高校生編 第4章 クリスマスの夜、待つ場所
駅前の広場は、いつもより明るかった。
ツリーのイルミネーションが点灯して、白い光が地面に落ちている。
沙月は、コートのポケットに手を入れたまま立っていた。
息を吐くたび、白くなる。
腕時計を見る。
約束した時間より、少し前。
まだ、来ていないだけ。
そう思って、視線を上げる。
人の流れが、絶えず続いている。
誰かを待つ人。
誰かと合流する人。
笑い声が、ところどころで弾ける。
沙月は、ツリーの前から動かなかった。
スマホが、手の中で少し冷たい。
画面を見る。
通知は、何もない。
――もう少しだけ。
そう思って、また時計を見る。
時間は、ゆっくり進んでいるようで、
確実に前に進んでいた。
コートの襟を立てる。
耳が冷える。
直樹は、どんな顔で来るんだろう。
そんなことを、今さら考える。
笑うのか。
少し照れるのか。
それとも、いつもと同じか。
どれも、悪くないと思った。
でも――
人の流れの中に、見慣れた姿はない。
時計を見る。
約束の時間を、少し過ぎている。
沙月は、もう一度だけ、広場を見渡した。
視線を動かしながら、無意識に探している。
いない。
理由はいくらでも考えられた。
道が混んでいる。
連絡できないだけ。
少し遅れているだけ。
だから、まだ待てる。
ベンチに腰掛ける。
ツリーの光が、視界の端で揺れる。
時間が、さらに過ぎる。
周囲の人が、少しずつ減っていく。
広場の音も、静かになっていく。
スマホを開いて、閉じる。
メッセージを打ちかけて、やめる。
――もし、何かあったら。
そう思った瞬間、
それ以上、考えられなくなった。
時計を見る。
もう、十分すぎるくらい待っていた。
沙月は、立ち上がった。
ツリーを、もう一度だけ見上げる。
光は、変わらずきれいだった。
「またね」
誰にも聞こえない声で、そう言った。
理由は、分からない。
何も、知らない。
ただ、
約束の場所に、
約束した人が、来なかった。
それだけのこと。
駅へ向かう途中、
背後で誰かが笑った。
振り返らずに、歩く。
冬の夜は、思ったよりも静かで、
イルミネーションの光だけが、
街に取り残されていた。
この夜のことを、
沙月はきっと、
長い間、忘れない。
でも――
それが「別れ」だとは、
まだ、思っていなかった。




