第十三話「ディオーナの帰る場所」1
時刻は十八時を大きく回り、十九時が近づいていた。
十二月に入り、本格的な冬がやってきたことで日はすっかり短くなった。
この時間になると太陽は西の空に沈み、東の空から月が昇り、ゆっくりと上空を流れていく。
多くの民は一日の仕事を終えて、家路へと辿り着いている頃。
ディオーナは業務日誌を書き終えて仕事を一段落させた。
オイルランプを消して、帰り支度を済ませる途中、訓練の前に指輪を仕舞っていたことに気付き、左手薬指に指輪を嵌めると、戸締まりをして演習場を静かに後にした。
「この城下町にも遅くまで営業をする店が出てきたか……」
陽が落ちてすっかり暗くなった城下町をディオーナは一人歩いて行く。
街灯のない城下町は夜になると家屋から漏れ出る小さな灯りのみで真っ暗になってしまうが、近年は夜間でも営業する店が出現してきた。
異様な雰囲気を纏った観光産業の中心地、繁華街以外では殆ど電気が普及していないため、夜間に営業をする店舗を見掛けることはこれまでほとんどなかった。
しかし、観光地化が進み、諸外国の技術が持ち込まれつつあることで、売り上げ確保のために営業時間を伸ばし、夜間でも営業をするバーや商店が徐々に進出してきているのだ。
「人口は増えていないのに、この城下町も賑やかさを増してきたな……。資源が乏しい国の財政を考えれば喜ぶべきことだが、古き良き時代が移り変わっていく姿を見るのは複雑なものだな」
感傷的に呟き、灯りの付いた飲み屋の入口を釈然としないまま見つめるディオーナ。
その店からは扉が閉まっていても、客達の声が漏れ出し、賑やかな様子が垣間見えた。
シカリア王国では出産管理が可能であることから、人口調整が行われている。そのおかげで人口増加を抑えることで、食料自給率が下がっても、食糧が不足するという大きな問題には発展していない。
そういった点も、国民から不安の声が多くない要因にはなっている。
だが、観光地化の波は繁華街のみならず、シカリア王国の中心地である城下町の方まで広がりつつある。
それは王宮警護隊の隊長、ディオーナにとって、王宮に向かって危険が刻々と忍び寄ってくるように感じてしまうのだった。
仕事場として最も往復することが多い、第一演習場から自宅まで、三十分ほどの距離を歩き、ディオーナは僅かに灯りの付いた自宅へと到着した。
玄関扉を開くとチリチリンと鐘の音が鳴り、ディオーナの帰宅を知らせる音色が今日も鳴った。
その音に気付いて、家の中から玄関までやって来る女性。
ディオーナはその女性の姿を見て安心すると、表情を柔らかく変化させた。
「ただいま、今日も起きていてくれたんだな」
「お帰り私の王子様、一緒に夕食を食べるのが私の楽しみですから」
「ありがとう、待たせてしまったな。お腹が空いてもう腹ペコだ」
一人ではない、城下町の一角で二人、慎ましく暮らす家。
自分には帰る場所がある。
ディオーナは表情を綻ばせ、女性の身体をギュッと抱き締めた。
女性にしては身長も高く、立派な体格をしたディオーナに対して、相手の女性は小柄で160㎝にも満たない身長。
抱擁を交わし、互いの無事を確かめ合い、冷えた身体を暖め合う。
ディオーナは背中を優しく撫でられると思わず愛おしさが込み上げた。
五年ほど前にディオーナに出来た愛する恋人。
ユーリ・ウェディンズ。
貴族家庭に生まれた彼女は王宮との距離も近く、学生時代から親交があるディオーナの幼馴染のような存在だ。
当時はまだ、ファイブスターナイツの一員ではなかったが、隊員の中でも卓越した才能を発揮して、国に対する忠誠心も強かったディオーナ。
やがて女王からも気に入られて、秘技を開花させてからは出世街道を昇る形で若くしてファイブスターナイツの一員に加わった。
そんなディオーナを陰でずっと支えてきたのが、いつも優しく寄り添ってくれる大切な恋人、ユーリであった。




