Eclipse solaireetrange~怪奇日食~ ー1ー
――――――――世界の終焉
「いったい何のこと?」
羽矢は、質問した
もちろん今、久遠の口からでたとんでもない言葉についてだ。
オーロラから目を離さないまま久遠は、答える
「そのままの意味だよ。世界が終わるの。太陽とともにあった世界が終わる。これは、その前兆に過ぎない。」
いったい何が言いたいんだろう
太陽がなかったら地球はあっという間に凍り付いてしまう。
「地球は滅びないけど、人類は…生き物はすべて死に絶えてしまうよ」
冗談だろうと思いながらもそれでも律儀に受け答えしてしまう
窓ガラスに映る久遠の顔は気のせいか暗い笑みをたたえていた
「そうだね。」
羽矢のほうを向く
もうあの暗い笑みはなく、あるのはいつも通りの笑み
クスリッといたずらっぽく笑って言う
「夢物語だよ。こんな場面にはこういうセリフがピッタリでしょ。」
「もう、なまじありえそうなこと言うなよな」
「ごめ~ん。だってあんまりにも、現実味がない光景があるんだもん。はじめ、私いつの間に寝てたのって焦ったもん」
それで、急に椅子から立ち上がったのか…
「しかし、ふつうありえないよな。こんなに広範囲でオーロラが出現するなんて・・・」
矢的がぼやくのもわかる気がする
ふつう南極や北極
あとヨーロッパや、日本では北海道で見れる時もあるってなんかで読んだけど…
「ううん~、なんかいま原因究明中みたいだな。」
師匠は、ずっとテレビと形態で情報を探っていたようだ
――パシャッ
カメラのシャッター音がした
零無さんが、携帯のカメラ機能で写真を撮ったのだ
「レイム。あんたこんな非常時に何してんの…」
あきれたような師匠の言葉に零無さんは相変わらずの声で言う
「だって、私オーロラを初めて生で見たのよ。記念に残したいじゃない。それに、今じたばたしても何もできそうにないもの。」
確かに、羽矢も矢的もオーロラを始めてみる
感動よりも先に恐ろしさを感じてしまう
ずっとあれを見ていたら魂を吸い取られてしまいそうな気さえする
「北欧ではオーロラにより死者の世界と生者の世界が結びついている、と信じている人もいるみたいよ。」
シャッターを押しながら、零無さんは思い出した知識を披露する。
「これも世界をつなぐ橋なのかな。この世界とほかの世界とを結びつけるための…」
オーロラを見上げながら久遠が言う
「じゃあ、あのオーロラの向こうにあるのは死者の世界?」
死者の世界
向こう側にあるのがそれだとしたら、この不吉さも納得するかも
「非現実的だな。」
にいさんは、あっけからんという
にいさんは基本現実主義者
「死んだ奴は戻らない。それができたら、いろいろと破たんする。」
「同感よ。死者はよみがえらない。」
―――――ざざざつ
突如、テレビの画像にノイズが走った
テレビのアナウンサーの声がとぎれとぎれになりやがて消えた
プッン
リビングの明かりが消える
違う、家じゅうの明かりが消えたのだ
「停電かしら」
「町中の光が消えている」
師匠の指摘通り窓の外あの不気味な赤オーロラ以外の光が見渡らない
不気味な光景だった
暗闇の中ただそのオーロラが目にイタイまで激しく光る
「まるで、何かが血を流して苦痛のあまり悲鳴を上げているかのようね」
零無さんの言うとおり、このオーロラはまるで生きているように感じてしまう
ただ、太陽からやってくるプラズマ粒子が地球磁気圏に入り込んできて、電離層の大気とぶつかって発光する現象でしかないはずなのに・・・。
―――――――――キィーン
金属と金属がぶつかり合うような不協和音が響く
その耳障りな音に耳をふさぐ
だが、耳ではなく脳に直接響き渡る
響く音は徐々に大きくなる
何も考えられなくなっていく
思考が停止していく
無意識のうちに頭を抱え込むようにしてしゃがみこんでいた
次に感じたのは、
頭の中を直接手でぎちゃぐちゃにされているような不快な感覚だった
頭の中にある情報を無理やりのぞかれているような…いやな感覚
ぐにゃり 視界が歪む
歪んでゆく視界の端に久遠やレイムさん兄さんや師匠の姿を見る
同じような不快感と音をみんな感じていた
四肢の感覚が徐々に消えていくような感覚
今まで、体験したことのない感覚が体を支配する
そうたとえるのなら…
――――体と魂が切り離されていく感じ
ブランコを高いところまで漕いだ後すぅーともどってくるときに感じるあの感覚に近いかもしれない
羽矢は意識を真っ白な世界にいざなわれるように、意識を失った
如月羽矢という人間の情報がすべて読み取られ、解体され再構築されてゆく
同じように全世界の住人が、一人の例外もなくこの日この数時間 意識を失い 読み取られ 解体され 再構築―――改変されていった
太陽消え 生まれし青い星
新たな光 変貌する人類
世界の関節は外された




