初デート・三種の神器
「月下に鬼影、彷徨す 第三話の閑話」ですが、本編未読でも楽しんでいただけます。
デート前のドタバタコメディです。
十五夜 特別投稿になります。
土曜日にデートが決まった千早と巧
いよいよ明日となった金曜日
千早と神奈は最終作戦会議を開くのだが、千早のプラン設定、クラスメート女子による横やりなど看過できない状況が明らかに……
現代怪奇ミステリー×青春ラブコメ。
月夜の南河内を舞台にした、鬼と少年少女の物語。
『月下に鬼影、彷徨す』
いよいよ明日が決戦日、という金曜の帰りのことだった。
夏服ブラウス姿の女子高生二人は近くのマクドナルドで作戦会議とばかりに向かい合って座っていた。
それは二人の片割れである少女による土曜日の初陣……初デートへの作戦会議。
うなじで長い髪を二つくくりにした小柄な少女は「はぁっ」と脱力していた。
「明日……巧は可愛いって思ってくれるかなぁ」
不安を吐露する。
客観的に見て確実に可愛いと言える容姿、大きな瞳に整った目鼻、「清楚」という言葉が良く似合う小柄な少女だった。
「ぶっちゃけ千早でダメなら大体の女子がダメだから、ある意味心配しなくていいと思うわよ」
向かいに座るのはショートボブと切れ長の瞳が特徴的な少女。
「……なんの根拠にもなってないよ」
相対する千早は不満げだった。
「前も言ったけど、巧の奴はまんざらでもないわよ。嫌なら断ってるわよ。あいつそういうとこドライだし」
「そうなのかな……」
言いながらそわそわと指を動かしている。
『まぁ、不安なのも仕方ないよね』
神奈はそんな千早を保護者感覚で眺めていた。
『高校入ってすぐに巧のことを聞かれたときは何だと思ったけど……』
去年の春を振り返る。
神奈にとって巧は腐れ縁の幼馴染であり、弟のようなものだった。
『ま、数少ない良いところを見てくれる娘が居て良かったわよね』
どことなく頼りない幼馴染を思い浮かべながら、シェイクを口に吸い上げる。
目の前の千早はカバンからメモ帳と筆箱を取り出す。引き続き出てきたものが問題だった。
「とりあえず最終確認をしたくて」
「何これ……?」
神奈は目を丸くする。
それはデート予定地のガイドブックなのだが。
「え? 明日の予定……」
「いや、書き込みと付箋っ」
思わず頬がひきつる。
たった一日で回るための内容と思えないほどの詳細なメモ書きと、大量の付箋。
「え? 足りない?」
「多い多い多い多いっ!」
『やばい、この娘の入れ込み具合を甘く見てた』
既に嫌な予感しかしなかった。
神奈の指摘を受けた千早は「うーん」と首をひねっている。
「とりあえず、考えてるのはね……」
千早が説明し始める。
『うん、細かいこと気にするのはやめよう』
諦めよう。諦めるのが楽だ。きっとそうだ。
「……うん、もういいんじゃないかな」
大長編プレゼンによって、ちょっと魂が遊離した顔で神奈が答える。
実際、千早のプランはよくできている。
吐きそうな分量にさえ目をつぶれば良くできているのだ。
「良かった。それと……後はこれかな」
「ん? 千早、何持ってるの?」
千早が手にしているのは小さな巾着袋。ミニチュアと言わんばかりで手のひらサイズでペタンとしている。
「うん。なんかね。岡本さんが『初デートの御守りに』ってくれたんだ」
千早は巾着の紐をつまみ、目の前まで持ち上げていた。
「……これ中身は?」
神奈は眉を寄せる。
「なんだろう? 岡本さんは『いざって時は絶対使うのよ』って言ってたけど……」
「……何か壮絶に嫌な予感がするんだけど、中身確認しとこうか……」
心なしか神奈は胃の痛みを予感するように腹部をさすっていた。
「うん、そうだね。岡本さんも『学校出てから開けてね』って言ってたし」
千早が巾着の袋を開ける。神奈が並んで中身を覗き込んだ。
金色の包みで個包装された薄い何か、一見お菓子の袋のようでもあるが、五百円玉大の『中身』が膨らみ方から見て取れる。パッケージには「0.01」と大書され、その傍らには『たっぷりゼリー』と添え書きが……。
「小さな親切、大きなお世話ぁ……っ」
呻くような魂の叫び。
「え? え? ど、どうしたの神奈? こ、これ何?」
「あー、もう」
神奈が、頭を抱える。
「うん、まぁ、確かにある意味、『御守り』ではあるわ……うん」
こめかみをヒクつかせ、苦虫噛みつぶした顔で言葉を吐き出す。
何をどれから守るかは、指摘したくない。
