第十八話「変革への序曲」2
「ご心配ですか、交渉の成り行きが」
「それはクオンも同じでしょ。今頃、父様は武者震いをしている頃かな」
「戦場に赴くわけではありませんが、似たような心境やも知れませんね」
クオンはエリサの隣に立ち、同じように城下町の方へ視線を向け、言葉を紡いだ。この日の午後、アントニオとマリアンナの謁見が行われる。
ルミナスリバティーの頭領という立場として再び、王宮を訪れることになるアントニオ。それを迎える女王であるマリアンナはルミナスリバティーの頭領のことを、仮面を被った正体不明の男、アーサー・フランケンとして認識しているため、かつて愛し合った仲であるアントニオが王宮に足を踏み入れるとは思いもしていない。
双方にとって今日の謁見が今後の運命を左右しかねないこと。それをよく知る二人は到底、落ち着けるはずもなかった。
眼下に広がる、王宮を囲うように広がる煉瓦造りの強固な城壁。観光客を迎える以前の王宮にはこのような城壁はなかったことは誰もが知るところ。それだけ、変化する情勢の中で、王宮側が警戒心を強めている証でもある。
警戒される側の立場であるルミナスリバティーの頭領、アントニオにとって、この城壁の門を潜ることの意味を軽んじていることはありえない。革命の兆しが忍び寄る気配を漂わせる彼らをこの王宮が歓迎するか否か、それは重大事といって差支えのないものだった。
「王宮とルミナスリバティーは持ちつ持たれつの関係にあります。外国人観光客を受け入れ、安定的に収益を確保したい王宮側の意向とそれによって悪化する治安の維持を代行するルミナスリバティー。ルミナスリバティーとしては治安維持を名目に一定の条件下で軍事力を持つことが許され、繁華街での影響力を持つことができる。それによって、様々な要望を王宮に突き付けることができる。互いによって悪くない利害関係が続いているのです」
女民国家であるシカリア王国では、外国人観光客に対する治安維持活動を兼任する王立警護隊に志願する女民は決して多くはない。
観光客を受け入れることなく、鎖国政策を取っていた以前であれば、それほど多くの出動がなかった王立警護隊だが、現在では全く情勢が異なる。王立警護隊だけの人員ではシカリア王国全体の平和を維持できるほど、人員は多くない。
観光客でひしめく繁華街だけでもルミナスリバティーを頼り、人員不足を解消したいのが、王宮の本音であった。そのために必要なある程度の武装は許されている。だが、それが凶悪なテロ事件を引き起こし、王宮の喫緊の課題と成り果てている現状は、あまりにも皮肉なことである。
「七か条の要望書の中身を考えれば、平和的な解決が簡単ではないことは明らかです。女王がどのような判断を下すか、気になるところですね」
「母様は変革には消極的な立場だよ。父様が必要以上に揺さぶって、革命運動をちらつかせて、母様の反感を買わないかが一番心配かな」
「そうですか……。国の行く末を憂いでおられる。やはり王子は王子らしくあらせられますね。正体を知られる恐れのある謁見であることの方を心配なさっていると心底思っていました」
「確かに、父様はああ見えて、感情的になって熱くなっちゃうところがあるから、余計な昔話をして母様に正体を悟られてしまわないか心配だね。でも、そこはしっかり弁えているんじゃないかな」
「……そうだといいんですが。今日の謁見にはファイブスターナイツが三人も護衛に同席するようですから。仮面の中身を知られてしまったら、アントニオ様の御身が危険に晒されることなります」
「父様なら、折角の陳情の機会を無駄にはしないよ」
「アントニオ様を信頼なさっているんですね」
「無事を願っているに過ぎないよ。対面コミュニケーションであるからこそ、その場の空気で一気に話が進展することもあれば、後退することもある。でも、この前の様子を見る限り、ディオーナは母様の警護を離れないだろうね」
「警護が万全であることでアントニオ様が無茶なことをしない分、私達にとっては安心できる材料でもありますね。二人には建設的な話し合いをして貰わなければなりません」
二人にとって心配事が尽きない午後から始まる謁見。
招待されていない以上、二人には同席することさえ許されていない。
そのため、止まない風を受けながら、エリサは平和的決着を望み、現実から目を逸らすことなく、運命の時を待つのだった。




