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ジェンダーフリースクリプト~始まりの物語~  作者: shiori@


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第十一話「百合の花園」4

 久しぶりのお茶会で再会の時を過ごしていると、やがてお茶会らしくケーキとドリンクが続々運ばれてきた。


 エリサとクオンの前に運ばれてきたのは甘い果実の香りが漂うアップルティーと色鮮やかな果実が散りばめられたフルーツタルトだ。


「美味しそうだね」

「はい。ここのケーキは絶品ですから。王宮で出しているものより新鮮で美味しいですよ」


 贅沢にトッピングされた、オレンジやブルーベリー、白桃や梨や、葡萄などの豊富な果実。様々な果物の味を一皿で纏めて食べられる贅沢はこのカフェ以外ではそうお目にかかれない逸品だ。


「王子はやはり、白桃がお好きですか?」

「うん、口の中で蕩けていって、甘くて美味しいんだよね」

「そうですか。どうぞ、私の分も食べて下さい」

「ありがとう」


 フォークで刺した、白桃がクオンの手から差し出されるとエリサは口を近づけ、そのまま口の中に放り込んだ。


「果物は環境変化の影響を受けやすい食品です。こうした果物もいつまで国内で生産することが出来るか……」

「本当に農家の皆さんが頑張って作ってくれているんだもんね。有難く頂かないと」


 値上がりするだけでは済まない、いつか食べられなくなる時代がやって来るかもしれない。クオンの言葉を聞き、エリサは大切に自然の恵みを口いっぱいに味わった。


「リンカはまたその甘ったるいチョコレートドリンクを頼んだのですか」

「チョコレートじゃないのだ。これは美味しいココアなのじゃ!」


 隣の席に座る、不愛想な視線で見つめるオリビアに対して大好物のココアの美味しさについて、力説し始めるリンカ。

 

 リンカの注文したココアは表面に生クリームが掛けられているだけでなく、火にかけて熱して焦がしたキャラメルが掛けられ、独特の甘みと香ばしさをプラスしている甘党であれば堪らないドリンクになっている。

 しかし、甘い物よりも苦い物の方が好みであるオリビアはココアから漂う匂いを嗅ぐのも遠慮しない気分だった。


 そのオリビアが注文したのはブラックのホットコーヒーに甘みを抑えたチーズケーキでこの店の定番メニューになっている人気商品であった。


「花を愛でる趣味のない自分でもこのような場所で風情のないそのような糖分の塊を摂取しようとは思いませんよ」

「むぅ! そういう意地悪なことを言うオリビアは孤独な生涯を送ることになるのだ!」

「自分はそれで全然構いませんよ。紛争が終わり平和が訪れれば隠居して本を読んで過ごしますので」

「むぅ! リンカは動物達と一緒に戯れている方がずっと楽しいのだっ! うにゃ……甘くて美味しい。このキャラメルの香ばしい刺激的な甘みは桃源郷へ誘う魅惑の味なのだぁ……」


 仕事から解放されれば、静かに読書に没頭したまま一人で暮らしていたいと願うオリビアと、家族や動物達と自然の中で暮らしたいと願うリンカ。

 両者の求める幸せはあまりにもかけ離れていて交わる要素がまるでない。

 オリビアの言葉攻めに対抗して接したリンカは目の前の甘い香りに誘われ、オリビアの態度を気にするのをやめて、生クリームにキャラメルが入った極上のココアを堪能するのだった。


「王子。実はココアは西アフリカが主要な原産地でなかなか一般には流通していないんですよ」

「そうなんだ。確かに僕も飲んだことがなかったね。リンカちゃんが美味しそうに飲んでいる姿を見ると、つい僕も飲んでみたくなったよ」

「ファイブスターナイツの皆さんとのお茶会です。遠慮なさらずですよ、王子」

「そうだね。二人で来るにはもう少し身だしなみを整えてからの方が良さそうだし、こういう時に飲んでおくのが良いね」


 海外からやって来る行商人から取り寄せられたココアはシカリア王国国内では希少価値が高く、どこでも嗜めるわけではない。

 ココアの原料であるカカオ豆の生産も、ココアパウダーへの加工も海外に頼っているため、国内では生産していない。

 そのため、行商人が仕入れてくる、高価な食品としてチョコレート及びココアは知られている。

 クオンは希少価値が高く、高級であることをよく知っているため、自分で飲むことは遠慮したが、王子であるエリサには勧めた。


「プリシラ姉さんはローズヒップティーですか。相変わらずいい香りですね」

「ローズヒップは香りも良くて飲みやすく、美容にも健康にも優れていますから。乙女が集うお茶会の際には持って来いの飲み物ですよ」


 興味津々な様子でプリシラの持つカップに注がれた、ローズヒップティーを見つめるエリー。

 音も立てず上品にカップを傾け、瞳を閉じて鮮やかなルビーレッドをしたローズヒップを味わうプリシラの姿は実に優雅で絵になる。

 抜群のスタイルを持つだけでなく、包容感のあるプリシラの姿は淑女のお手本のようで、エリサもローズヒップティーが口の中に吸い込まれていく光景に、自然と目を奪われてしまうのだった。


「プリシラさんは幸せそうですね」

「うん、ディオーナが言ってたよ。お茶会の開催に一番積極的なのはプリシラさんだって」

「そうでしたか。それなら、普段からここでお茶を嗜んでいるかもですね」


 うっとりとした表情を浮かべ、落ち着いた物腰でローズヒップティーを嗜むプリシラの姿を見つめるエリサ。

 赤茶色のロングヘアーを後ろで結び、緑色のワンピースに身を包んだプリシラはおっとりとしていて、戦乙女とは思えない清楚な淑女をしている。


 誰かが戦わなければこの国を守ることは出来ない。

 それを頭では理解していても、プリシラのような女性が戦場に立つことに対して、エリサは抵抗感を覚えるのだった。


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