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僕が盗賊に襲われて全財産がピンチなわけ

・細かいことは気にしないでください

「お願いです!これだけは持っていかないでください!」


「あん?なんで俺らがそんなこと聞かなきゃいけないんだよ」

「リーダー、なんか見たことがないぐらい真剣な顔してやすぜ?」

「しかもすごい勢いで涙を流してますし……きっと何か事情があるのでは?」

「……話してみろ」


「ぼ、僕の……獣耳ハーレムを作るための資金なんです!」

「死ね」



   ☆       ☆      ☆



 15歳になった僕は、父から獣耳族の少女の出物があると聞いて村を急いで飛び出した。僕が向かっているのはフルーヴィアの城市。このあたりの中心城市だ。


 

「止まれ。金目のものを置いていけ」

 

 実に盗賊らしい言いかたで僕に話しかけてきたのは……やっぱり盗賊だった。夏の光に照らされて青々と茂る森の木々と、雨季で水量を増した川に挟まれた街道を塞ぐように剣や槍で武装した3人の男女が立ちはだかっている。


 僕は無言で踵を返して、走り出そうとして……足を止めた。


「おっと、逃がさないぜ?」


 後ろではさらに3人が、森の中からすっと顔を出してきている。

 僕は降伏した。

 

   ☆       ☆      ☆



「どうぞ、これサイフです!お納めください!」

「んだよ、銅銭しか入って無いじゃねぇか、貧乏人め」

「すみませんダンナ。こちとら貧乏人のクズでございまして……」


 僕はヘラヘラと笑いながら盗賊に媚びる。

 僕には大望があるのだ、こんなところで死ぬわけにはいかない!

 幸い金貨は腹巻の中にこっそり巻き込んであり、サイフには普段使いの資金しか入っていない。


「じゃあしょうがねぇな、上着とナイフおいてけ、いくらかにはなるだろ」

「は、はい!ただ今!」


 僕は急いで上着を脱ぐと護身用に持っているナイフをそのうえにそっと置く。


「こ、これで見逃していただけますでしょーか!」

「おう、さっさといけ、こっちだって暇じゃねぇんだ」

「ありがとうございますダンナさま!」


 人を身ぐるみ剥いでおいてそのセリフかよ、という思いを顔に出さないように気を付けながら、僕はヘコヘコしながら立ち去る。

 無意識のうちに、手が腹巻を撫でて金貨の感触を確かめていた。


「待ちな」

「へ?」


 盗賊たちのリーダーっぽい中年男が声をかける。


「その腹巻の膨らみ、なんだ?」

「え?いやいや、なんでもございませんよ!」

「出せ、殺すぞ?」


 金貨を巻き込んだ腹巻がばれたっ?!

 僕は何とか金貨がばれないように、ゆっくりと腹巻を……


 ぐいっ!


 急に腹巻を引っ張られた?!

 

 チャラリン……


「おおっ?」

「金貨じゃねぇか、騙せると思ったのか?」

「い、いやその……」


「まぁいい。大金が手に入って機嫌がいいから許してやる。さっさといけ」


 盗賊のリーダーがにやにやしながら僕に告げる。

 

 僕は土下座した。

 盗賊のリーダーの足にすがりつく。


「お願いです!これだけは持っていかないでください!」


「あん?なんで俺らがそんなこと聞かなきゃいけないんだよ」

「リーダー、なんか見たことがないぐらい真剣な顔してやすぜ?」

「しかもすごい勢いで涙を流してますし……きっと何か事情があるのでは?」

「……話してみろ」


「ぼ、ぼくの……獣耳ハーレムを作るための資金なんです!」

「死ね」


 盗賊のリーダーは無表情で剣を振りかぶった。




   ☆       ☆      ☆





「お前が死ね」


 ドスッ……


 鈍い音が響き、矢がリーダーの頭に突き立っていた。


「なにっ?!」

 リーダーが崩れおちると盗賊たちが一斉に戦闘態勢を取る。

 森の中から赤茶けた鎧と赤いバンダナを付けた騎士と2人の武装兵が姿を現した。つば広の帽子をかぶった背の大きな兵がメイス、フードをかぶった背の小さな兵が弓矢で武装している。

 すると僕の命を助けてくれたのは小さな弓兵の人か。


「げ、官兵か?!」

「まさかとは思ったが、フルーヴィア属州で強盗するようなクソガキがまだ残ってたとはなぁ」


 ドスの効いた、しかし良く通る女声で騎士が言う。帝国騎士の紋章を付けていることから、ガラは悪いが正規の女騎士様のようだ。


「フィニ、こいつらの訛り、南方のやつらだ」


 フィニと呼ばれた女騎士の後ろで、背の高い大男がぼそりと言う。


「なるほど、じゃあこのへんが私のシマだって知らなかったのか。じゃあしょうがないな」

「……な、なんだ、見逃してくれるのかよ?」

 

 赤い女騎士の発言に、盗賊たちが一瞬気を抜く。

 それを見て女騎士はとってもいい笑顔で宣言した。


「ああ、全員死刑で許してやる。感謝しろ」

「ふざけんな!相手は3人だ、やっちまえ!」


 盗賊たちはいきり立って女騎士に斬りかかった。



   ☆       ☆      ☆



 結論から言うと、女騎士の合図で森の中からさらに槍や棍棒を持った10数人の若者たちがわらわらと出てきて、盗賊たちを取り囲んで叩き伏せてしまった。面白みも何も無いが圧勝だ。


「あ、あのっ、騎士様!助かりました!ありがとうございます!」


 僕は上着とサイフ、金貨を取り戻すと深々と頭を下げて女騎士様に礼を言う。


「おう、気にするな。盗賊が出るとか私のメンツの問題だからな」

「僕、プロスペロ村のフィデスと言います!ぜひお礼をさせてください!」

「いいって」

「そこをなんとか!」

「……じゃあフルーヴィアで飲むから、酒場の支払い頼むぜ?こいつら全員分な?」

 

 女騎士様が兵士と若者たちを指し示す。ざっと数えると14~15人ぐらいのようだ。酒場で思うさま飲み食いをさせたら、銅銭200枚ぐらいになるだろうか。金貨1枚を崩せば十分支払える。あと11枚残るし、命と命の次に大事な金貨を救ってくれたのだからそれぐらいは払ってもいいだろう。


「はい、お任せください!」

 

 見上げると女騎士がニコリと笑っていた。すっと通った鼻筋と大きな茶色の目をしたなかなかの美人だった。これで獣耳が付いていれば完璧なのに、実に残念である。


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