第十五話「太陽のような彼女が愛する人」5
舞踏会当日。
ローソクの灯りが灯ったシャンデリアが並ぶ、豪華な王宮の舞踏会会場。
やや薄暗い室内の中では王宮音楽隊が奏でる舞曲に乗せて、この日のために着飾ってきた貴族階級の女性達が揃って明るい姿で踊っている。
女民国家、シカリア王国の国民以外は舞台の中央で踊ることが許されていない会場には当然、女性しかいない。
男性の目を気にすることなく、自分が一番輝いていると感じる衣装を身に付け、舞踏会を楽しむ国民達。
女性同士の出会いの場でもあるこの舞踏会は定期的に開かれ、長く続く慣習の一つになっている。
エリサとも親類縁者であり、王族貴族であるエリーは両親と一緒にやってくると、エリサの姿を直ぐに発見した。
白いドレスに身を包み、一人、目立った位置に立っている、第一王子のエリサに対して、勇気を出してダンスを申し込む人は見ている限り、まだいない。
明るさを象徴するような、オレンジカラーのドレスに身に纏ったエリーは優しく微笑み、自然を装ってエリサの隣に立ち、手を差し伸べた。
「エリサ王子。約束通り、一緒に踊りましょう」
「はい、喜んで」
恐る恐る、不安そうに手を差し伸べるエリサの手を掴み、中央へと向かって歩いて行く。
ダンスは慣れていないというエリサに恥をかかせない為に、エリーは精一杯のエスコートを施そうとエリサの目を見て話しかけた。
「周りの人達も、自分が着ているドレスのことも今は気にしなくていいよ。
あたしとダンスを踊ることにだけ集中して」
「うん、エリーさんって本当にスタイル良いな……。
お母様が考える理想の女性って、エリーさんのような人のことを言うんだと思う」
「ありがとう……。そんなに褒めてくれるなんて思わなかった。
こんなこと言っても嬉しくないと思うけど、エリサ王子もとっても綺麗だよ」
エリーの言葉に頬を赤く染め、不思議そうな表情を浮かべるエリサ。
初めてそんなこと言われたと、手に取るように分かる表情をしていた。
「曲が始まるよ。さぁ、踊りましょう」
「うん、お願いします」
姿勢を伸ばしたまま向かい合い、、曲が始まると同時に身体が強張る。
エリーは何とかリラックスさせようと、小さいステップから入った。
最初は挙動不審のリズムを刻んでいたエリサだったが、エリーのテンポに合わせて身体を動かすことで、無理のない動作でリズムを刻んでいく。
10歳の子どもに大人達と同じ舞踏会のダンスを踊らせるのは荷が重い。
それを感じて心が痛むエリーだったが、その嫌な気持ちを払拭させようと精一杯、笑顔を浮かべて微笑みかけ、エリサを励まし、元気づけた。
その気持ちが段々と伝わり始めると、エリサの表情は柔らかさを取り戻し、踊りにも余裕が生まれ始めた。
そうして初めて、二人は視線を合わせたまま、踊ることが出来た。
「上手だよ、ちゃんと踊れてるよ」
「エリーさんの個人レッスンのおかげだよ」
「ううん、エリサ王子は飲み込みが早くて助かるよ。
あたし、本当にこうして一緒に踊れて楽しいよ」
「僕も……。大人ばかりでどうしていいか分からないけど、エリーさんと一緒なら楽しいよ」
「良かった……。勇気を出してお誘いしてよかったよ」
自分よりも背の低い、エリサ王子に合わせてゆったりとしたダンスを披露するエリー。
繋いだ手が、触れ合う身体が、熱くなっていくのを覚える度、エリーは自分自身が募らせるエリサへの想いがホンモノなのだと実感した。
「エリサ王子、これからもあたしがエリサ王子を守ってあげるからね」
「えっ……?」
「決めたの。あたしは王立警護隊に入隊する。だから、どんな敵がやって来ても、王子を守ってあげるからね」
エリサ王子と出会い、温めてきた感情を自分の決意に乗せて迸らせるエリー。
この出来事をきっかけに、エリーは翌年、両親の反対を押し切って、王立警護隊に入隊することになり、その後、ファイブスターナイツの一人にまで選抜されることになる。
それは、エリー・シェアチャイルドが、エリサ王子という一人の男性に惹かれていった、末路であった。




