捕虜フレイア
薄暗い独房の中に王国騎士の一人が捕虜として連れてこられた。壁には数々の拷問器具等が掛けられており、掃除をしても取れない血の跡等が床に付着していた。 その部屋の真ん中の椅子に拘束され、両手を枷で繋がれた女性がいた。 金髪のロングヘアが乱れ、碧眼の瞳が鋭く牢屋の外にいる人物を睨み付けていた。
「帝国の犬が、私に何をしても無駄だ、絶対に何一つお前らに話す事なんてない! さっさと殺せ!」
情報は渡さない、むしろ屈辱を受けるくらいなら死を選ぶと叫ぶ。
彼女の名前はフレイア。 ルミエル王国の騎士として数々の戦場で帝国兵を打ち倒してきた強き騎士だった。
「俺はガルディア帝国の尋問官レイルだ…。 これから君の尋問を担当する事になった。 よろしく頼むよ、ルミエル王国王国騎士団のフレイア」
レイルと名乗る男は、帝国軍を象徴する赤と黒で装飾された軍服を着用しており、胸の位置には尋問官としての徽章が施されていた。髪は黒く短髪に整えられており、深く被った軍帽から眼を覗かせていた。
彼は尋問官として、自身の上官からどんな手段を使ってでも情報を吐き出させろと命を受けていた。
「よろしく頼むだと? ふざけるのもいい加減にしろっ! 私は何をされても絶対に口を割る事はしないっ!」
尋問官レイルを睨む目付きはまるで餌を目の前にした猛獣のように鋭く殺気立っていた。
「怖い女だ……フレイア だが安心しろ、その強がりもそう長くは続かないだろう…俺の尋問は他の尋問官とは比べ物にならない地獄だ、早く吐いて楽になった方がいいと、直ぐに理解る」
不敵な笑みを零し、尋問官レイルはフレイアのいる独房から出ていった。 フレイアは困惑した、尋問官の行動が矛盾しているからだった。 地獄の様な尋問をすると言いながらも、何もせず、フレイアの前から居なくなり、一週間が経過した。
「………早く、殺してくれ……私は…何も喋らんぞ……」
この一週間 自分以外誰も居ない独房の中、他の捕虜達の悲鳴や、泣き叫ぶ声を聞きながらもフレイアは未だ屈服する事なく耐えていた。 最低限の水だけを与えるだけ与えられ、尋問らしい尋問は一切行われず、フレイアは少しずつ衰弱していく。 そして再び尋問官レイルがフレイアの前に現れた。
「ご機嫌は以下がですか?フレイア……まだ何も話す気はありませんか?」
冷たい目線を放ち、フレイアを見下すように問い詰める。
「……残念だったな、最初に言っただろう? 私は絶対に口を割らない……時間だけ無駄に過ぎるだけだ! 解放しないのならさっさと殺せっ!」
フレイアの心は全く折れていなかった。 それどころか傷一つ付いてないようにも見えた。
「なるほど……本当に素晴らしい忠誠心だ。 この様な環境下に置かれてもなお、心が折れていない……本当に素晴らしい…だが、俺の尋問はこれからだ…まだ始まってすらない」
「……なん、だと? 」
フレイアの表情が変わった。 先程までの強気の表情から一気に動揺した顔付きになる。
「少し、お腹が空いたと思わないか?」
尋問官のその言葉に、フレイアは全てを察した。
「……っ!! ひ、卑怯だぞ、貴様ァ!! 」
次の瞬間、一人の帝国兵が、一杯のカツ丼をフレイアのいる独房へ運んできたのだった。
狭い独房の中、その香ばしい匂いは直ぐに充満し、フレイアの喉が鳴る。
「……貴様……これが私の好物だと分かってやったな?」
レイルは不敵に笑い、フレイアの質問に対して首を縦に振った。
「……ゲス野郎がっ!……この為に一週間何もせず、ただ限界になるまで空腹状態にさせたというのか!」
フレイアはレイルの思考を読み取り、絶望と怒りで暴れまわった。
「……では、取引だ。君からの情報を一つとカツ丼一口を交換しよう。 俺も今日はまだご飯を食べてないのでな、腹が減っている…俺が食べ切る前に吐いた方がいいぞ?」
尋問官レイルはそう言って、カツ丼を一口、食べた。 その咀嚼音は静寂な独房の中に響き渡る。 とても美味しそうな匂いと、衣が弾ける咀嚼音にフレイアは騎士として恥じる程、お腹を鳴らしていた。
「あああもう!うるさい!私の腹よ、黙れ!」
フレイアは自分のお腹に向かって叫んだ。 その姿はどこか滑稽で、高慢な騎士というよりも、ただ食いしん坊の少女のようだった。
「……酷い、酷すぎる……こんな拷問があるか……っ!」
フレイアの声には明らかに悔しさが滲んでいた。 暴力的な拷問ではなく、こんな形で心を折られるとは思ってもいなかったのだろう。




