第十四話「ヘブンスターズ」4
「お姉様、今回のは衝撃的でした。思わず折角食べた焼き鳥を口から放出しかけましたよ」
「大袈裟ですわね。別に食べられないものに手を出しているわけでもないのに。食べた後に感想を一言欲しいとは言ってましたけど」
「やっぱり実験台にされてるじゃないですか……。あの店主、この前にお姉様がサソリを食べている時、表情が引きつっていましたし、ドン引きしてますよ。お姉様ってば、変な物ばかり食べてお腹を壊したらどうするんですか……」
顔色一つ変えず、健康状態を保ったプリシラに対して、隣でせり上がった胃液のせいで未だ口の中にヒリヒリとした気持ち悪さが残ったままのエリー。
ようやく立ち上がる気力を取り戻したエリーはプリシラと城下町を歩き始めるが、目の前に出されたものは何でも食べてしまいかねないプリシラのことが心配でならなかった。
「海外渡航者の姿も見えて、賑やかになりましたね」
「こう人数が増えるとルールを順守する人ばっかりじゃないから、取り締まりが追い付かないですけどね」
「何でもすぐに問題解決とはいきませんからね。ルールがあるのだから、目の前の問題から目を逸らすことなく、立ち向かっていくのが私達の仕事ですわね」
まるで婦人警官のように歩く人々の姿に目を配り、強い正義感を志すプリシラ。その目は実に穏やかに見えるが、違反者に対して容赦することはない。
綺麗な花にも棘がある。その棘を普段は隠しているに過ぎないのだ。
「あら、面白そうな屋台が出ていますね」
「あたしは食欲なくなりましたのでもういいですけど、お姉様はまだ食べたりなかったんですか」
心惹かれる屋台料理に囚われてしまい、エリーから離れていくプリシラ。
エリーはヘルシーな中東風コロッケのファラフェルくらいならと思って付いて行くが、プリシラが興味を示したのは、当然のように定番のストリートフードではなかった。
「今度は一体何ですか……」
まるで事件の匂いを感じ取った刑事のように警戒を強めてプリシラの行動を確かめるエリー。
その間にもプリシラは店主にお金を差し出し、笑顔を浮かべて感謝を伝え、屋台料理を購入していた。
「なかなか珍しい食べ物だなと思いまして。滅多に店に並ばないらしいですよ」
「まさかそれって肝ですか? やたらと白いですけど……」
「ええ、そうですわよ。鶏白レバー串ですって。見た目は焼き鳥とあまり変わりありませんわね」
「いやいやいや……。そんなことは全然ないですよ。グロテスクではないので、あたしも見る分には抵抗はないですけど」
エリーは屋台に書かれた看板を見て、プリシラが手に持っている食べ物が鳥のレバーを串に刺して焼いた食べ物であることを確かめた。
鳥白レバーとは鶏の脂肪肝のことをいい、鉄分やビタミンなどの栄養価が高く、生産量の少ない希少価値の高いレバーだ。
クセが強く、抵抗感のある人もいる食べにくい食品ではあるが、滅多に提供されることのない白レバーを手に入れて食すことが出来ることは幸運なことであった。
「これも面白い食感をしていて、味わい深いですわね」
「お姉様は白子も説明を聞かずにそのまま食べてましたし、凄いですね」
「何を言うのかと思えば……。取り敢えず口の中に入れて食べてみないと美味しいかどうかなんて分からないではないの」
「いやいや……。まずは人が食べるのを見て感想を聞くとか、色々あるでしょう……」
「自分の舌が一般平均的なものと違っているのは自覚していますから。人の感想を聞くことに意味を感じませんね」
「そうですか……。あたしとはレベルが違い過ぎて見誤っていました。お姉様はもうそれでいいと思います」
迷いないプリシラの言動に諦めの境地に達したエリーは、ただただ白レバーを頷きながら食べるプリシラを見届けるのだった。




