精霊の森
ーーー翌日、レイル率いる三人の騎士は、帝国領で最も王国側に近い街コーデリアへ赴いていた。
石造りの建物が建ち並び、人々がまるで戦争など元々無かったかのように賑やかに歩いていた。
「……わぁ……凄く綺麗な街並み……」
フレイアは初めて見る帝国の街に目を輝かせていた。フレイアが初めて帝国領に侵入した時は隠密に移動する為、街から離れた森の中から潜入したしたため、帝国の街を訪れるのは初めてだった。
「……そっか、フレイアは初めて見るんだっけ……私とユリアはあなたが捕まった後、一度この街で身を潜めてたから、少しだけ知ってるわ」
ミリアがフレイアに対して少しだけ自慢げに話す。
「お前達、遊びに来たわけじゃないんだぞ……任務を実行する……ミリア、今さっき言った身を潜めてた場所へ案内してくれ」
レイルが昔話で盛り上がる三人に喝を入れる。上官として、彼女らの指揮官として、緩んだ気持ちを引き締めた。
「……す、すみません……えっと、こっちです……」
ミリアはビクッと身を震わせた。 同時にこれは帝国騎士として初めての任務なのだと改めて肝に銘じ、進行していく。
ミリアの先導の元、レイル一行が向かった先は、コーデリアの中でも、特段大きいわけでも綺麗なわけでもない、地味な雰囲気の小さな宿屋だった。 その宿屋のドアには『精霊の森』と書かれた文字が彫られており、それがこの宿屋の名前なのだとすぐに分かった。
「……行くぞ」
宿屋のドアを軽く押すと、鈴の音がカランカランと鳴り、深緑の着物を着た三十代前半くらいの若女将が奥から姿を見せた。
宿屋の女将はレイルとその後ろに佇む三人の騎士の服装を見て、ただのお客様では無いことを認識する。
「いらっしゃいませ……おや、これはこれは帝国の騎士様?今回はどのようなご依頼でしょうか? 遠征へ向けた非常食でしょうか?」
今回はという事は過去にもそういった依頼があったのだろうか、フレイア達はそういう思考になりながら、レイルの言葉を待っていた。
「……単刀直入に言う。現在、この宿屋に王国側の騎士を匿っているという情報を得た。隅々まで調べさせてもらうが、構わないか?」
レイルの冷徹な視線に、女将は一度身震いをしたが、直ぐに落ち着きを取り戻し、冷静に許可をした。
その返答を貰ったレイルは、右手を上げ、三人の騎士に合図を送った。その合図を見て意図を察した騎士達は、それぞれ散り散りに宿屋の中を詮索する。
待合室、全客室、厨房、トイレ、大浴場、ありとあらゆる全ての場所を隈なく探し出す。しかし、王国騎士の姿を見つける事は出来なかった。 フレイアはともかく、ミリアとユリアの姉妹は一度ここへ泊まっているため、見逃すわけがないのだが、それでも見つけられなかったということは、今回はこの宿屋には訪れていないのだろう。
「……レイル様、一通り全ての部屋を確認して参りましたが、王国騎士の姿は見つかりませんでした……別の場所を探しますか?」
ミリアは申し訳なさそうにレイルへ報告をした。その顔は少し安堵した表情にも見えた。やはり元仲間を探し出すというのは精神的にしんどいのであろう。
「……いや、ここに絶対いる。ユリア、君に移植された右目……その義眼は魔装眼といって、魔力の籠った眼をしている。その眼ならばこの宿屋に隠された秘密の部屋が見つけられるのではないか?」
魔装眼……それは帝国騎士魔導部隊の研究者達が一眼になって作り上げた最新鋭の賜物であり、魔力を持たない人間でも魔法を使う事ができる特殊な義眼だとレイルは説明した。
「……わ、私の右眼……そんな力が……わ、分かりました……や、やって……みます……」
どうすればいいのかわからないユリアだったが、気合いを入れて頑張ってみた。その表情と漏れ出る声は騎士とは思えぬ可愛らしいものをしていた。
「ふぬぬぬぬ……っ!!!……」




