私を殺してくれ
ーーーーあれから数日が経過した。
フレイアの収監されている独房にレイルがやってきた。 彼の姿を数日ぶりに見るフレイアだが、その目は虚ろでぐったりと独房の壁にもたれ掛かっていた。 全てを話してしまったあの日から、枷は外され、拘束は解かれていたものの彼女は常に監視され続けていた。 騎士としての誇りも仲間や国への忠誠心も全てを失った彼女に残されたのは、ただ深い罪悪感だけだった。
「君の情報通りだったよ……ユダ村の宿屋に、君たちの仲間が潜伏していた もちろん直ぐに戦闘になったが、君を餌にすると次第に動きが鈍ってな 一人だけだが拘束させてもらった。 確か……名をミリアと呼んでいたな」
そして今、レイルから放たれた言葉を聞いて、フレイアは我に返る。
「……っ!!……ミリア……を……?」
その名前を聞いた瞬間、フレイアの目は大きく見開かれた。 ミリアはルミエル王国騎士の仲間であり、フレイアが幼い頃からの親友でもあった。 そのミリアが自分が情報を漏らしたが故に捕まったと知り、恐怖と後悔の中、体を震わせた。
「……頼むっ……ミリアには何もしないでくれ……あの子は何も知らない……っ! ましてや協力者の名前なんて……。 お願いだ……ミリアは見逃してくれないか……あの子は私の大切な親友なんだ……」
必死に訴えるフレイア。 しかし彼女の言葉は逆に協力者の名前を知ってる人は他にいると言っている様なものだった。 フレイアは親友を守ろうとするあまり、またしても重要な情報をレイルに漏らしていた。
「……なるほど、あの子は知らないんだな? では、誰なら知っている?」
フレイアの表情が絶望に変わった。 また巧妙な言葉の罠に引っかかってしまったと。
「……あ……ああ……また……私は……っ!」
鉄格子にしがみ付いたままフレイアは崩れ落ちるように膝を着いた。 カツ丼に釣られ仲間を売り、そして今度は親友を守ろうとして更なる情報を漏らした。 もう何もかも嫌になった。騎士としての自分は完全に死んだのだと、彼女は理解した。
涙が床に零れ、震える声でレイルに懇願した。
「……もう……もうやめてくれ……これ以上……私に何も聞かないでくれ……私は……もう……」
彼女の瞳にはもう光はなかった。 もう戦う意思は残っていない。 ただ親友を守りたいという一心で、目の前のレイルを見上げた。 しかし同時に、フレイアの心の中では諦めが広がっていた。 どうせ何を言ってもこの尋問官は巧みに情報を引き出させてくるだろうと
「……お前に……勝てるわけがない……」
そう小さく呟く声には深い疲労感が滲んでいた。
「……言い方を変えよう。協力者の名前を知っている人物を教えてくれ」
その言葉を聞いたフレイアの体が小刻みに震えた。彼女の精神は完全に追い詰められており、もう逃げ場などなかった。 ミリアを守ろうとすれば他の仲間を、仲間を守ろうとすればミリアを危険に晒す。 どちらを選んでも誰かを裏切る事になる。
鉄格子にしがみ付いたまま、フレイアは床を見つめた。次々と涙が溢れ落ちる中、震える声で彼女は言った
「……ヴィクター……隊長のヴィクターなら……知っているかもしれない……」
その言葉を発した瞬間、フレイアの力が抜け、床に倒れ込んだ。深い絶望と罪悪感に彼女は泣き叫ぶ
「頼む……っ!! 早く私を殺してくれ……っ……!!」
その叫びはもう生きる気力を完全に失った悲痛な叫びだった。空腹に負け仲間を売り、親友を守る為、隊長を売った。フレイアの心の防壁は完全に砕け散った
「……ふむ。 ヴィクター隊長……か なるほど、では……次は彼を捕虜として捕まえよう。 逃げられてしまったが、帝国領からは出られまい……まだ近くに潜伏しているはずだ……仲間を二人も囚われたのだからな、そのまま帰るような奴ではないだろう」
レイルはそう言うと、フレイアの居る独房を後にした。 独房を出る背中を見てフレイアは、掠れるような声で言う
「……なぜ……なぜ私を殺してくれない……なぜ生かす……もう死にたい……」
フレイアの死への渇望を聞き、レイルは足を止めた。
「……ふむ。……確かにもう十分と言っていいほど情報を喋ってくれたな……。 どうだ? 今度は俺の直属の部下として新しい人生を生きてみないか?」




