第二話「古の時代より」2
「ケインズ先生! 先生はお戻りでしょうか?」
膨大な研究資料に囲まれ、狭苦しい研究室の中へと足を踏み入れて、声を掛けるエリサ。まるで道幅の狭い図書館の中を探るように、ケインズの姿を捜して歩くエリサ。すると、目の前にケインズではなく研究者らしく白衣姿をした助手のチャック・グレイが姿を現した。
「王子!」
「チャック先生! ケインズ先生がお戻りになったと聞いて来ました」
「はい、昨日お戻りになって。今朝も早くから第二研究室に籠っていますよ。お会いになられますか?」
「勿論です。案内して頂けますか?」
「かしこまりました。私にはもう、教えられることはほとんどありませんから、父に教えを賜るのがいいでしょう」
「そんなことありません。まだまだ、チャック先生から学ばねばならないことは数多くありますよ」
「そうでしょうか? 私は教えることは可能でも考えることは苦手です。特に政治的な事に関しては。私に教えられることが王子に必要な学問とは限りませんよ」
「いいんです。僕は政治には興味ありませんから」
ケインズの息子で助手をしているチャック・グレイ。眼鏡を掛けた彼は真面目さが取り柄のような男性。
海外出張していることが多く、滅多に国に帰って来ないケインズ博士に代わって、エリサの指導を任されている家庭教師のような存在である。
年齢は三十代と若く、父のケインズ程に知識が豊富というわけではない。それでも、父の研究を助手として手伝い、多くの本を読んで学んできた経験はエリサにとって頼れる人物に変わりはなかった。
「遠くない将来、そうも言っていられない日が訪れてしまうでしょう。政治に関心を持てないと言っていられないと思いますが、今はいいでしょう」
王子という立場を代行する人物など、そう簡単に現れることはない。
よって、エリサはいずれ女王の跡を継ぐことになる。
だが、それは当然のようにエリサ自身も周知のこと。
チャックは課せられた使命の重さに苦しむエリサの心中を察し、話題を切り替えることにした。
「その、驚かないで聞いて欲しいのですが、父はまた余計な発明品を生み出してしまいまして……。取り敢えず見に行きましょう。見て頂いた方が分かりやすいでしょう」
「ケインズ先生がですか……? 先生の発明品は突拍子もないものが多くて、いつも理解が追い付きません。まるで錬金術を見せられているようですから」
チャックの言葉に懸念を抱きつつも興味を示すエリサ。
遠出をして手に入れた知識を基にこれまで創り出された発明品の数々はこのシカリア王国の文明レベルを遥かに凌駕した代物ばかりだった。
変わり者と呼ぶべきか、稀有な才を持ち合せたケインズにしか作り出せない上に再現性のないものが多く、全てが役に立っているかと問われればそうとも言い難い。しかし、エリサと助手のチャックを驚かせたのは一度や二度ではなかった。




