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社会人編 最終章  冬のPromise

 冬の終わりは、

 いつも気づかないうちに訪れる。


 雪が降らなくなっても、

 寒さはしばらく残る。


 沙月は、

 久しぶりに、あの場所へ来ていた。


 高校生の頃、

 直樹と最後に約束した場所。


 駅前の、小さな広場。


 クリスマスの日。

 直樹は、来なかった。


 理由を知らないまま、

 沙月は、

 大人になった。


 あの日から、

 冬はずっと続いていたのだと、

 今なら分かる。


 ベンチに腰を下ろすと、

 冷たい風が頬を撫でた。


 もう、

 直樹を待っているわけではない。


 それでも、

 ここに来たくなった。


 理由は、

 言葉にできない。


 しばらくすると、

 背後で、足音が止まった。


 振り返らなくても、

 分かった。


 裕也だった。


 偶然か、

 必然か。


 そんなことは、

 もうどうでもよかった。


「……久しぶりですね」


「ええ」


 並んで座る。


 距離は、

 少しだけ空いている。


 それが、

 二人の選んだ距離だった。


 空は、

 冬にしては珍しく、

 澄んでいる。


「ここ、

 覚えてますか」


 沙月が言う。


「……はい」


 裕也は、

 正直に答えた。


 直樹の記憶としてではない。

 沙月の時間として。


「ここで、

 約束してたんです」


「……来なかった人と?」


 沙月は、

 小さく笑った。


「ええ。

 来なかった人と」


 責める響きは、

 もうなかった。


 ただの事実。


「でも……

 その約束があったから、

 今の私がいる気がします」


 裕也は、

 何も言わずに聞いている。


「守られなかった約束って、

 不思議ですね」


 沙月は続ける。


「時間が経っても、

 消えない」


 風が、

 一瞬だけ強く吹いた。


「……裕也さん」


 沙月は、

 彼の名前を、

 初めて、

 はっきりと呼んだ。


「あなたに出会って、

 全部が、

 やっと現実になりました」


 過去も。

 後悔も。

 愛も。


「感謝してます」


 裕也は、

 少しだけ、

 視線を落とした。


「……それは、

 兄としてですか」


 沙月は、

 首を振った。


「どちらでもありません」


 少し間を置いて、

 こう言った。


「大切な人としてです」


 裕也は、

 それ以上、

 何も聞かなかった。


 聞いてしまえば、

 壊れてしまう気がした。


「……僕も」


 静かな声。


「あなたに出会って、

 自分の過去を、

 ちゃんと受け取れました」


 それは、

 恋の告白ではない。


 別れの言葉でもない。


 ただ、

 人生の中で、

 確かに交わった証。


 二人は、

 同時に立ち上がった。


「もう、

 春ですね」


 沙月が言う。


「ええ」


 冬は、

 終わる。


 でも、

 冬に交わされた約束は、

 消えない。


 守られなかったとしても、

 確かに、

 存在していた。


 それだけで、

 人は、

 生きていける。


 別れ際、

 沙月は、

 一瞬だけ立ち止まり、

 振り返った。


「……さようなら」


 裕也は、

 ゆっくりと頷く。


「さようなら」


 それは、

 終わりの言葉であり、

 始まりの言葉でもあった。


 雪は、

 もう降らない。


 それでも、

 この冬のPromiseは、

 二人の胸の中で、

 静かに、生き続けている。

この物語を書き終えた今、

いちばん強く残っているのは、

「約束」という言葉の、曖昧さです。


守られた約束。

守られなかった約束。

言葉にならなかった約束。


どれも、

そのときは確かに存在していて、

時間が経ってから、

別の形で胸に残ります。


この物語に登場する人たちは、

誰も、大きな声で感情をぶつけません。

叫ぶことも、

正しさを主張することも、

ほとんどありません。


それは、

彼らが強いからではなく、

多くの場合、

言葉にしてしまうと壊れてしまうものを、

 知っていたからだと思います。


人生には、

はっきりした答えが出ない関係や、

正解を選べなかった記憶が、

思っている以上に残ります。


それでも人は、

前に進み、

笑い、

別の冬を迎えます。


この物語が描きたかったのは、

「結ばれること」でも

「失うこと」でもなく、


それでも生きていく、

その途中に残った感情でした。


もしこの物語の中に、

あなた自身の過去や、

思い出したくなかった冬が、

ほんの少しでも重なったなら。


それは、

この物語があなたの中で、

静かに約束を果たした、

ということなのかもしれません。


最後まで読んでくださり、

本当にありがとうございました。


あなたの冬が、

いつか、

やわらかな記憶になりますように。

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