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僕が女騎士様と一緒にお酒を飲んだわけ

・細かいことは気にしないでください


 フルーヴィアは帝国東方でも比較的大きな城市である。ちゃんとした石造りの城壁をもち、周囲の村々と小都市を従えてフルーヴィア属州の州都を名乗っている。属州を東西に分断するカトル川が城壁の中を通っており、東方水運の重要拠点でもある。そのため大きな人口と多くの商店、複数の宗派の教会を持っており非常に栄えている。



   ☆       ☆      ☆


「かんぱーい!」


 僕は女騎士様に連れられて、フルーヴィア城市の酒場で酒盛りをしていた。騎士様ご用達ということでどんな高級店に連れて行かれるかと思ったが、意外と庶民的な店だった。これなら支払いもそんなに高額にならなくて済みそうだ。

 テーブルについたのは僕と女騎士様、兵士2人と若者たち11名。若者たちは女騎士様の友達で正規の兵士ではないそうだ。


「ここは私が騎士になる前から通ってる店だからな、安くて旨いぜ!」


 僕の思考を読んだのか、女騎士様が言う。そしてエールを壺から僕の杯に注いでくれる。


「まぁ、飲め飲め」

「あ、すみません!騎士様もどうぞ」

「騎士様とか良いって、フィニでいいよ」

「えっと、じゃあフィニさんどうぞ」

「おう」


 僕がエールを注ぎ返すとフィニさんは美味しそうに一口飲み、皿からソーセージを掴んで口に放り込んだ。


「……」


 僕の隣に座っている女騎士は赤い髪を肩までで切りそろえ、赤いバンダナで軽くまとめていた。テーブルの話題に合わせて大きな茶色の目がくりくりと動き、ずっと陽気に笑っている。背丈は僕より少し高いくらいで、鎧は脱いで赤いシャツと白いズボンを赤い帯を締め、胸は服の上からでもわかるくらい豊かに膨らんでいた。狼耳と尻尾がついていたら似合うだろうなぁ。


「おい、どこ見てるんだ?」


 フィニさんがにやにやしながら聞いてくる。


「あ、いや済みません!」

「あはは、私が美人だからしょうがないな、許す!」

 というとフィニさんにバンバンと背中を叩かれた。なんというか屈託のない人である。


「今日は皆良くやったな!皆フィデスに感謝して大いに飲むように!」

「おー!」

「ありがとうよボウズ!」


盗賊討伐に参加したと思しき若者たちが大喜びで杯を傾ける。あれ?人増えてない?


「おーい、フィニ姐さんが飲んでるって聞いたんだけど」

「今日はフィニ姐さんが助けた兄ちゃんの奢りで飲み放題だぜ!お前もこいよ!」

「おお、じゃあ遠慮なく」


 いやいや遠慮してくださいよ!

 しかし僕の思いとは裏腹に、酒場にはフィニさんの知り合いと思しき若い男女がどんどん増えていった。


「まぁまぁ、全員私のダチだからさ、細かいことは気にすんなって!」

 フィニさんに抱き寄せられる。あの、胸が当たってます、胸が。結局気が付いたら40人近くになっていた。ま、まだ金貨1枚で足りるよな……?




   ☆       ☆      ☆



「いやぁ、しかしフィデス、お前若いのに金貨をあんなに持ってるなんてすごいよな」

 

 酔いが回ってきたのが頬を赤く染めたフィニさんが聞いてくる。


「ちょっと目的があって貯めていただけなんですが」

「目的って何なんだい?」

「あまり人に言うようなものでは」

「いいじゃないか、言えよ。気になるじゃないか」


 僕は意を決して言うことにした。


「獣耳ハーレムを作るための軍資金です!」


 しーん……


 一瞬、場が静まり返った。


「ぶわっはっはっはは!!」


 静かさを破るようにフィニさんが爆笑し、場が笑いに包まれる。


「いやぁ、そうか、そうか、それは大変だなぁ」

「おう、頑張れよ兄ちゃん、ありゃあ高いぞ?」

「猫耳派か?犬耳派だよな?」

 周りの若者たちが馬鹿にするとも激励するともわからない声援を送ってくれる。

 その中で僕の目の前に座っているフードを付けた背の小さな兵士の人だけが黙り込んで下を向いてしまっていた。この人って僕を弓矢で救ってくれた人じゃなかったっけ。


「フィニさん。僕を弓矢で救ってくれた人ってこの方ですか?お礼を言いたいのですが」

「ああ、そうだが……」


 そういうとフィニさんは何か思いついたように、にやっと笑って言う。


「おい、ルー。フードをとって挨拶してやれ」


 ルーと呼ばれた小さな兵士がびくっと身体を震わせる。


「早く」


 にやにやしているフィニさんに促され、ルーさんはそっとフードを外す。


 ぴょこんと立ったこげ茶色の犬耳が二つ、同じ色の髪の毛の間から生えていた。


「……」


 僕は唖然とルーさんを見つめる。その鳶色の目は落ち着かなさそうに下を向いており、酒に酔った白く透き通った頬がほんのり赤くなっている。僕の理想がここに居る。僕は決心した。

 椅子を蹴って立ち上がり、ルーさんの手を取って……


「あ、あのっ!ルーさん!結婚してください!」

「嫌です」


 ルーさんは上目使いでじとっとこっちを睨むと、手を振り払った。


「ぶわっはっはっはは!!」

「だはははは!!」

「いいぞー!もっとやれー!」


 フィニさんと若者たちは大爆笑していた。




   ☆       ☆      ☆



 「あれ?」


 僕は酒場のテーブルの上で目を覚ました。えっと、たしか振られたショックでエールを一気しまくって……そこからの記憶がない。周りを見回すが、フィニさんもフィニさんの友達たちも誰もいなかった。


「兄ちゃん、起きたのかい? じゃあお会計頼むよ」


 酒場のお婆さんが木の板を持ってやってきた。そういえばそんな約束をした覚えがある。


「わかりました、いくらですか?」

「金貨3枚と銅銭320」

「は?」

 働き盛りの人間の1年収に匹敵する金額に僕は驚きながら聞き返す。


「金貨3枚と銅銭320だよ、さっさと払いな、金はアンタがもってるってフィニ嬢ちゃんから聞いてるんだよ」

「いやいや、たかだか3~40人で飲んだだけでその値段はおかしいですよね?!」


 そういうとお婆さんはため息をつくと、


「フィニ嬢ちゃんのたまったツケもコミだよ、あと伝言。『酒場の支払いは頼むぜ!』だそうだよ」

「……ツケまで払うなんて聞いてない!!!!」

「兄ちゃんが聞いてなくてもあたしゃアンタから貰うしかないんだけどね、嫌なら……」


 いつの間にか酒場の店員が僕を取り囲んでいた。


 ……ちくしょーー!!!

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