確かに渡されたものは特定要件に対する、一種の最終防衛システムであるともいえる。
「あ、やっぱり御守りなんだね。えっと、恋愛成就かな?」
千早が述べるのは極めて素直な疑念。
「微妙に掠ってるのが嫌なんだけど、違う、そうじゃない」
だが、答えを知っている神奈からすれば胃がキリキリ痛む地獄のQ&Aである。
「?」
「ねぇ、千早、それ岡本さんに返しとこう」
「え? ……うぅん、持っとく」
巾着袋を大事に抱えて頭を振った。
「いや……用途知らないでしょ?」
「うん、だけど、岡本さんがこれ渡してくれた時に優しく笑って『頑張ってね』って言ってくれたし」
神奈は両手で顔を覆って天を仰ぐ。
Oh My God である。
いらぬ気遣いではあるが、本当に応援してくれてるらしいのがキツい。
『いや、ちょっと待て』
その瞬間、神奈の脳裏に電撃が走る。
「千早、参考に聞きたいんだけど、この初デートに向けて周りから聞いた話って他にどんなのがあった?」
「え? んーと、下着はお気に入りの可愛いのを選んで綺麗にしておくこと……うん、考えてみれば確かに見えない所も気を引き締めないとね。危険な日を避けて安全な日かを確認すること……明日はお天気も快晴だしバッチリだね。それともらった御守りを携帯しないとね。恋愛成就の効果が出たら良いな♪ ……ってどうしたの神奈?」
神奈は頭を抱えてうずくまりそうになるのをどうにか堪える。
三種の神器が揃ってしまっていた。
何と戦うのだろうか?
「……ねぇ、千早、保健体育って苦手?」
頭痛と胃痛の同時攻撃に晒されながら、神奈はどうにか言葉を絞り出す。
「え? え? 何で保健体育? 別に普通だよ? 神奈も一緒に勉強したよね?」
『……あぁ、そうか、この娘、色恋と保健体育な内容が結びついてないんだ……』
思わず天を仰ぐ。
『なら説明……いや、ダメだ。今のこの娘へ下手に知識を接続したら「そっか、そうなんだ……じゃぁ行ってくるね♡」とか言い出しかねない』
千早をよく知らない人は「わざとらしい」と勘ぐるが、そうじゃない。
神ヶ丘千早の天然ぶりは、天見神奈の保証付きである。
千早が通っていた中学は、私立の女子校だった。神奈のような混沌の公立とは世界が違う。
その片鱗を知ったのは、体育で50メートル走を走ろうという時だった。
『そっかぁ、高校からは50メートルになるんだね』
千早がごく自然に零したので、どういう事かと聞いてみた。
なんと彼女の中学では「30メートル走」だったという。
神奈は「何それ?」と驚愕したものだ。
『そうだった……この娘は元からこういう娘だったぁ……』
改めて、純粋培養された天然記念物が目の前にいるのだと実感していた。
『胃が、胃がねじ切れる……』
キリキリと痛む腹部をさすり神奈は確信する。
結論:こんな三種の神器要らない。
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『金曜日から土曜』、繰り返される日々の一部にすぎない。
ただそれだけ、けれど、少年少女が制服から解き放たれ自由な青春の時間に飛び込んでいく、境界線。
金曜までの制服に包まれた青春。土日の私服の青春。
彼女たちは飛び込んでいく、制服から解き放たれた一時の安息へ。
……ただし、節度は大切に
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【おまけ:千早OS Ver.初デート 修正パッチ適用見送りのお知らせ】
【確認された不具合】
外部から入力された恋愛関連情報が、本人の認識により異なる意味へ変換される事象を確認しました。
【修正内容】
保健体育分野の既存知識と、恋愛関連情報の連携機能を実装することで、正しい意味を認識できるようになります。
【実装見送りの理由】
修正後の動作検証において、以下の出力が予測されました。
千早「そっか、そうなんだ……じゃあ、行ってくるね♡」
多大な影響が懸念されるため、実装を見合わせました。
【既知の問題】
なお、外部から持ち込まれた御守りについては、本人が返却を拒否しており、現在も所持していることが確認されています。
【管理者コメント】
神奈「もう何もするな。頼むから」
十五夜ということで、「月下」というタイトルである以上いっちょ噛みすべきと考えました。
基本的に独立したラブコメとしてお読みいただけます。




