僕がハーレムを作ろうと思ったわけ
・細かいことは気にしないでください
僕がハーレムを作ろうと決心したのは10歳の時だった。
☆ ☆ ☆
僕は父に従って城市を訪れていた。父が作物の売却交渉をしている間は暇なので、あちこち見て回ろうとそっと父の側を離れる。好奇心に任せて市場に並べられた作物や道具類などを見て回っていると、市場の一角に人だかりができていた。
一体なんだろうと思って人だかりをかき分けた僕は思わず感嘆の声をあげる。
「うわぁ……」
僕の目の前に金、銀、黒、茶……色とりどりの耳と尻尾が広がる。もふもふと柔らかそうな毛並。しかもそれが見目麗しい少女たちについているのだ。僕はいっぺんに目を奪われた。
「さぁさぁ、西方、南方の異民族の奴隷だよ、値段は張るがそれだけの値打ちはあるよ!」
頭に布を巻きつけた商人風の男が声を張り上げる。
「ふむ、獣耳族か、たしかに珍しいが言葉は大丈夫かね?」
「ええ、もちろん。きちんと交易語を教え込んでありますよ!」
絹の衣服を着た裕福そうな男が商人に話しかけるのを頭の片隅で聞きながら、僕は手かせを付けられた少女たちを見つめていた。
長い黒髪から犬耳をぴょこんと出して、尻尾を伏せてうなだれている少女。
くりくりと大きな目で回りを興味深そうに見回し、猫耳をぴくぴくさせている短い金髪の少女。
目を閉じてとがった狐耳をぴんと立て、この境遇に興味など無いと言わんばかりの銀髪の少女。
あの頭や耳、尻尾を撫でたら気持ちいいだろうな……ぼーっとそんなことを考える。帰ってこない僕を心配して探し回っていた父に見つかって、鉄拳制裁を喰らうまで、そう長くはかからなかった。
☆ ☆ ☆
「可愛かったなぁ……」
父に従って村に帰る途中、僕は一人つぶやいた。ぴくぴくと動く耳や尻尾……はぁ、撫でたかった。
「ははっ、色気づきやがって。あの奴隷は高いぞ?買ってはやれんな」
前を行く父の背中から声がした。
「え?あの子たちって買えるの?」
「奴隷だから買えるだろうさ、ただ、金貨20枚から30枚とかとんでもない値段だったがな」
「……父ちゃん、僕、頑張って働くよ」
父が足を止めて振り返る。
「あのなぁ、フィデス=マグナート=ラミナス。大人が1年間マジメに働いたって金貨2~3枚にしかならんぞ?」
父がわざわざ僕をフルネームで呼ぶ。これは父が真面目に話をしてくれているということだ。
「じゃあ10年働く」
「……ぶはっ」
真面目くさって言う僕が可笑しかったのか、父が噴出した。
「はははは!!まだまだ子供だと思っていたが……やり遂げるか?」
「やる」
「それでこそ男だ」
僕は父の目を真っ直ぐ見て言い切る。父はニヤリと笑って激励するように肩を叩いてくれた。
その日、父と母が僕の教育方針で大激論を交わしたと知ったのはずいぶん経ってからだった。
☆ ☆ ☆
それから、僕は必死に働いた。平日は朝から晩まで畑を耕し、水を撒く。
薪を集めて、炭を焼いては城市で売った。
植物のツルを集めて、籠を編んで城市で売った。
麻で網を編んで、沢で小魚とエビを取って干して城市で売った。
父は面白がっていろいろな金儲けの方法を教えてくれ、僕は愚直にそれを全部こなして行った。
労働に疲れたときは、脳内にあの獣耳少女たちを思い起こして身体を奮い起こした。
そして、5年が経過した。
僕は金貨12枚を手にしていた。
最近は身体も大きくなってきて、金貨1枚稼ぐのに前の半分の時間で済むようになってきている。
遠からず最初の1人が買えるだろう。
そしてさらに数年でもう1人。全員で3~4人は買いたい。あと2~30年働けばそれぐらいできるだろう。
「猫耳と犬耳は絶対欲しいし、あとは可愛いのがいたら……にへへ」
僕は金貨をテーブルに並べて眺めながら、将来のハーレムを夢見てにやにやしている。至福のひと時だ。
テーブルの向こうでは弟と妹が心配そうな目で僕を見ている。
心配するな、兄ちゃんは正常だ。
「おう、ただいまー」
鍬を担いだ父が家に帰ってきた。荷物を置いてテーブルに腰掛けると、僕にとんでもないことを言い出した。
「フィデス、さっき行商人に聞いたんだが、城市に金貨10枚で獣耳族の女の子の出物があるらしいぞ」
僕は金貨をかき集めると、城市に向けて走り出した。