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VRMMOの不人気職【農家】を選んだら、偶然育てた毒の花があらゆる敵を無力化する最強の切り札になりました  作者: 久遠翠


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第5話「噂のデバフ使い」

 フォレストウルフの一件以来、俺の元には様々な依頼が舞い込むようになった。

 そのほとんどは、リリィや彼女のパーティーメンバーからの口コミで俺の存在を知ったプレイヤーたちからだった。


「ミナトさん、あの『痺れ袋』をいくつか売ってもらえませんか?」

「次のボス戦で、どうしても『麻痺粘着トラップ』が必要なんだ。頼む!」


 俺の作るデバフアイテムの有効性は、瞬く間に知れ渡った。特に苦戦している中級プレイヤーたちの間では、切り札として重宝されるようになったのだ。

 もちろん、材料である【幽玄花】は俺の畑でしか採れないユニークな植物だ。そのため生産量は限られている。俺はアイテムの販売数を制限し、本当に困っている人たちにだけ提供することにした。


 おかげで、俺の懐はかなり潤った。

 稼いだ資金で畑をさらに拡張し、幽玄花の栽培規模を拡大。同時に、新たなデバフ効果を持つ植物の研究にも着手した。

 農業スキルも順調に成長し、品種改良の成功率も上がってきた。レベルは相変わらず低いままだったが、生産職としての俺は着実に進化を遂げていた。


 そんなある日、俺はアークライトの都市で一つの大きな噂を耳にする。

 トップクランの一つである『銀狼の騎士団』が、フィールドボス『オークジェネラル』の討伐に挑み、返り討ちにあったというのだ。


 オークジェネラルは、凄まじい攻撃力と防御力を誇るだけでなく、戦闘中に『バーサーク』という自己強化スキルを発動する。バーサーク状態になったオークジェネラルは手がつけられなくなり、銀狼の騎士団ですら、その圧倒的な力の前に撤退を余儀なくされたらしい。


「あのグレイさんたちでもダメだったのか……」

 酒場で冒険者たちの会話を聞きながら、俺は小さくつぶやいた。

 グレイ。それは『銀狼の騎士団』を率いるクランマスターの名前だ。冷静沈着な指揮と鉄壁の守りを誇る【騎士】として、その名は広く知られている。


 彼ほどのトッププレイヤーでも、攻略できない敵がいるのか。

 俺は、ふと自分のアイテムのことを考えた。

 もし、俺のデバフアイテムがあれば。オークジェネラルのバーサーク状態を、少しでも抑制できるのではないだろうか。

 例えば、攻撃力を下げるデバフや、防御力を下げるデバフがあれば……。


 そんなことを考えていると、突然、背後から声をかけられた。

「君が、ミナト君だね?」

 振り返ると、そこに立っていたのは、銀色の鎧に身を包んだ鋭い目つきの青年だった。

 その姿には見覚えがあった。ゲーム情報サイトのトッププレイヤー特集で、何度も写真を見たことがある。


「あなたが……グレイさん?」

「いかにも。君に少し頼みたいことがある」


 彼の声は、氷のように冷たく、そして有無をいわせない響きを持っていた。

 グレイは俺を連れて酒場の個室に入った。彼の周りには、同じく銀狼の騎士団のエンブレムをつけたメンバーが数人控えている。その誰もが、一目で強者とわかる空気を纏っていた。


