高校生編 第3章 夕方、同じ帰り道
放課後の校舎は、少しだけ色が変わる。
昼の白さが抜けて、夕方の影が長くなる。
沙月と直樹は、並んで歩いていた。
特別なことは、何もない。
廊下を抜け、昇降口で靴を履き替える。
外は、思ったより冷えていた。
「寒くなってきたね」
直樹が言う。
「……冬、早いですね」
「この辺、すぐだよ」
そう言って、直樹は先に歩き出した。
沙月は、その半歩後ろをついていく。
同じ道。
同じ時間。
それが、少しずつ増えていく。
歩道橋の上で、二人は立ち止まった。
夕方の街が、下に広がっている。
「ここ、夕方きれいなんだ」
直樹は、街のほうを見たまま言った。
車のライトが点き始め、
信号が、規則正しく色を変える。
「……本当ですね」
沙月は、そう答えた。
沈黙が落ちる。
でも、不思議と長くは感じなかった。
「沙月」
名前を呼ばれる。
「はい」
「……クリスマス、空いてる?」
一瞬、風の音だけが聞こえた。
「……はい」
少し間を置いて、沙月は答えた。
「じゃあ、駅前のツリーのところで」
言い切らない。
時間も、細かい約束もない。
「……分かりました」
それで、十分だった。
歩道橋を降り、また並んで歩く。
約束をしたのに、二人とも、その先の話はしなかった。
別れ道。
「じゃあ、また明日」
「はい」
直樹は振り返らず、手を軽く上げた。
沙月は、その背中を見送る。
胸の奥が、少しだけ温かい。
この時間が、
いつまでも続くわけじゃないことを、
まだ、二人とも知らなかった。
ただ、
約束は、確かにそこにあった。




