第二話「古の時代より」4
このシカリア王国では古代文明の遺産を引き継ぎ、ゲノム解析研究が進み、建国当時から遺伝子操作され続けた結果、現在では誕生する子どもの約99,7%、女性が誕生するまでに変化を遂げている。
さらに、それでも低確率にはなるが、子宮内の子が男性であることが判明した時点で出産が取り消されることが決められ、その子供は死産させられるように制度上決められている。
僅かながら犠牲を伴うが、これが女民国家を維持するためにシカリア王国の中では公平かつ平等で、波風立たない制度であると信じられてきた。
出産事情については国民の多くは男女間での性交を経験することのないまま、子を持つことになるため、体外受精を選択することになる。
流れとしては採取した卵子をバンク済みの精子と受精させ、培養した胚を子宮に戻して出産の日を待つことになる。
この選択を行った場合、違和感を覚える人は国民の中にほぼ存在せず、多くの人がこの方法で誕生した胎児を我が子として出産して育てている。
その他にも、出産の痛みを伴うことなく赤子を引き取る手段として、人工子宮を活用した方法があり、この場合は卵子の採取のみが行われる。
この方法は、市民達に”神の祝福”として知られていて、人工子宮という高度な文明時代の生き残りとも言える先天的な生殖技術の存在については一切知らされることはなく、人工子宮の存在はブラックボックスとされている。
また、非合法な手段として観光客や研究者、労働のため派遣された男性と性交をして妊娠し、出産するケースが一定数ある。
この場合、非合法な出産が判明した時点で母親は逮捕され厳しい処罰を受けることになり、産まれた子どもは孤児になる。孤児は孤児院へと送られることになっており、観光客の増大と共に妊娠をするケースは増え、孤児の数は増加傾向にあった。
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「その話が本当なら、こんなものはもう必要ないのではないですか?」
ケインズから詳しい詳細を聞いた後で、疑問を口にするエリサ。
今の人類には到底、管理運営の難しい技術が用いられた人工子宮。
それ以前に、平均寿命が伸び続け、人口が増加傾向にある現在のシカリア王国において、必要な技術とはエリサには思えなかった。
「わしもそう思う。だからこそ、王子にこうしてありのままを伝えている。この愚かな行いを止められるのは、この国の統治者である女王のみだからな」
ケインズの言葉から自分に責任が圧し掛かって来るエリサ。
次期、女王の立場として、この制度を廃止できるのは立ち位置に自分はいる。知ったばかりの真実が一気に現実味を帯びていくのをエリサは感じた。
「今、対応に追われている西岸部の研究施設へのテロ行為。あれも今の話と無関係ではない。あの研究施設も人工子宮を利用して未来の子どもを育てている施設じゃからな」
「そんなのって……」
「信じたくないじゃろうがな。現実は残酷じゃ。恐ろしいテロリスト集団にだって大義はある。このような国の制度を改めさせ、男女が共存できる当たり前の社会へ書き換えたいとな」
エリサの内にある善意に突き刺さっていくケインズの言葉。
カプセルの中に浮かぶ物体が羊水に浸されている子宮であると分かると、吐き気を催す程の不快感を覚えた。
テロは止めさせなければならないことで、テロリストは危険な存在である。
そう信じてきたエリサにとって、この真実は女王である母への疑念を募らせるには十分な内容だった。
こうしてエリサはシカリア王立総合医学研究所の地下施設で人工子宮の存在を初めて知ることになった。