「単刀直入にいおう。君が作っているという、特殊な効果を持つアイテム。それを我々に提供してほしい」

 グレイは、真っ直ぐに俺の目を見ていった。

 どうやら俺の噂は、トップクランの耳にまで届いていたらしい。


「オークジェネラル討伐のためだ。我々の情報網で調べさせてもらった。君のアイテムは、敵の動きを鈍らせたり、拘束したりする効果があるそうじゃないか」

「……噂は、本当です。ですが、あれはあくまで低級、中級モンスターに通用するレベルのもの。オークジェネラルのような強大なボスに効くかどうかは……」

「試す価値はある」


 グレイは、俺の言葉を遮った。

「もちろん、タダでとはいわない。相応の報酬は支払う。金でも、希少な素材でも、君が望むものを提示してくれて構わない」


 トップクランからの、破格のオファー。

 断る理由はなかった。むしろ、俺自身、自分のアイテムがどこまで通用するのか試してみたいという気持ちが強い。

 しかし、ただアイテムを渡すだけではダメだ。

 最高の効果を発揮するためには、使うタイミングが重要になる。


「わかりました。協力します。ですが、一つ条件があります」

 俺は意を決して、グレイに向き直った。

「俺も、オークジェネラル討伐に参加させてください」


 その言葉に、周りにいた騎士団のメンバーたちがざわついた。

「何をいっているんだ、君は農家だろう?」

「足手まといになるだけだぞ!」

 無理もない。彼らにとって、俺は戦闘力ゼロの生産職に過ぎないのだから。


 だが、グレイだけは表情を変えずに俺を見つめていた。

「……面白い。理由を聞かせてもらおうか」

「俺のアイテムは、それぞれ効果を発揮するタイミングがシビアなんです。戦況を見ながら、俺自身の判断で使いたい。その方が、必ず皆さんのお役に立てるはずです」


 俺は、新たに開発した試作品のことも考えていた。

 幽玄花をさらに品種改良して生み出した『月影草つきかげそう』。その花粉には、相手の攻撃力を一時的に低下させる効果がある。

 だが、効果時間は極端に短い。オークジェネラルがバーサークを発動する、その瞬間に叩き込まなければ意味がないのだ。


 俺の言葉に、グレイはしばらく黙考していた。

 彼の周りには、緊張した空気が流れる。

 やがて、彼は小さく息を吐くと、口の端にわずかな笑みを浮かべた。


「よかろう。君のその自信、買わせてもらう。ただし、一つ約束してほしい。戦闘中は絶対に我々の指示に従うこと。そして、自分の身は自分で守ること。それができなければ、即刻戦線から離脱してもらう」

「……承知しました」


 こうして、俺は日本でも有数のトップクラン『銀狼の騎士団』の、次期ボス討伐レイドに臨時メンバーとして参加することが決まった。

 レベル10にも満たない【農家】が、である。

 前代未聞の出来事だった。


 レイド当日。

 集まった銀狼の騎士団のメンバーは、総勢30名。

 その誰もが最高峰の装備に身を包み、歴戦の強者だけが持つ凄みを放っていた。

 そんな中に、場違いな麻の服を着た俺が一人。周囲からの視線が、針のように突き刺さる。


「本当に、あいつを連れていくのか?」

「グレイ様の考えはわからん……」


 そんなひそひそ話が聞こえてくる。

 だが、俺は気にしなかった。

 結果で見せるしかない。俺はアイテムボックスの中にある、丹精込めて作り上げたデバフアイテムたちを静かに確認した。


 やがて、巨大な洞窟の最深部にターゲットの姿が現れた。

 身長は5メートルを優に超える巨大なオーク。その手には、巨大な戦斧が握られている。

 オークジェネラル。その威圧感は、画面越しに見ていたものとは比較にならない。


「総員、戦闘準備!」


 グレイの凛とした声が、洞窟に響き渡った。

 彼の号令と共に、騎士団のメンバーが一斉に武器を構える。

 俺も、投擲しやすいように『痺れ袋』を数個、ポーチに入れた。


「ミナト君は、我々の後方にいろ。決して前に出るな」

 グレイの最後の忠告に、俺はこくりとうなずく。


「――突撃!!」


 号令と共に、日本のトッププレイヤーたちと、凶悪なフィールドボスの激しい戦いが今、始まった。

 そして、この戦いが、俺の名を『噂のデバフ使い』として不動のものにすることになるのだった。

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