第十一話「百合の花園」3
すると、挨拶をするタイミングを伺っていたもう一人のファイブスターナイツ、リンカ・イシュタムが堪えかねたようにエリサのことを見つめ、前のめりになって声を掛けた。
「リンカのことは忘れてないよね?」
「当たり前だよっ! リンカさんが戦っているところは久しく見てないけど、あの時の衝撃は忘れられないから……」
「そんなに怖がらなくても……。リンカだって王子と仲良くしたいんだから」
「ありがとう……。クオンも一緒に同行してもいいなら、山の中でも一緒するよ」
「本当に? 約束なんだからね!」
野生児と表現するのが最も似合う、リンカ・イシュタム。
愛嬌のある雰囲気を纏い、直感的な言葉でエリカとも接するリンカは敬語の類を誰に対しても使うことはない。
それは、両親が他の地方からシカリア王国に逃げてきて、保護を受けた過去が影響をしている。
リンカは身長153㎝とエリサよりも身長は低く、運動神経は抜群だが細身な体型をしていて、ファイブスターナイツの中でも最年少の19歳という若さで五本の指に入る戦闘力を保持していることで知られている。
忍者のように身軽な民族衣装を身に纏い、網タイツを履いた彼女は普段、主に山の中で家族と一緒に暮らしていて、耳と尻尾を持つ珍しい人種だ。
黄色い薔薇を胸に付けてもらい、純真可憐な美しさを持っている彼女もまた、この国で産まれ、シカリア王国の国民になった、正真正銘、ファイブスターナイツの一人である。
エリサがリンカのことを恐れているのはリンカがファイブスターナイツの一員になったきっかけとなった決闘にある。
当時、ファイブスターナイツのメンバーの一人に挑発行為を行い、ファイブスターナイツの座を賭けて行われた決闘でリンカは我を失い、トランス状態となって容赦ない追撃で相手を圧倒した。相手が意識を失い、決着は付いたが、直後に周りが必死になって半狂乱になった彼女を取り押さえる事態になった。
動物的な凶暴性。戦闘時になると感情が昂ぶり、闘争本能が刺激され、狂戦士と化す可能性がある彼女の恐ろしさをエリサは未だ忘れられない。
普段は穏やかで人懐っこい性格をしている一方でそうした恐ろしい一面があることを、彼女を知る者であれば覚えていなければならない。
「山の中からリンカを捜し出すのは苦労しましたよ。次に集まる時は、誰か他のメンバーを頼ってもらえますか」
僅かばかりの威圧感を込めてリンカに訴えかけるオリビア。
南地区の山々で暮らすリンカはメンバーの中で王宮から最も遠い場所で暮らしているため、度々、こうした苦労を各地を歩くオリビアが背負わされることがある。その度にオリビアは獰猛な野生動物が出現することもある山の中を捜索させられてしまっていたのだ。
「もう! リンカのことを厄介者みたいに言わないでよっ!」
「仕方ないですよそれは。山に籠ったら数か月山から下りて来ないことだってあるんですから。王国の治安維持に支障をきたします。定期的な作戦会議には欠かさず参加するようにしてくれないと」
「だって……。みんなと別れるのは少しの間でも寂しいんだもん」
山の中で暮らしているリンカは多くの動物達と心を通わせ、自然を愛する一人。山に籠っては訓練と称して長い期間、修行を行っている。
そうして鍛え上げられた身体能力は戦闘でも生かされ、野性的なカンを駆使した瞬発力のある速攻は多くの犯罪者を捕らえるのに活躍しているのだった。




