのようにその羽矢の力を喜んだ
「この力で多くの人を幸せにできたら素敵だね。」
いつもそういうのだ
だから、羽矢自身もこの力をそういうために使いたいと思った
自転車は風を切るように坂を上る
金髪になった羽矢の髪がたなびく
もうすぐ待ち合わせの岬につく
カーブを曲がるとこちらに手を振る人影が見えた
「はやぁ~。こっちだよぉ~」
大きな声で呼ぶ声は久遠のもの
はやは、自転車をこぐスピードを速める
きぃいいっ
自転車に急ブレーキをかけて久遠の前で止まる
「オハヨ。久遠」
「おはよう。羽矢」
羽矢は近くの駐輪スペースに自転車を置く
岬へと続く道を歩く
「いったい何の用だったの」
「あのね、今日は実験関係なしにピクニックにしようかなぁって…」
バスケットを胸の前でかかげ恥ずかしそうに言う
「たまにはいいね。デートは、久しぶりだね」
「うん。あのね、杉本さんがね、教えてくれたの。岬の先端のほうにさ、あの下の部分に二つつながってる岩あるでしょ?」
「うん。そういえばあったね。それがどうかしたの?」
「その二つの石にね、願うとかなうんだって。」
「?」
「恋がっ…叶うの」
もうかなっているのにどうしてだろう?
「そのっ…離れないようにってお願いするの。その石はね。カップルになってからじゃないとおまじない意味ないからっ…ちょうどいいかなって…」
顔を赤くして言う姿は可愛い
今日の服と同じくらいに赤くなっている
今日の久遠の服は赤いチェックのワンピースだった
「うん。お願いしよう。それと、似合ってるよ…そのふく新しいのだろっ」
「気が付いてくれたの。ありがと。さすが羽矢ね。」
にこにことご機嫌だった
「先に御願い事してから、お昼にしよう」
「うん。私も今そういおうと思ったの」
なるほどだから歩きやすい靴で来いなんだ
久遠は、平気なのだろうか
ワンピースで?
靴は運動靴だからちぐはうかなぁ
そうさっき気にしていたけど、気にするほど違和感はない
そうこうするうちに羽矢たちは、岬の先端
二つの石があるところにやってきた
風が吹いていなくてよかったと思う
もし ふいていたら断念した方がよかっただろう
この岬はかなり高いところにある
下に堕ちたら命はないだろう
そんな風に考えていたら、先をいつの間にか歩いていた久遠が後ろ向きのまま羽矢を呼ぶ
「ねぇ、羽矢」
「何?」
「私のお願い聞いてくれる?」
久遠のお願いを断る龍が羽矢にはなかった
「君を殺せというお願い以外ならいいよ」
冗談半分でいう
「殺せなんて言わないよぉ。人を殺した重荷を私が羽矢に背負わしてあげるわけないじゃん」
「そう?」
「そうよ。その次の次の次に重いものを私はあなたに背負わそうとしている…」
後半はきこえなかった
だけど、嫌な予感がした
「久遠?」
「羽矢、このバスケットの中あなたに託すわ。信じているわ。羽矢ならつくれるって…人と能力者の理想郷。みんな同じ人間なの。肌や眼の色が変わったように変わった才能を手に入れただけなの。でも、それに気が付かず勘違いする者もいる。研究材料として人体実験されるもの、能力を暴走させてしまうもの。能力におぼれる人間。それこそ小説や漫画のような世界が現実になる。私はそんな世界はごめんよ。だから、作ろう。この新世界にふさわしい組織を…助け合える優しい組織。いいえ、家族を。同じ地球という家に住む人間ですもの。言葉の壁も、肌の色ももう関係ないの。」
なに…を、いってるの
久遠
それではまるで君は、一緒に作れないみたいじゃにかっ
「羽矢、私はあなたを愛します。黒崎久遠にはあなたが必要。だから、私はあなたをだれにも渡したくない。誰のものにもならないで…羽矢は羽矢だけのものでいてね。」
悲しくて切ない声でなんでいうの。
「や、約束する。僕は僕以外のものにならない。だから教えてくれっ、久遠は今何を考えているのかっ」
約束する
そう羽矢がいった時心の底から安堵したほほえみを浮かべる
消えてしまう気がした
今久遠が目の前から消えていく気がした
怖い
「羽矢、私はあなたに私の罪を告白するよ」
久遠は指差す
空にある青い太陽―――トリックスターをゆびさしていう
「世界の関節を外したのは私よ。これまで起ったありえないことの数々、あなたの能力のこと、あのトリックスターのこと…これから起こるすべての事象は、私が原因なの。」
「えっ」
何を言ってるんだ
もし久遠が原因だとしてもそんなことどうやって引き起こすのだろう
「ありがとう。あとヨロシクネ。」
あと…っ
後ってなんだよ
それじゃあまるで…
「くぅーちゃん」
思わず久遠のほうへ走り寄る
羽矢が走るのと同時に久遠も一歩踏み出す
さっきの羽矢の場所からは見えなかったけど、久遠の目の前は崖だ
「させないっ」
君を殺させやしない
久遠お願いだからやめてくれっ
くるりと羽矢のほうへ久遠は振り向きいう
昔の呼び名…
「さよなら はーちゃん 好きよ」
手を伸ばせば間に合う
間に合うはずだっ
すべてがスローモーションに見える
崖先から久遠の足が滑る
軽くとばされてしまいそうな久遠の体が、がけ下に吸い込まれる
伸ばした手は食うをつかむばかり
あわてて能力を発動させようとする
羽矢の能力で落下する久遠の体を閉じ込めようとしたのだ
閉じ込めてから持ち上げるようにして助けよう
羽矢の能力 ハコ 結界ならできるはず
久遠の落下するスピードが羽矢の発動にかかる時間よりも早い
赤いワンピースとおそろいの帽子が風に飛ばされるようにして 羽矢の手の中に来る
高い波が大きな口を開け久遠を飲み込む
ポチャン
波の中に何かが落ちる音が耳に響く
「クオー―――――――ンっ」
うそだ
夢だっ
心の底から羽矢は愛する者の名を叫んだ
「クーちゃん」
「久遠 クオン」
幾度名を連呼してもその声は届かない
久遠を飲み込んだ波が、ざぶんざぶん と音を立てる
――――――――久遠の堕ちた海から久遠の体が姿を見せることは二度となかった




