第十七話「リンカの戦い」2
森には平和が戻り、リンカは一仕事を終えた。
仕留めた獣をロープで縛り、それを持ち前の怪力で引き摺ってリンカは森の中にある小屋へと戻った。
森の中に作られた小屋はリンカとその両親が暮らす木造家屋で、リンカは王宮とこの森を行き来しながら生活をしているのだった。
「マミィ! ダディ! 大きな獲物を仕留めてきたよ!」
小屋の前までやってきたリンカは両親に向けて大きな声で報告をして呼びかけた。
すると、獣を縛ったロープを外している間に両親は小屋の中から姿を現し、2m以上の猛獣が仕留められているのを見て驚きの表情を浮かべた。
「おおっ! これは何と大きい……。近頃、森が騒がしくなってきたと思っておったが、こやつが犯人であったか」
「まぁ……。リンカは本当にこんな大きな獣までやっつけてしまうなんて。
この大きさだと、管理組合に報告して引き取ってもらった方が良さそうね」
平和な森を脅かす害獣。弱肉強食の自然界において強者の前に弱者は成す術なく屈するか必死に逃げ惑う他ない。
シカリア王国西地区のこの辺りの森では突然変異によって危険な害獣が発生することがあり、生態系保護のために度々、対応に追われている。
テロリスト集団によるテロ行為の発生から、王立警護隊を直接派遣して駆除する程、彼らには余裕はないため、通常は現地住民が手分けして取り掛かる懸案だが、この森を大切に考えるリンカは任務中以外はこの森で暮らしながら、害獣駆除を引き受けているのだ。
今回は事前に自然保護団体から報告があった個体で写真を確認していたリンカは見つけ次第、駆除するつもりで森の奥に入っていたのだ。
リンカにとって森での生活は訓練代わりの修行も兼ねていて、王立警護隊でも類を見ない程の高い身体能力は両親の遺伝によるものと自然豊かなこうした森での生活で培ったものだ。
「元々、標的になっていた個体だから、リンカが報告に行くよ。報告が済んだらこの子は引き取りに来ると思うから、残念だけど晩御飯には出来ないかな」
「これだけ大きかったら、捌くのも大変でしょうよ……。勿体ないですけど協会の人達にお任せしましょう」
笑顔で語るリンカに呆れ顔の母親。
リンカの生みの親である両親はかつて他の地方から逃亡してきた移住者であり、元々、身体能力が高いことで有名な珍しい獣人族という種族だ。
耳と尻尾が生えているのが最も大きな身体的特徴だが、肉食動物特有の鋭い牙のようなものは生やしていない。
それは、人間と同じ物を食べている中で退化した結果だと言われている。
獣人族の存在は、古代文明時代にあった過去の生物実験のDNAを引き続いでいると言われているが詳細は不明。詳しい文献も破棄されて残っていないため、自然発生したものとして差別されることなく受け入れられている。
自然に近い森での生活を好むという習性はあるが、知能や語学力に関して人間と大きな差はなく、学ぶ環境さえ整えられれば人間達と同水準の知能を有することができる。
そのため、適切なコミュニケーションを通じて、共存可能な生物と考えられており、獣人族の存在は問題視されることなく希少種であるため、保護を基本として、管理運営されている。
自然環境の保全を課題とするシカリア王国にとっては、獣人族の彼らは森の生態系に詳しく、自然を守りたいという方針に賛同をしてくれるため、貴重な協力者となり得る。
そのため、特別に移民として受け入れ、男女による性交によって産まれたリンカの存在も女性であることから問題視されることなく容認されているのだった。




