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僕が金髪猫耳ちゃんを買えなかったわけ

・細かいことは気にしないでください

匹夫の勇という言葉がある。

匹夫というのは取るに足らないくだらない人物という意味だが、元の意味は妻が1人しかいない人物を指す。つまり立派な男女なら妻や夫を複数もって当然なのである。


   ☆       ☆      ☆


「だから僕を立派な男にするために金貨8枚で売ってください!!」

「だめだ、金貨10枚」

「そこをなんとか!」

「帰りな」


 僕は金貨10枚で売りに出されている金髪ふわふわの猫耳ちゃんを残念そうに見つめる。背丈は僕のお腹ぐらい、ちょっと若すぎる気がするが、その分安いしとっても可愛い。あと金貨2枚あれば買えるのにっ!

 奴隷商に冷たくあしらわれた僕はとぼとぼとあてもなく歩いていた。サイフの中はフィニさんのツケを払ったせいで金貨8枚に減っている。あと2枚どこかで借りるか……いやいや借金して嫁を買うなんて情けなさすぎる。

 まだ何とかなるレベルだ、ゼロにならなかっただけマシと思わなきゃ。明日からまた働くぞ!


 僕は、夕日に向かってこぶしを振り上げて誓うのであった。


   ☆       ☆      ☆


 

 翌日、僕は奴隷商のところで金髪猫耳ちゃんを眺めて、たっぷりと目の保養をしてから、市場の相場の調査をしていた。すこし食料品の値段があがっているな。へぇ、南方は洪水のせいで酷い不作なのか。え、反乱も起きてるの?それで盗賊が南方から流れてきたんだな。迷惑な話だ。

 とりあえず豆の作付と干し魚の生産を増やすことにしよう。

 しかし、盗賊が増えるようだと商売もしにくくなるな……


 そんなことを考えていると、僕の目の前を赤茶色の鎧が通っていく。


 フィニさんだ!


「すみません! フィニさん!!」

「やぁ、フィデスじゃないか、昨日ぶり」

「いや、昨日ぶりじゃなくってですね、僕が立て替えたツケの分を返してください! あと金貨2枚足りないんです!」

「へ?」


 僕はフィニさんに事情を説明した。あと金貨2枚で僕の夢が叶うのだ。怒られるかもしれないが、退くわけにはいかない。フィニさんは顎に手をあてて少し考え込むように言った。


「そうか、それは悪いことをしたな」

「悪いじゃないですよ!」

「いやぁ、金持ちそうだったからツケぐらいいいかなぁって、しかも触り魔だし」

「へ?」


 フィニさんがにやっと笑う。


「ルーに振られたあとにさ、お前がぱがぱ酒飲んで、私に抱き着いてきたんだぜ?『慰めてください~』って」

「いやいや、そんな記憶はないです」

「お前、地味な顔してるくせに酒に弱いんだなぁ」

 

 地味な顔は関係ないだろ!地味な顔は!

 僕の不満を察したのかフィニさんはちょっとすまなさそうな顔をする。


「悪い、気にしてたのか」

「気にしていませんよ」

「しょうがないな、実はちょうど手持ちができたところなんだ」

 おおっ? 意外と素直だぞ?!


 フィニさんが懐からサイフを取り出した。金貨や銀貨がじゃらりと音を立てる。いや、そんな金持ってるなら人にタカるなよ……


「たしかツケは金貨3枚、いや4枚だったかな?ま、いいや何枚要る?」

「2枚!2枚でいいです!」

「はいどうぞ……あだっ?!」


 げしっ。


 いきなり、フィニさんの後頭部に杖が当たる。僕はびっくりして杖でフィニさんを殴りつけた男を見つめた。短く刈りそろえた銀髪にメガネをかけた、神経質そうな若い男だ。男は僕に一顧だにせずにフィニさんに話しかけた。


「騎士フィニステル=カディス、質問です。そのお金はどこから手に入れたのですか?」

「げっ、クイちゃん」


 フィニさんがとっても嫌な奴にであったという顔をしながら後ろを振り向く。


「あー、これはそのー、そうそう、私が日々命がけで治安維持に力を尽くしているから、商人たちがお礼にって……」

「……以前から貴女が城門の警備をする日だけ、関税のアガリが変に少ないのですが?」

「な、なんだよ!私の番のときだけ商人が少ないからしょうがないじゃないか!」

「そんなことはありませんね、調べましたから」

「へ?」


 クイちゃんと呼ばれた男が懐から巻物を取り出す。


「ここ一週間の城門を通過した行商人の数と、関税の一覧表です。あなたの担当日だけ、関税収入が異常に落ち込んでいます、通行数は変化していません」

「だ、だからなんだよ、私がごまかしたとでもいうのか?!」

 フィニさんが食ってかかる。


「『なぁ、私に任せておけば関税半額にしてやるぜ?』『あとは見逃してやるからさ!』さて、誰のセリフでしょうか」

「あぐ」


 あ、フィニさんが固まった。


「あ、あれは商人たちが!」 

「さてと、言い訳は政庁で聞きましょうか。まったく、やるならもっと上手くやりなさい」

「あう……」


 フィニさんが銀髪の男に引きずられていく。あ、僕のお金!


「おや、貴方は?」


 僕は簡単に自己紹介をすると、フィニさんに金貨2枚の貸しがあることを伝えた。銀髪の男は一つため息をついて、言い放つ。

「貴方の言うことは分かりましたが、この女の所持金は公金の疑いがあるので渡せません」

「そうですよね……」


 僕はがっくりとうなだれた。


「私はフルーヴィア城市政務官のクイディサス=アビシンサスと申します。借金はこの女の給料から天引きしてお返しすることにしましょう。毎月の月始めに政庁に来ていただければ」

「分かりました」


 お金を反してくれるなら否やはない。僕は顔を縦に振って頷いた。


「ってクイディサス!お前人の給料を勝手に渡すんじゃ」

「貴女は黙ってください」

「ぐえっ」


「まったく貴女は盗賊退治はマジメにやるくせに、その他は本当にダメですね。今日こそはきっちり説教させていただきます」


 そして、フィニさんは、クイディサスさんに引きずられて政庁のほうへ消えて行った。


   ☆       ☆      ☆


 フィニさんが引きずられて消えてから、しばらくして兵士が二人やってきた。小さいのがルーさんで、背の高い色黒の大男がファンだ。


「フィニ姐様をどこにやった!」

 ルーさんが犬耳を振り立て、大口をあけて牙を光らせながら居丈高に僕を詰問してくる。やばい、可愛い。


「ルーさん! 結婚してください!」

「断る!」


 ガーン、また振られた。やっぱり僕の顔が地味なのがいけないんだろうか。でも顔は努力でどうもならないし……

 うなだれる僕を見て、ファンさんが問うてきた。


「フィデス、さん。フィニ、知らないか?」

「クイディサスさんっていう人に政庁に連れていかれました」 

「知ってるんじゃないかこの馬鹿っ!ファン急ごう!姐様の貞操が危ない!」

 なぜかルーさんは僕を怒ると、尻尾をぴんと上げてファンさんと一緒に政庁のほうに駆けて行った。ああ、尻尾も可愛いなぁ。


 僕は村への帰り道、ルーさんと金髪猫耳ちゃんの可愛さを反芻しながら歩いた。獣耳分をかなり補充できたから、これで明日からも頑張れるぞ!僕は結構幸せな気分であった。

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