第十三話「ディオーナの帰る場所」3
暖炉が付けていない薄暗い部屋の中で二人。
温かいシチューと共に夕食の時間を送る。
仕事が忙しいディオーナにとってこうしてユーリと過ごす時間が何よりも心が休まる時間だった。
「東国では風力発電以上に効率の良い発電方法が幾つもあるらしい。そのおかげで夜も明るくて、夏は涼しくて、冬は暖かく過ごせるみたいだな」
「そうみたい。そのおかげか分からないけど、夜遅くまで起きて活動しているみたいね。でも、王立研究所の屋上にも便利な発電システムが備え付けられているんでしょう?」
「あぁ……。太陽光パネルのことだな。あれは古代文明時代の叡智の結晶だ。しかし、あれも寿命年数が三十年程しか持たない発電装置だ。限られた専任の技術者によって整備が賄われている。町中にまで普及させるのは難しいだろうな」
「面倒なのね……。空よりも明るい場所を人が作るのは」
シカリア王国の一般家庭は陽が沈んで暫くすればすぐに就寝を始める。
夜遅くまで労働する人も夜更かしする人も殆どいない。
風力発電などで賄っている貴重な電力を消費して遅くまで活動をするのは、非生産的なことだと考えるのがシカリア王国では当たり前の価値観。
そのため、夜遅くまでバーで飲み明かしたり、街灯に電気を使って電力を消費するのは非常識な行いだと考えるのが多数派であった。
「でも、子どもが夜遅くまで遊びに出掛けて帰って来なくて心配だって、友達が言っていたわ」
「繫華街の方もそんな雰囲気だな。若いうちは遅くまで騒いでいたいのかもしれないが」
「私達だって十分、若いじゃない」
二人、同じベッドに入り、布団を被り眠りにつく前の談笑を楽しむ。
自然と身体を寄せ合い、愛情を確かめ合う時間は何よりも幸福な二人の時間だった。
「そうかもしれないが、私はこうしてユーリとベッドにいる方が幸せだ」
「えへへへっ……。私もよ、ディオーナ」
手を繋ぎ、視線が交わる度、口付けを交わす。
ディオーナはユーリの身体を自分の方へと引き寄せた。
「ねぇ……。お腹、触ってみて」
「あぁ……」
「動いてるのが分かる?」
「分かるよ、ユーリの子どもがとっても出たがってる」
「そうなの、元気一杯です。もうすぐ、会えるわよ」
「楽しみだな、ユーリの子どもと一緒に過ごすのは」
大きく膨らんだユーリのお腹をディオーナは優しくさする。
そのお腹の中で鼓動を繰り返し、すくすくと成長を遂げる、新しい命。
王宮管理の産婦人科医院で体外受精を果たしたユーリの卵子は再びユーリの身体へと戻り、ユーリのお腹の中でゆっくりと成長をしている。
かけがえのない、愛し合う二人の子ども。
ディオーナとユーリは女性同士のカップルであるため、諸外国からすればそうは呼びはしないのかもしれない。
しかし、ユーリのお腹の中で大きくなる胎児を出迎えようしている二人にとっては、それが自分達の子どもであることを疑うことなどなかった。
「ユーリはすっかり母親の顔をしているな」
「あら、出産の痛みは想像を絶するって聞いてるから本音を言えば怖いわよ」
「子どもを作ると自分で決めたユーリなら心配はない。私もそばにいる」
「ええ、頑張ってこの子を産むわ。それで、三人で一緒に結婚式をするの」
「盛大にな」
「私と貴方の夢。叶えましょう、どこまでも一緒にいると誓ったから」
ユーリとディオーナが密かに掲げる夢。
その景色では、綺麗なウェディンズドレス姿に着飾った二人が小さな子どもを抱きかかえ、盛大に催される披露宴の中で幸せな微笑みを浮かべていた。




