第十六話「大罪のレクイエム」2
作戦終了後、オリビアの指示に従わず作戦失敗直前まで追い込んだメンバー達は自分達に責任が押し付けられることを恐れてオリビアの作戦ミスだったと上官達に対して進言。その結果としてオリビアの独断による強攻策、作戦ミスによって犯罪者達を殺してしまったと報告をした。
仲間達が意見を一致させ、そう報告をしたのはオリビアの開花させた秘技が無差別に殺戮する危険な力だったためであり、仲間達にまで死傷者を出してしまったからだ。
やがて、逮捕されることになったオリビアは自分の発案した作戦は間違っていないと上官達に訴えかけたが、事件後の現場の惨状は凄まじく、オリビアの訴えを真摯に聞くものは誰一人としていなかった。
かくして、一人罪を背負うことになったオリビアは刑務所へと収監され、牢獄の中での生活が始まった。
本を読むことも人と会話を交わすことも許されず、外にも出られない日々。
硬い地面に硬いベッド、味気のない食事。
暗く狭い牢獄に清潔とはとても言えないトイレ。
それに加えて身体を洗うことが出来るのは週に一回という環境に陥って始めて、オリビアは子どもの頃に自分が暮らしていた東地区での生活以上の貧しさと不自由さを経験した。
それは、彼女に本当の貧しさとは何なのかを知らしめるものだった。
「食事なんて栄養さえ摂取できれば何でもいいと思っていたのにな……。
栄養を摂取しようと思って食べれば太るし、食べなければ身体が動かなくなるし、煩わしいと思っていたが。この調子なら身体を動かす必要もなく、勝手痩せていくだろう……」
硬いベッドに横たわり、虚しい贖罪の日々を過ごすオリビア。
考える以外にすることのない時間が多い刑務所での日々。
退屈を極める時の中でオリビアは自分に何が足りなかったのか自問自答を繰り返した。
「簡単に人は信用をしてはいけない……。
当然のことだけど、弱い人ほど自分の実力に自信が無く、裏切りやすい。
自分一人では何もできず、人に頼ってばかりの役立たずになってしまう。
だが、一人で作戦を成功させることが出来る程、自分は強くないことは自分が良く知っている。
考えれば考える程、つまらないことばかりだな……」
毎日のように退屈凌ぎ思考を働かせ続けた結論として導き出された答えは作戦指揮を行う自分がより仲間を説得できるだけの材料を埋め合わせ強くなること。
いついかなる時も冷静沈着に状況判断を行うこと。
そして、信頼できる仲間を手に入れることだった。
刑務所での生活が続き、一カ月が過ぎた頃、唐突に牢の扉が開かれた。
何事かと身体を起こしたオリビアに対して、刑務官は黙って付いて来るように告げた。
今更になって反抗する気にもなれず、疲れた脳を引きずり後を付いて行った先に待っていたのは、女王、マリアンナとディオーナであった。
「どうして、女王様がここに……?」
「オリビアさんが不思議に思うのも当然でしょうね。
でも、今日は貴方にお願いがあってここまで来たのです」
警護の目が四方にある中。真っ白な肌をした、天界から降りてきた天女のような輝きを帯びた女王の言葉がオリビアを驚かせる。
女王自らが会いに来る理由が想像つかず、まさか自分を嗤いに来たのかと思ったが、わざわざ女王がそんなことをするはずもない。
全く話が見えないまま、オリビアは疲れた脳を再起させ、意識を研ぎ澄まして女王の言葉に耳をすませた。
「貴方が書いた、例の事件の作戦報告書を読ませてもらいました。
それで、刑務所に収監されているのは不憫なことだと思いましてね。
折角だから、直接話をしてみたいと思い立ったのよ」
まるで別人のように、怪しい微笑みを浮かべて、言葉を続けるマリアンナ。
オリビアは口を半開きにして、一体女王は何を考えているのか分からぬまま、頭が真っ白になった。
それから、女王はオリビアの気を落ち着かせようと、椅子に座らせ、ブラックの珈琲を差し出した。
「貴方の好物は何っ? って王立警護隊の人に聞いたら、これが一番だろうってお聞きしました。
窮屈な思いをさせてしまったでしょうから、クッキーと一緒にどうぞ。
急ぐ必要はありません。少し落ち着いたら、話を再開しましょう」
普段は毅然として礼儀正しく、笑ったりしない女王がたかが王立警護隊の隊員に対してこんな話し方をするのかとさらに衝撃を受けながら、久しぶりにオリビアは温かい出来立ての珈琲を飲んだ。
「冷静沈着で何があっても動じない性格って聞いていたのに、そんなにも辛かった?」
「いいえ……。驚いているだけです。普段飲んでいた珈琲がこんなにも美味しかったのかと思って」
「不思議な事を言うのね。それを人は感動をしているって表現するのよ。貴方は我慢強い人だから、辛い気持ちを、苦しいと感じる心をすぐに心の奥に封じてしまってるみたいだけど」
無意識に瞳から止めどなく溢れて落ちて来る涙。
久々に口にした珈琲の味は本当の不自由を知らなかった自由だった日々の象徴のような味わい。
オリビアは作戦失敗した後でも零れることなかった涙を、女王の計らいによって、この時初めて流した。




