第十二話「道化師の笑顔」5
ふと、先頭を歩くクオンが唐突に立ち止まり、振り返って背後に立つエリサと向かい合った。
エリサは忘れ物か何かかと思い、顔を上げて、夕陽に隠されたクオンの表情を見て驚かされた。
自分と同じ緑色の瞳が鋭く開き、怪しく輝きを帯び、殺気に似た気配を漂わせていたのだ。
それは普段の穏やかで主人の想いの優しいクオンとは一線を画す、狩人の面構えだった。
「ですが王子、覚えておいてください。
彼女達はいずれ、私達の敵として立ちはだかる人達です」
冗談ではないと、そう訴えかける程に、真剣の表情を浮かべクオンはその言葉をエリサに告げた。
「どうしてそんなことを言うの?」
楽しい時間を先程まで、ファイブスターナイツのメンバーと自分と同じように送ってきたはず……。
そう思っていたエリサの想いは本性を現したクオンによって脆くも引き裂かれた。
動揺と共に、悲しみを募らせるエリサの問いに対して、クオンは言葉を続けた。
「いざという時、決断が鈍らない為です。
人生は一度きり。選択できるのは一度だけなんです。
ちゃんと覚悟が出来ていなければ後悔します。どんな選択をしたとしても」
まるで別人のように語る、クオンの決意。
レジスタンス組織、ルミナスリバティーにとって、唯一王宮の中に潜入しているクオンの存在が重要でないはずがない。
そのことに気付いたエリサはクオンの意志の強さが自分に課せられた使命感によるものであることを痛感した。
「王子、世界を知れば分かります。私達が間違っていることを。
私はアントニオ様に教えて頂きました。
女性しか生きられない国であることが異常であることを。
私も王子も性自認は男です。偽りの性を貫く必要などありません。
私達が男として生きられる世界を。男として生きることを否定されない世界を。排除されない世界に書き換えなければなりません。
それが男として産まれてしまった、不幸な私達の使命なんです」
エリサが葛藤を抱き続ける中で、さらに繰り出されたクオンの言葉。
自分達はいずれ、ファイブスターナイツや女王と相対することになる。
まるでクオンはそれを既に受け入れているかのように言葉を続けた。
まだ、衝突しない未来を望む、エリサに向かって。




