第十二話「道化師の笑顔」1
お茶会も中盤に差し掛かり、お腹も膨れてきた頃、談笑が途切れたタイミングに合わせて、エリサは様々な想いを携え、ファイブスターナイツのメンバーに向けて話しかけた。
「その、折角の機会ですのでファイブスターナイツの皆さんに尋ねてみたいことがあります。
王宮からそう離れていない、繫華街の方では観光客が年々増加して、そこでは男女の交流も盛んに行われていると聞きます。
そこで増え続ける違反行為を取り締まる役割を担っている、ルミナスリバティーという自警団組織のことも。
皆さんはシカリア王国の現状をどう捉えているのですか?
このまま女民国家体制を維持するのは簡単なことではありません。
民衆の要望に耳を傾け、規制を緩和していく必要性も増してきているのではないですか?」
エリサの問いから始まったファイブスターナイツとのディスカッション。
クオンはエリサが投げかけた問いを聞き”危険な橋を渡ろうとしている”と気付き、自然と肩に力が入り、警戒心を強めた。
しかし、自身がレジスタンス組織、ルミナスリバティーのメンバーであることから、どのような反応を彼女らが示すのか、強い興味を持つことから、エリサの問いを咎めることなく、黙認して会話の動向を伺う判断を下した。
「誰から答えましょうか……。私が最初にエリサ王子の問いに答えてしまうと王立警護隊の総意として見えてしまうかもしれません。ですので、私は最後に答えるとします。個人的な意見でも構いません。
ファイブスターナイツとしての経歴が長い、プリシラから王子の問いに答えてくれますか?」
エリサの問いは突き詰めるとあまりにも内容が広範に及び、個人的な価値観のみならず、国家観にも深く関わる重大事項を含んでいる。
王子に対して、隠し事をしていると捉えられるような回答も適切ではなく、簡単に結論を導き出せるものではなく、女王の意向を無視してこの場において結論を導き出していいものでもない。
ファイブスターナイツのリーダーとして、リーダーシップを取って進行役を買って出たディオーナは、落ち着いた物腰を保ったプリシラに視線を向け、最初の発言権を譲った。
穏やかな時が流れる、お茶会に緊張の糸が絡みつく中、プリシラはハンカチで口元を拭うと、大きな瞳を開き、口を開いた。
「女王様の方針について、私から特別エリサちゃんに申し上げることはありません。
ですが、エリサちゃんが懸念を表明する気持ちもよく分かります。
ですので、個人的な意見としてここから話させていただきますね。
このシカリア王国が諸外国に比べれば閉鎖的と見られるのも当然です。
そのことを知れば、自由で開かれた社会を目指すのも一つの選択でしょう。
しかし、現状ではそれは最も困難な道のりを選択することになるやもしれません。
ですが、慎重に話し合い、平和的解決ができる問題であるならば、取り組む価値はあるのかなと私は考えています。
それは、私達が今の生活を維持できているのは、税金を納めてくださる国民の皆様や観光客の皆さんのおかげであるからです。
その方々が切に願うのであれば、一つ一つ変わって行く勇気も必要ではないかと考えています」
プリシラは一つ一つ、言葉を選び取りながら自分らしく回答した。
具体的に観光客の移住や男女の婚姻、男性も生きられる制度についての言及がないことから、無難な回答に聞こえるプリシラの意見。
しかし、エリサやクオンのような特別な境遇を持つ者を除き、実際に男性と交流をした経験のない、王宮で暮らしているプリシラのような女性から、こういった柔軟な意見が出るのは珍しいことであった。
「成程、男性との交流がない以上、男性を恐れる気持ちは当然ありますが、観光客や国民の意見を無碍するわけにはいかない。
平和的解決を望み、一つ一つ変わって行く勇気、それを受け入れる寛容さも大切なことだな」
王宮に近い人間であればあるほど、男性そのものに対する抵抗感は強い。
それは混乱を避けたいと願う国民感情に由来する。
差別意識を持っていなくても、対立することなく安心出来る人達との営みを維持したい。さらに分断を招くことになるなら制度は変えたくない。そう願う人々は多いため、平和的解決を望む意向は当然のものであった。




