第十一話「百合の花園」2
やがて、メイド服を着たウェイトレスがやって来ると、各々好きな物をメニュー表から選び、注文を済ませた。
薔薇に囲まれたカフェは蝶々が舞い、明るい陽射しが差し込み、外界から閉ざされた異世界のように雑音がシャットアウトされ、神聖な空気が漂っている。
「コロちゃんの分はこっちね。プリンちゃんの分と一緒に用意して来たから」
エリーは自家製のペットフードを取り出し、お皿に盛り合わせると地面に置いた。それを見て、エリサの身体から離れるコロ。
チュチュンと鳴き声を上げ、ペットフードにまっしぐらに向かって行った。
コロはエリーがプリンちゃんと呼んでいる愛玩動物と一緒に並び、食事を始めた。
プリンは貝殻に籠る蝸牛のような生物で形状は御餅によく似ていて、桜色をしていて見た目の可愛らしさから一部の人に愛されている個体数の少ない珍しい動物だ。
「ありがとう、エリーさん」
「自然に囲まれながら食べる食事は格別だと思うから。この子達にも味わって欲しいなって思って」
花咲く明るさで笑顔を浮かべ、そう返事をするエリー。
食欲がなくなった時でも、エリーの作ったペットフードだけは良く食べてくれた経験を持つエリサはとてもエリーのことを信頼しているのだった。
コロとプリンが夢中になって食事を始める姿に安心したエリサは、ファイブスターナイツのメンバーと同じように、クオンと一緒にメニューを眺めて注文を済ませ、商品が到着するのは楽しみにしていた。
「エリサ王子。私とプリシラ、エリーはこの前にもお会いしましたが、オリビアとリンカは久しぶりにお会いになるのではないですか?」
「そういえばそうだね。二人と会うのは新年の挨拶の時以来かもしれないね」
赤い薔薇を胸に付け、白いスーツにパンツルック姿でやって来た王子様のような格好をしたディオーナはエリサに二人とは暫く会っていないことを確かめた。
新年の挨拶の際にはファイブスターナイツは勿論、王立警護隊の殆どの隊員が王宮に集うことになる。
その場で第一王子であるエリサはオリビアとリンカと言葉を交わした記憶がしっかり頭に残っていた。
「自分は一箇所に留まることを好みません。王国に仇名す危険の芽を摘むべく、各地を転々としていますから。なかなか王子と会う機会には恵まれていませんね」
眼鏡を掛け、褐色肌をしたオリビアは静かに穏やかな声色で王子を見て答えた。
オリビア・メルーシェス。冷静沈着で感情の起伏に乏しい彼女はクールで計算高い、優秀な戦術予報士としてファイブスターナイツの一員を女王から任されている。
馴れ合いを好まない性格でこうしたお茶会のような交流会にはほとんど顔を出すことなく、年中、王立警護隊の任務と向き合っているような女性だ。
そこに強い熱意があるかは本人のみが知るところで定かではないが、彼女の存在によってこの国の治安は維持されていると言っても過言ではない程、現場で活躍を続けているファイブスターナイツの一人なのだ。
肉体の線は細く、それほど鍛えられていない為、か弱く見えるが彼女は参謀役としてサポート役に徹することが多く、それは問題にはならない。
個人としての戦闘能力は他のファイブスターナイツには劣るが、戦術予報士として必要不可欠な人材である。
「本当にそうですね。日々の任務ご苦労様です。オリビアさんのことは女王も信頼を置いています。これからもご活躍を期待しています」
他のメンバーよりも心の距離があり、思考の読めないオリビアに対しては少し神経を使い、エリサは場違いと思いながらも労いの言葉を掛けた。
「女王様には感謝しています。ファイブスターナイツとして自由な権限を与えて下さっていますから。それに自分は退屈と異分子を嫌います。必要としてくださっている以上は向かう先が戦場であっても構いません」
生死を巡る戦場へ向かうことに対して、恐怖心を抱くことなく淡々と言葉を続けるオリビア。その冷たい情熱が籠った言葉を聞けば聞くほど、異分子と見られて仕方ないクオンは恐れを抱き、身震いしそうになるのだった。
「オリビアは日頃開かれる作戦会議には参加するが、訓練には積極的には参加しないからな。私もそれほど会う機会は多くない。王宮よりも現地で会うことの方が多いくらいだ」
王立警護隊にはなくてはならない存在とはいえ、オリビアに会うために、人づてに居場所を聞き、捜し歩いた経験のあるディオーナは複雑な表情を浮かべた。




