第十八話「変革への序曲」1
ファイブスターナイツに招かれたお茶会から数日の時が流れた。
穏やかな気候と聖なる響きに包まれた秋の季節は過ぎ去り、冷たい風が大気を覆う季節がやって来た。
長い冬の始まり。シカリア王国の冬は雨季に当たり、観光客の数も減少するため、一年で最も静かな季節と呼ばれている。
それでも、12月に入ってすぐのこの季節はクリスマスシーズンに当たるため、城下町では色とりどり、華やかな飾り付けが施された光景が広がっているのだ。
「王子。寒くはございませんか?」
「平気だよ、クオン。ケインズ先生が今年は暖冬になるんじゃないかって話していたけど、そうでもなさそうだね」
心配そうに見つめるクオンの言葉に苦笑いを浮かべて返答をするエリサ。風で吹き飛ばされそうなマフラーを手で抑え、口元を隠した姿は、いかにも寒そうである。
「今朝は晴れてくれていますが、昨晩は初雪にも見舞われて、寒かったですね」
「クリスマスが近づいてきたことを実感するよ」
「繁華街の方ではイルミネーションが綺麗だそうです。照明装置が発達している諸外国では、そういったことも嗜まれているみたいですね」
「そうなんだ。それはちょっと、見に行ってみたいね」
青空が広がる空の下、エリサとクオンはアルカンシェルの塔に上り、肌寒い風を受けていた。
アルカンシェルの塔は王宮の敷地内にあり、城下町が一望できる絶景スポットだ。本来の目的は有事の際に機能する、監視塔の役割を担っているが、普段は見晴らしのいい憩いの場として利用されている。だが、この塔は女民達に開放されているわけではなく、王宮に暮らしている限られた上級階級のみが楽しめる場で、冬場になると閑散としていることが多い。
今日は天気に恵まれているとはいえ、前日の寒気が尾を引いているため、寒さが厳しく、エリサとクオン以外に塔の頂上まで上っている者は一人としていなかった。
「地中海沿岸部では渡り鳥達がアフリカ大陸へ向けて飛来を始めているようです」
「そうだね。城下町の方でも群れを離れた渡り鳥の姿を見掛けるようになったよ」
「空を舞うコウノトリの姿は可愛らしいですが、コロは鳥類が苦手のようですね」
「コウノトリ相手じゃないけど、捕食されかけた過去があるから……。羽音を聞いただけで怖がって服の中に潜り込んじゃうよ」
冬の時期はコウノトリやペリカンが温暖なアメリカ大陸へ向かって飛来する姿が観察できる。大量の鳥達が海辺に集まる姿は壮観だが、エリサの小さな守護者であるコロにとっては天敵そのものだ。猛禽類ともなれば、ネズミと同類にフェレットと同種のコロも捕食の対象として見られる場合がある。小さな小鳥であれば過剰に反応することはないが、カラスやコウノトリ相手でもコロは敏感に恐れをなして鞄の中や服の中に隠れてしまうのだった。
互いにアントニオを父に持つ、同じDNAの血縁関係にあるエリサの横顔を見つめるクオン。整った顔立ちにきめの細かい白髪。男性であることを疑う容姿を持つエリサは、クオンにとって従者として最も大切にしなければならない、守護しなければならない対象だ。
そのエリサが不安げな表情を浮かべ、城下を眺めている。儚げに映るその姿はクオンの感情を揺さぶってしまうほど、美しいもの。二人にとって他人事ではない謁見が行われる日であることを思えば、気が気でないことは致し方ないことであった。




